81億5,000万円をかけた土地買収の契約根拠を非開示――大型開発に関する情報公開請求で、鹿児島市(森博幸市長)が契約の正当性を保証する数字の公表を拒否し、隠蔽姿勢を露わにした。
鹿児島市が情報公開を拒否したのは、市が同市上荒田町のJT(日本たばこ産業株式会社)鹿児島工場跡地を取得した折の「土地評価額」。取引の正当性を証明する重要な数字だが、市は公文書中の評価額を黒塗りにして非開示扱い。評価額算出に関する文書も、HUNTERの記者が追及するまで存在すら認めようとしなかった。
土地取引にうさん臭さが漂う状況だが、市議会は評価額が示されぬままで土地取得を承認しており、チェック機能が働かなかった形。鹿児島市の病状は、かなり深刻と言わざるを得ない。(写真は鹿児島市役所)
土地評価額を黒塗り
問題の土地は、68,926㎡に上る市内上荒田町のJT鹿児島工場跡地。市交通局や市立病院の移転用地として、平成19年に市がJTから買収していた。HUNTERが鹿児島市に公開を求めたのは、JT跡地取得の過程が分かる文書。同地に移転した市交通局に絡む一連の土地取引などを調べるため、3月に開示請求していた。
請求を受けた鹿児島市は、土地購入の協議段階から取得完了までを所管した市企画財政局企画部政策企画課と、その他の実務を受け持った交通局が個別に対応。HUNTERは、文書量が少ない政策企画課保有の文書を、先行取得していた。
政策企画課が開示した文書は、JTとの協議の記録、公共用地取得検討員会検討結果などわずか15枚。そのうち、公共用地取得検討員会の検討結果を記した文書が下の1枚である(赤い矢印はHUNTER編集部)。
土地取得額は81億5,000万円として明記されているが、管財課の土地評価額は黒塗り非開示。これでは、正当な価格だったのかどうか判断することができない。
常識外れの非開示理由 他の自治体はオープン
非開示理由について市は、「当該公文書には、土地の評価額等が記載されており、公にすることにより、本市が行う用地取得交渉等の円滑かつ適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」(公文書一部非開示決定通知書より)だという。だが、この主張はあまりに非現実的だ。
契約金額が明らかになっている以上、取引の正当性を担保する評価額を隠す必要はない。適正価格での取引なら、堂々と評価した数字が出せるはずだ。市が取得する公共用地の価格は、その場所や時代状況によって変わるのが普通。そのために鑑定や評価を行うのだから、今後の事務に支障が出るわけがない。
そもそも、公共用地の土地取得を巡っては、金額はもちろん、役所側の鑑定額、評価額をオープンにするのが常識。どこの自治体も、土地の評価結果を開示するのが普通だ。下は、福岡市が平成24年に民間企業から取得した保育園用地の鑑定評価書。疑惑を招いた土地取引だったが、鑑定評価額は開示されている。
他の自治体の事例を挙げ、評価額を開示するよう要求したが、鹿児島市側は拒否。再度開示請求があっても、評価額をオープンにすることはないと断言する。説明責任の放棄であり、この土地取引の正当性が証明されない状況だ。
鹿児島市が、あくまでも土地の評価額を非公開とするなら、この取引は不明朗。評価額が、契約金額を下回っていた可能性さえある。仮にJT跡地の評価額が60億円、70億円という低い数字だったと仮定すれば、鹿児島市市民は不当な値段で土地を押し付けられたことになる。
関連文書の存在も隠蔽 識者からも厳しい批判
数字は隠しても、評価過程の文書が残っているはず。評価額を算出したという市管財課に該当文書の存在を確認するよう依頼し、市側もそれを承諾していたが、結局その約束も守られていない。
他の自治体ではあり得ない鹿児島市の隠蔽姿勢について、公金支出の透明化に取り組んできた市民オンブズマン福岡の児島研二代表幹事は、次のように話している。
「公共用地の土地取得で、役所側の鑑定評価額を示さないなど、いまの時代にはあり得ないことだ。役所には説明責任があり、可能な限り公金支出の実情を公表すべき。評価額を明示しなければ、市民への説明責任は果たせない。評価額を、議会側にも知らせていないという話が事実なら、チェック機能を果たしていない鹿児島市議会にも問題がある」
行政機関が隠ぺいを行う背景は、「癒着」というのが相場。森市長の市政運営には、闇が広がっていると見るべきだろう。