政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

熊本・大分地震 活かせぬ国の活断層評価

2016年4月18日 08:30

 活断層 九州-2.png14日はマグニチュード6.5で震度7、16日にはマグニチュード7.3で震度6強の地震が熊本県を襲った。震源は大分県側に延びており、一連の地震で18日までに死者42 人、重軽傷者1,000人超の人的被害。熊本市のライフラインはズタズタとなり、益城町は壊滅状態となっている。熊本、大分の両県で避難を余儀なくされている人の数はおよそ11万人。九州地方では、かつて経験したことのない自然災害である。
 地震を引き起こしたと見られるのは、日奈久(ひなぐ)、布田川(ふたがわ)、別府-万年山(はねやま)の各断層。地震予知が困難であることを思い知らされた形だが、国はこれらの断層について、どのような評価をしていたのか検証した。
(右は、政府・地震調査研究推進本部の公表資料より)

頻発する大地震、複数の活断層が原因
 14日から続く地震のうち、震度6以上のものは以下の通りすでに7回。16日には震源域が東に延びて、阿蘇、さらには大分県でもそれぞれ震度6、震度5弱の揺れを記録している。

主な地震.png

 気象庁は、当初14日に発生したマグニチュード6.5の地震を「本震」と断定。その後に起きるものを「余震」と表現していたが、16日未明にマグニチュード7.3の地震が発生。終息するどころか、被害が拡大する結果になった。「前震」となった14日の地震は「日奈久断層帯」、本震とされる16日の地震は「布田川断層帯」が引き起こしたと見られている。

「日奈久」、「布田川」、「別府-万年山」各断層の概略
 日奈久断層帯は、その北端において布田川断層帯と接し、今回の地震で甚大な被害が出ている上益城郡益城町付近から葦北(あしきた)郡芦北町の八代海南部に至る活断層帯。高野-白旗区間、日奈久区間、八代海区間の3区間に分かれている。
 布田川断層帯は、阿蘇郡南阿蘇村から上益城郡益城町木山付近を経て、宇土半島の先端に至る断層帯で、布田川区間、宇土区間、宇土半島北岸区間に区分されている。下は、政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会が公表している活断層評価で示された二つの断層の位置だ。

断層帯 日奈久布田川全体.png

 一方、16日にマグニチュード5.3の地震を引き起こしたとされるのが「別府-万年山断層帯」。大分県東部の別府湾の海底から大分県西部にかけて分布しており、「別府湾-日出生(ひじう)断層帯」、「大分平野-由布院断層帯」、「野稲岳(のいねだけ)-万年山断層帯」、「崩平山(くえのひらやま)-亀石山断層帯」に区分されている。下は、地震調査委員会の公表資料で示された同断層帯の位置だが、東側の先端が近畿地方にまで延びる中央構造線断層帯につながっているのが分かる。

断層帯 別府.png

はずれた発生確率「0%」
 それでは、国の地震調査委員会は以上の断層について、予想される地震の規模や発生確率をどう評価していたのか――。公表されている「九州地域の活断層の長期評価」に基づき、一覧表にした。 

断層帯1-1.jpg

 布田川断層帯も日奈久断層帯も、予想される地震の規模はマグニチュード6.8から8.2。今回、それぞれの断層が引き起こした地震の規模がそれぞれ6.5(14日)、7.3(16日)。予想は当たっている。しかし、日奈久断層帯の地震発生確率は30年予想で「0~6%」、50年予想なら「0~10%」。この数字を見て、近々に大地震が起きると考える人は少なかっただろう。布田川断層帯の地震発生確率は、30年以内で「0~0.9%」、50年以内でも「0~1%」。この断層帯が本震を引き起こし、大惨事を招くことなど、誰も想定していなかったと見るのが普通だ。大分県でマグニチュード5.3の地震を招いた「別府-万年山断層帯」(別府湾-日出生断層帯)に至っては、発生確率0%。国の地震発生確率予想には、ほとんど意味がないことが分かる。

 結論から述べるが、現時点で地震予知は不可能。国の発生確率予想や、学者の言い分を真に受けていれば、自分や家族の身は守れないということになる。

川内原発付近に三つの活断層 ― 国が否定していた九電調査結果
 ちなみに、川内原子力発電所(薩摩川内市)の近辺には活断層が複数。「市来断層帯」「甑断層帯」「吹上浜西方沖断層」だ。公表された地震調査委員会の資料によれば、「市来断層帯」のうち、従来「五反田川断層」と呼ばれてきた陸上部分が、大幅に西の海上側に延びており、甑海峡中央区間の断層と交わる形となっている。地震の規模は活断層の長さによって変わる。国は、この活断層の地震規模について、《地下の断層の長さなどに基づくと、市来区間、甑海峡中央区間、吹上浜西方沖区間のそれぞれが活動した場合、市来区間ではマグニチュード(M)7.2 程度、甑海峡中央区間ではM7.5 程度、吹上浜西方沖区間ではM7.0 程度以上の地震が発生する可能性がある》としている。川内原発の危険性が高まるのは言うまでもない。

川内原発 活断層.jpg

 20130322_h01-03.jpg川内原発付近の活断層評価を巡っては、地震調査研究推進本部地質調査委員会長期評価部会の分科会が九州電力の『川内原子力発電所敷地周辺・敷地近傍の地質・地質構造(補足説明:その2)』(右がその表紙。平成21年国に提出)の調査結果を真っ向から否定。九電策定の活断層評価について「解釈はとにかくひどいものである」と酷評した上で、「最もひどいのは、地表面(海底面)にまで断層変位が及んでいるにも関わらず、断層の存在を全く無視していることである」として、未公表の断層があることまで指摘していた。

 九電の杜撰な調査結果は、新規制基準に基づく原子力規制委員会の審査でも問題視され、地震調査員会の指摘を重視した規制委は、九電に活断層評価の修正を命じた経緯がある。一番信用できないのが、九電ということか……。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲