今月14日に震度7の揺れが発生して以来、終息の気配さえ見せぬ熊本地震。改めて防災の重要性に注目が集まっているが、地震が招く原子力発電所の事故に対しては、いずれの自治体も無防備に等しい。
九州一の大都市である福岡市は、市域の一部が玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)から約37キロ、60キロ圏内に、ほぼ全域が入る位置にある。
国が定めた緊急避難の基準は、放射線量が500マイクロシーベルトを超えた場合。だが福岡市は、そうしたケースに即応する態勢が整っていない。福岡市と福岡県への情報公開請求によって、福岡市内には高線量を測定可能なモニタリングポストが1基も設置されていないことが分かった。
(写真は玄海原発)
熊本地震で注目される玄海原発の危険性
玄海原発の周辺にも活断層は存在する。下は、新安全基準に従って玄海3、4号機の審査を行っている原子力規制委員会に対し、九州電力が提出した資料(「玄海原子力発電所 地震について(概要版)」に示された活断層だ。
玄海原発を中心とする半径30キロ圏だけでも、次の九つの断層帯があるのが分かる。
・竹木場断層
・城山南断層
・真名子-荒谷峠断層
・楠久断層
・国見断層
・今福断層
・糸島半島沖断層群
・F-h断層
・鉾ノ木山リニアメント
さらに半径を長く見たのが下の図。40キロ圏内なら、長大な佐賀平野北縁断層帯、日向峠-小笠木峠断層帯が存在している。
市役所、高線量測れず
周辺は活断層だらけと言っても過言ではない玄海原発。「想定外」の地震が襲った場合、福島第一以上の被害が予想されているが、大都市福岡の市長は防災への意識が低いらしく、満足な備えは行っていない。福岡市は、緊急避難の基準となる線量500マイクロシーベルを常時監視できる独自のシステムを整えていないのだ。
放射性物質のモニタリン体制を確認するため、福岡市に対し保有する線量計の資料を開示請求したところ、固定型のモニタリングポストはなく、下にまとめた9台の線量計しか保有していないことが分かった。( 注:BGとはバックグラウンド。日常のなかで存在する自然放射線のこと)
福岡市中央区にある福岡市役所内には、500マイクロシーベルトを測定できる機材は皆無。市民局と環境局が保有する計3台の線量計は、30マイクロシーベルトまでしか測れない機材だった。消防局保有の6台のうち4台は高線量を測定できるが、設置型ではなく可搬型。常時、放射線量を測れる機材ではない。モニタリングは県の所管事項とはいえ、政令市福岡の備えはお粗末というしかない。
福岡県 ― 福岡市内の1基は低線量向け
それでは、頼みの福岡県の緊急時モニタリング態勢はどうなっているのか――。県に情報公開請求し確認したところ、保有しているのは設置型18基、可搬型40台。18基の設置型の中で、緊急避難の基準となる500マイクロシーベルトを測れるのはわずかに9基しかなかった。県は、そのすべてを玄海原発30キロ圏内の糸島地区に配置している。
福岡市が避難計画の対象としているのは西区の一部だが、モニタリングポストは未設置。同区内にある県福岡普及指導センターに、75マイクロシーベルトまでしか測定できない可搬型の線量計を配備しているだけだ。結局、福岡市内の設置型線量計は、市内博多区にある県庁敷地内の一か所のみ。しかし、その機材は10マイクロシーベルトまでしか測れないもの。福岡市内で緊急避難の基準となる500マイクロシーベルトを測定可能なモニタリングポストは1基もない状況となっている。
お粗末すぎる福岡市の原発事故対策
住民の安全確保を無視したモニタリング体制の背景にあるのは、緊急防護措置区域(UPZ)を30キロ圏に限定し、議論を矮小化させる国や地方自治体の姿勢。 いったん原発に過酷事故が起きれば、30キロという区切り自体がナンセンスであることは福島第一原発の事故が実証済みのはずだが、高線量用のモニタリングポストはいずれの自治体でも30キロ圏に集中。それ以外の地域は、見捨てられた存在となっている。
福岡市の説明によれば、市内で放射線量が500マイクロを超えた場合、県がモニタリング結果を原子力規制委員会に報告。福岡市への連絡は、規制委からになるという。間に規制委が入ることで、初動が遅れるのは確実。福岡市民への情報提供が、いつになるのか分からないというのが実情だ。これでどうやって市民を守れるのか?
ちなみに、平成26年4月に市が策定した「福岡市原子力災害避難計画」(暫定版)には、緊急避難時の対応について次のような記述がある。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
こうした楽観論が、災害被害を拡大させたケースは枚挙に暇がない。その最大のものが、原発の「安全神話」だったはずだ。