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警固断層の真上で「天神ビッグバン」
地震リスク無視する福岡市政

2016年4月20日 09:10

 今月14日に熊本地方を震源とする震度7の地震が発生してから6日。震源域は拡大する一方で、九州地方の揺れは収まる気配を見せていない。
福岡市役所 一連の地震で改めて注目を集めることになったのが「活断層」。今回の発生源は≪日奈久(ひなぐ)≫、≪布田川(ふたがわ)≫、≪別府-万年山(はねやま)≫の各断層とされるが、「知ってはいたが、この時期に大きな揺れを引き起こすことなど考えもしなった」(熊本市・40代男性)「まったく意識していなかった。ここ(熊本)で地震とは……」(熊本市・50代主婦)というのが多くの人にとっての実情。震度7を経験するのが初めてだったことでも分かるように、九州地方は身近な活断層に潜む危険性に無頓着だったのかもしれない。
 九州一の大都市福岡には、日奈久や布田川以上に危険とされてきた活断層があるのは周知のとおり。福岡市のど真ん中を走る「警固断層」と、その脇に横たわる「宇美断層」について検証した。(写真は福岡市役所)

「警固断層帯」と「宇美断層帯」の危険性
 警固断層帯は、玄界灘から博多湾を経て福岡平野に延びる約55キロほどの活断層帯。福岡市東区にある志賀島の北西沖から博多湾、さらには同市中央区、南区、春日市、大野城市、太宰府市を貫き筑紫野市に及ぶ。2005年の福岡県西方沖地震の折は、北西延長上の玄界灘でマグニチュード7.0の地震が発生した。下は、政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会が公表している活断層評価で示された警固断層帯の位置図だ。

警固断層.png

 一方、宇美断層は、福岡県糟屋郡須恵町付近から筑紫野市付近までの長さ約13キロほどの活断層。下が、地震調査委員会の公表資料にある宇美断層の位置である。

宇美断層

 地震調査委員会は断層ごとの再評価を随時行ってきており、警固、宇美の両断層についても予想される地震の規模や発生確率を公表している。それをまとめたのが下の表だ。

警固、宇美断層帯

 警固断層も宇美断層も、予想される地震規模はマグニチュード7から7.7の範囲。熊本地震の規模とほぼ同じか、それ以上となっている。日奈久断層帯で、50年間に地震が発生する確率とされていたのがO~10%、布田川のそれは0~1%。警固の「0.3~9%」はかなりの高率であることが分かる。宇美断層の地震発生確率は「ほぼ0%」となっているが、今回起きた一連の地震のなかで「別府-万年山」の確率が0~7%だったことを考えると、あてにしない方が良さそうだ。事実、地震調査委員会も評価書の中で『宇美断層においては、過去の断層活動について精度の良いデータが得られていないため、地震発生確率の信頼度は低い。したがって、最新活動時期の絞り込みや平均活動間隔など、過去の断層活動に関する詳細なデータを集積する必要がある。また、宇美断層から発生する地震の規模を正しく評価するため、重力異常や地質断層に基づいて推定された北西延長部において、詳細な調査を行い、活断層の存在の有無を確認し、活動性を明らかにする必要がある』と述べている。

 前述した通り、警固断層帯は福岡県西方沖地震の発生源。宇美断層を巡っては、今年3月5日に福岡市周辺を揺らした地震の震源が、人工島直下だったことが気象庁の公表データから判明。そこが、宇美断層の延長部分ではないかとの観測が広がっている。

「天神ビッグバン」にはしゃぐ愚かな福岡市
 福岡市はいま、天神地区の再開発計画「天神ビッグバン」とやらで皆がはしゃいでいる最中だ。市役所だけでなく、経済界も大手メディアも、高島市政が推し進める大型プロジェクトを賛美する姿勢。2024年までの10年間でビル30棟の建替えを誘導し、新たな空間と雇用を創出するのだという。対象地域は、「西鉄天神駅」のすぐ先にある天神交差点から半径500メートルの範囲となる約80ヘクタール。福岡市が公表した「天神ビッグバン」の説明資料では、次のように示されている。(赤い矢印と青字の駅名はHUNTER編集部)

天神ビッグバン

 ここで、前掲した警固断層の位置図から天神部分だけを拡大してみると、次のようになる。

警固断層 天神2

 天神ビッグバンの対象地である中央区天神は、タテに走る警固断層の真横かもしくは直上にある格好。危険と隣り合わせの、もっとも再開発にむかない場所であることが分かる。高島宗一郎市長は、自らが描いた特区絡みの未来図に酔いしれ、活断層の怖さを計算に入れることができていない。九州の活断層に注目が集まれば集まるほど、地震リスクを知った国内外の企業が警固断層に寄り添う形の天神進出に慎重となる可能性は高い。市民の安全確保を考えるなら、天神一極集中は絶対に避けるべき。天神ビッグバンをもてはやすばかりの大手メディアも、真剣に活断層の検証を行うべきだろう。

 最近になって危険性が指摘され出した宇美断層も、福岡市にとっては脅威に違いない。下の図、黒い帯が断層だが、先端は海側に延びていると見られている。

宇美断層 人工島1

 断層の先端は市内東区の人工島=アイランドシティ。そこに、こども病院や青果市場を移転させたのは高島市長だ。今後は、200億円もかけて総合体育館を建設することになっているが、地震リスクは徹底的に無視されている。

 「最新のビルは免震」――そうした言い訳が聞こえてきそうだが、人が多く集まればパニックが起きるのは必定。福岡に、渋谷や新宿の混雑を持ち込む必要はあるまい。高島市政の天神ビッグバン構想は、地震に対してほとんど無防備。「圧倒的福岡時代」(市長の造語)などと浮かれている場合ではない。



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