熊本地方で14日から続く一連の地震を受け、改めて注目が集まっているのが原発の是非や災害避難の在り方。とくに、市域の一部が全国で唯一稼動中の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)から30キロ圏に入る鹿児島市では、万が一の場合の避難計画について、懸念を抱く市民が増えている。
熊本の現状に危機感を持ち、鹿児島市に原発事故時の避難方法を聞いた鹿児島市在住の男性。返ってきた答えに愕然となったという。
杜撰極まりない同市の避難計画の実態とは……。
(写真は川内原発)
40キロ圏住民の問いに答えられない鹿児島市
原発30キロ圏にある鹿児島市郡山地区から車で約15分。原発の40キロ圏付近に位置するところに、県が開発を進めてきた松陽台町がある。県住宅供給公社が販売した「ガーデンヒルズ松陽台」の土地を買った地元住民の反対意見を無視して、伊藤県政が県営住宅を大増設しているのがここだ。
東日本大震災直後、鹿児島県は一方的に地区計画を変更。戸建住宅による街づくりという方針を放棄し、県営住宅大増設計画を発表した。地元住民は、避難所として利用できる施設がないことを不安視し、県や市に対策を訴えて来たというが、5年経った現在も進展なし。住民は増える一方なのに、小中学校はもちろん、集会場さえ整備されていない。
熊本地震の地震域が次第に南下し、川内原発に近づいている状況。心配になった住民が、鹿児島市役所松元支所に問い合わせたところ、詳細は市危機管理防災課に尋ねるよう言われたという。以下は、記録を提供してくれた松陽台住民と市側のやりとりの概要である。
住民:松陽台町住民の避難場所は、歩いて30分もかかる石谷の仁田尾中公民館で間違いないか?
市側:間違いない。住民:仁田尾中公民館には何人の受入が可能なのか?
市側:40人。長期滞在者向けである。住民:40人?松陽台地区だけでも1,000人はいる。石谷の住民もいる。全然足りない。では、短期滞在者というか一般の避難者はどこに行けばいいのか?
市側:仁田尾中公民館をはじめ、市が指定している避難所は可。住民:松陽台の住民は具体的にはどこに行けばいいのか?
市側:それぞれに判断して、安全な場所に移動していただければよい。住民:具体的な指示は市が出すのか?
市側:市として指示を出すことはない。住民:避難所の指定もなしに、鹿児島市の避難勧告を受けて、市民は、後は勝手に逃げろということか?
市側:……。住民:放射能は人ではないので、原発から30キロの線でピタッと止まることはない。鹿児島市は喜入地区を除いて、ほとんどが50キロ圏内に入ると思うが、郡山の30キロ圏以外の市民はどう逃げればいいのか?避難計画はあるのか?
市側:……。住民:仁田尾に移動するよりも、岩盤は強いし、松陽台にいる方が安全だと思うが。
市側:仁田尾よりも松陽台の方が安全だと思う。住民:わざわざ坂道を上る必要もなく、高低差のない、松陽台に隣接する松陽高校への避難はなぜできないのか?高校によっては、避難所に指定されている所もあるのに、なぜ松陽高校は避難所に指定されていないのか?
市側:鹿児島市には現在240の避難所があり、これ以上増やす予定はない。これ以上は職員を配置できない。住民:職員の都合か?ということは、松元、松陽台は見捨てられるということか?
市側:……。
市側の対応を確認した松陽台住民の気持ちは察するに余りある。鹿児島市は、原発の事故が起きても知らん顔。市民は勝手に避難しろという姿勢なのだ。夫人と子ども二人がいる上、平日は市外の勤務地にいる彼としては、無いに等しい避難計画に不安が募るばかり。他人事のように答える市側の対応に、怒りがこみ上げてきたという。
鹿児島県の避難計画を巡っては、緊急避難時に住民輸送にあたるとされてきたバスが、実際には運転手が浴びると予想される放射線量が「1ミリシーベルト以下」の場合にしか出動しないことが判明。さらに、唯一稼動する予定の鹿児島市交通局の市バス乗務員には、原発緊急避難の運用について何の説明もなされていないことが分かっている。県や鹿児島市の避難計画は、まさに机上の空論。松陽台住民と市側のやり取りで、鹿児島市民が「原発棄民」であることを裏付けた格好だ。