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聞いて呆れる「県民党」 伊藤鹿児島県知事のお粗末会見

2016年5月26日 08:50

鹿児島知事会見 想像力が欠如した為政者には、住民の安心・安全は守れない――伊藤祐一郎鹿児島県知事(写真)の会見での発言を聞くたび、そう感じる人は少なくないはずだ。
 今月13日の定例会見で熊本地震関連の質問を受けた伊藤知事が、川内原子力発電所への地震の影響を真っ向から否定。不備が指摘される避難計画についても、見直す考えがないことを明言した。
 傲慢が背広を着て歩いているとしか思えないこの知事は、7月に予定される知事選で原発は争点にならないと断定。知事選立候補が予定される人たちを卑下し、事実上の誹謗中傷まで行っていた。

自説押し付け県民軽視
 
会見で、熊本地震を受けて県内から上がった川内原発に対する不安の声への対応を聞かれた知事は、次のように語っている。

 私どもは、原子力発電所の運転は原子力規制委員会の判断といいますか、原子力規制委員会がその問題を所掌いたしまして、科学的、技術的見地からの判断というのが、もちろんベースにあります。そして、いざ緊急の時には新規制基準、原子炉などの重要施設の直下に活断層がないことを確認した上で、原子炉周辺の活断層を評価して、基準地震動等を定めました。これは皆さん方ご案内のとおりです。そしてまた一定の場合には原子力規制委員会が原子炉等規制法の64条において原子炉を停止するような、そういう指示ができるというようなフレームもあります。
 今回の地震をどう評価するかということですが、皆さん方ご案内のように、川内原子力発電所の震源が特定されていないものについては、620ガルの基準地震動で、特定されるものは540(ガル)ということです。そして、安全上重要な設備に全く影響を与えないという、弾性設計用地震動が372ガルという形で、これは専門的にいろいろな数字がありますが、それとの比較においてどうかということではないのかなと思います。
 そして、これも皆さんご案内のとおり、布田川、日奈久(断層)が2つ同時に連動して地震が起こった場合、マグニチュード8.1というのが規制委員会の想定した基準です。そこまでの基準を想定した上で、もしあの2つが同時に地震が起こったとしたら、今回はマグニチュード6.5と7.3でしたが、同時に起こったとしたら、マグニチュード8.1になります。その時の川内原子力発電所においては、100ガル程度と見込まれています。今回は現実的には(マグニチュード)7.3や6.5、実際には8.6ガルということで、設計上の安全に影響を及ぼすようなレベルではなかったと私は考えています。

 結論から先に述べると、知事の話は答えになっていない。熊本地震発生後に懸念が持たれているのは、日奈久断層帯に含まれる「八代海区間」の活断層帯が熊本側から川内原発側付近に向かって数多く散在しており、さらには川内原発付近に「市来断層帯」「甑断層帯」「吹上浜西方沖断層」という三つの断層帯があるためだ(下参照。グリーンの円と赤いゴシック太字はHUNTER編集部)。熊本地震を受けての結果が問われているのではなく、いまある不安をどう解消するかという問題。知事は、原子力規制委員会同様、議論のすり替えを行っているに過ぎない。県民軽視ということだ。

九電資料

 熊本地震では揺れが少なかったかもしれないが、これまで動いていない断層が地震を引き起こす可能性は否定できず、懸念が持たれるのは当然。現在の観測体制で想定外が起こりうることは、熊本地震の「連続震度7」という事実が証明している。神でもない知事が、「大丈夫」と断言できるはずがなかろう。

 そもそも、川内原発での震度が小さかっただけで、熊本地震における震源周辺の地震動(最大加速度)は、驚くべき数値だったことが分かっている。「国立研究開発法人 防災科学技術研究所」(防災科研)の解析によると、4月14日と16日の熊本地震で観測された地震動のうち、上位10か所の数値は次の表の通りだ(防災科研のデータより)。

防災科学研究所2-1.jpg 防災科学研1-1.jpg

 14日の「前震」の地震動は最大の益城町で1580ガルで川内原発の基準地震動620ガルの2.5倍超。次に高かった矢部でも669ガルで、こちらも川内の620を超えている。16日の「本震」における各地の地震動は、益城=1362ガル、宇土=882ガル、熊本=843ガル、矢部=831ガル、菊池=800ガル、砥用(ともち)=778ガル、湯布院=723ガル、小国=687ガル、大津=669ガルと、ほとんどの地点で川内の620を超える数値を観測している。原発近くの断層が地震の発生源となった場合、同じようなことが起こる可能性は十分にあるのだ。鹿児島に地震が来ないという保証など、地震学者も規制委もできないというのが現実だろう。

 知事の傲慢さは、次の発言でも顕著だ。「熊本地震のような事態というのは薩摩川内市の周辺ではまず起きないというふうに見ているのか」と聞かれてこう答えている。

 起きないと思います。布田川、日奈久というのは、歴史上、中央構造帯、何回も地震が発生しています。では鹿児島であれだけの地震が発生したかというのは、文献上ありますか?あの地域においては、ないですよね。かつて与論に行ったら、あそこは1番高いところは96メートルですが、それに近いものがきたというは、1700年代と聞きました。少なくともあの地域においては、そういうような地震発生というのは今まで文献上もないので、まずはそこで少々安心です。
 布田川、日奈久のように頻発する、130年前がマグニチュード6.3でした。その時は、熊本城がグラッときたけど大丈夫でした。今回はマグニチュード7.3ですので、ログ計算しますので、32倍ですか。32倍のパワーが発生して一気に今回は熊本城までが損壊したという状況ですので、今のところはそんなに緊急性は私は感じなくていいのかなと思います。
 それと、川内のほうもいったん何かあったら、160(ガル)で原子力発電所は自然停止するようになっていますので、そうなると何かそれに伴って福島のようなものが発生する可能性は、私はほとんどないと思います。

 論旨は不明確。与論と比較する意味はなく、川内原発で事故は発生しないという証明も、まったくできていない。≪130年前の地震でグラッときただけの熊本城が、今回は損壊≫――知事の話は「想定外」が起きたことを示しているのに、≪だから緊急性はない≫というのだから、どう考えても矛盾。ログ計算がどうのと言っているが、熊本で130年前の32倍のパワーを持つ地震が起きたからこそ、緊急性があるのだ。突っ込めない記者団も情けないが、知事の主張はお粗末すぎて話にならない。

 川内原発の危険性を否定するだけの根拠を持ち合わせていないため、避難計画見直しの意思を尋ねられた知事の答えも酷いものだ。 

 今のままのケースにおいては、熊本のようなケース、例えば道路が寸断とか何とかというのは、今の鹿児島の断層においては今回の布田川、日奈久(断層)が動いても全く鹿児島の公共施設等は影響を受けませんでした。市来断層が動いたときにどうなるかということは考えないといけないと思いますが、今のところ緊急の対応として、そういう避難計画等の見直しや例えばUPZ(緊急時防護措置を準備する区域)等の避難態勢の見直しとかは、今のところ特に川内原発においては想定しなくてもいいのかなと思います。

 想像力の欠如も、ここまで来れば病気だ。これまで報じてきた通り、県主導で策定された自治体ごとの避難計画は「机上の空論」。実効性がないことは、ほとんどの県民が気付いている。例えば、原発の過酷事故の場合に期待が持たれていた「バス」を利用した住民避難。県は、原子力災害を見越して鹿児島県バス協会と「協定」を結んだが、同時に結ばれた運用細則の内容から、バス運転手が浴びると予想される放射線量が「1ミリシーベルト以下」の場合にしか動かないことが明らかになっている。この規定に従えば、過酷事故でのバス派遣は不可能。協定自体が有名無実となり、バスが来るものと信じ込まされてきた県民は、伊藤県政にだまされた格好となっている。避難計画見直しを想定するとかしないとかの問題以前に、この知事には想像力もやる気も能力もないということだ。

苛立つ知事、立候補予定者を卑下
 
自分の低レベルな答弁に苛立ったのか、知事選のことを聞かれた知事は、予想される対立候補のことを誹謗中傷。3期を務めた県政トップとは思えぬ姿をさらけ出していた。

 知事選マターを話すつもりはありませんが、原子力発電所の関連ですので、私の理解では噂される候補者は原発を止めると言っていません調査点検しなさいとしか言ってない、県民がそれを望んでいるから。調査点検はすでに終わっています。規制委員会も太鼓判を押していて、そのとおりにやっています。それも皆さん方ご案内のとおりです。規制委員会のホームページないし、九州電力の公表資料で十分わかります。原発を止めると言っておられるというのは、アドリブみたいなところでは出てきているようですが、我々のほうに持って来られた文書には、その文言は入っていません。  したがって、先ほどから数字できちんと説明しましたが、その数字が頭の中に入ってそういう主張をされているのかどうかということではないのかなと思います。

 現在、知事選への立候補を表明しているのは3人。知事のほか、元テレビ朝日コメンテーターの三反園訓氏と、県労連事務局長の平良行雄氏だ。三反園は脱原発、平良氏は稼働停止と原発に対する向き合い方に差はあるものの、熊本地震を受けて原発を止めるべきという主張は同じ。知事の方針とはまったく違う姿勢である。もちろん、三反園氏も平良氏も知事が述べた「数字」を理解した上で、原発をどうすべきかを主張しているのであって、知事のような想像力を欠いた発言を行っているわけではない。他者を見下す傾向が年々強まった独裁知事だが、象徴的なのが、原発が知事選の争点になるかと聞かれての次の答弁だ。

 争点にはならないです。私は何も書きませんので、安全運転を求めますとしか書かないので、前回のように再稼動させるという文言は出てきませんから。あちら様がどうなさるかは別です、何人かいらっしゃるようですからその方々はその問題を1つのテーマとしてお話されるでしょう。私のほうは何もそこについては触れるつもりはありません。

 争点になるかどうかは、有権者が決めること。現職知事が、なる、ならないを断言すること自体間違いだ。「あちら様」「その方々」――完全に他の候補者を卑下した表現であり、知事の人間性がにじみ出ている。笑ってしまったのが、自民党県連が公認候補並みの支援をすると決めたことについて感想を聞かれた知事の発言だ。 

私は従来から県民党です

 原発再稼働、薩摩川内市の100億円産廃処分場、鹿児島市松陽台の無駄な県営住宅、上海研修……。反対する県民の声を無視して暴走を続けてきた人が、県民党であるはずがない。伊藤知事は、「恥」という言葉を知っているのだろうか。

 伊藤知事の会見の模様を見た鹿児島市在住の男性公務員は、次のように話している。

 「第一義的に、県民の生命、財産を守るとし、日米両政府に毅然とした態度で臨む沖縄県知事の姿を見るにつけ、自県の伊藤知事の言い訳がましい自己弁護と、県民に寄り添うどころか『我関せず』と県民の声を切り捨てるその姿勢に辟易しています。熊本地震の震源から80キロの所にある川内原発を不安に思い、県民が稼働停止を望むのは至極当然のこと。活断層も火山もすぐ近くにあり、今後何が起こるかわからないのですから。それに対し、「危険性があるとは思えない」との発言は、伊藤知事に想像力も想定もなく、危機管理の「き」の字もないことの証左です。まさに知事不適格者です」



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