鹿児島県の市民団体「ストップ川内原発! 3.11鹿児島実行委員会」が、10日に告示された鹿児島市議会議員選挙の候補者たちに行ったアンケートの結果は、非常に興味深いものだった。
多くの候補者が、原発再稼働を肯定しながらも避難計画の不備や九電の無責任さを認めるという内容。市民の目を意識したとみえるが、“これまで何をやってきたの”と反問されそうだ。
市域の一部が川内原発(薩摩川内市)の30キロ圏内で、ほぼ全域が60キロ圏内に位置する鹿児島市。市議候補たちは、どんな姿勢を見せたのか――。(写真は川内原発)
実態と違う原発アンケートの回答結果
「ストップ川内原発! 3.11鹿児島実行委員会が、鹿児島市議選の候補者たちに尋ねたのは次の11点だ。
質問1 川内原発が再稼働しました。このことについてどのようにお考えですか?質問2 過酷事故が起こりそうな要因をあげてください
質問3 原子力規制委員会が新規制基準において避難計画の策定を再稼働の要件としていないことに対して、どのようにお考えですか?
質問4 広域避難計画で、鹿児島市が30㌔圏内からの避難者受入れをすることになっていますが、これについてどう考えますか?
質問5 風向き次第では30㎞圏外でも放射能汚染が広がることも考えられますが、鹿児島市民の避難についてどのようにお考えですか?
質問6 要援護者(鹿児島市民)の避難についての課題をお答えください。
質問7 使用済み核燃料について、どう考えますか?
質問8 基幹エネルギーとして原子力発電は必要だと思いますか?
質問9 川内原発事故の責任をとるべきは何処と考えていますか?(
質問10 今後の原子力政策についてどう考えますか?
質問11 4月からの電力自由化に、議員としてどう対処しますか?
質問12 九州電力の免震重要棟を造らない方針について、どう考えますか?
≪川内原発が再稼働しました。このことについてどのようにお考えですか?≫という問いに対する回答結果はこうだ。
次に、≪原子力規制委員会が新規制基準において避難計画の策定を再稼働の要件としていないことに対して、どのようにお考えですか?≫と聞かれた候補者たちは、27人が「避難計画の策定を再稼働の要件とすべきである」と回答。避難計画の策定を「再稼働の要件でなくてよい」とした15人を上回っている。原発は動かすべきだが、避難計画を審査基準に加えるべきと考えている候補者が多いということだ。本当だろうか?これまで、鹿児島の市会議員が、まとまって原子力行政の在り方に異を唱えたという話は聞いたことがないが……。
鹿児島市は、川内原発から30~60キロの圏内。風向き次第で放射能汚染が広がるのは自明の理で、鹿児島市民の避難について聞かれた候補者たちは、なんと30人が「市民全員の避難を考える必要がある」と答えている。「わからない」が9人、無回答が12人。これだけの数が全市的な避難計画の必要性を認めているのなら、選挙結果がどうなろうと、新たな避難計画ができるはずだ。だがちょっと待て、30人の中には現職も多い。鹿児島市議会は、なぜこれまでに鹿児島市の避難計画を見直さなかったのだろう?
鹿児島市が「鹿児島市原子力災害対策避難計画」を策定したのは平成25年11月。計画の対象は、川内原発から30キロ圏内にあたる郡山地区だけで、市内全域を対象としたものではない。しかも、郡山地区の避難住民を迎えに行くことになっている「市バス」の運転手さんたちに確認したところ、「初めて聞いた」「聞いたことがない」「ひょっとしたらとは思っていたが、(交通局から)正式な話はない」「何も聞かされていない」といった反応ばかり。現場の市バス乗務員たちの大半は、災害避難についての詳細を聞かされていないのが現状だ。市は、今日に至るまで、市バスの乗務員に具体的な避難業務について説明したことはない。
人口60万のうち、避難対象の住民は879人(鹿児島市回答)。鹿児島市の避難計画は、そのわずかな市民さえ守れない杜撰なしろものだ。いったん原発に過酷事故が起きれば、30キロという区切り自体がナンセンスであることは福島第一原発の事故が実証済みのはずだが、“市民は勝手に避難しろ”というのが鹿児島市の姿勢。この2年半あまり、鹿児島市議会は不作為を続けてきたのである。
笑いしか出てこないのが、最後の質問に対する候補者たちの態度。≪九州電力の免震重要棟を造らない方針について、どう考えますか?≫と聞かれ、次のような結果を出している。
市民からは冷たい視線
アンケート結果を見た鹿児島市の40代男性公務員は、次のように憤る。
―― 呆れた。これだけ多くの地方政治家が原発に危機感をもっているのなら、市議会としての声が聞こえてきていたはず。しかし、鹿児島市議会が避難計画の見直しや九電への抗議で歩調を合わせたという話など聞いたことがない。原発再稼働に反対してきたのは、一部の市議だけだった。
私の家は、30キロ圏内である郡山地区の目と鼻の先。空間に壁などないのだから、放射性物質は(30キロ圏と)同じように飛んでくる。杓子定規に30キロ地点で区切った避難計画など、何の意味もないのに、市議会はそれをおかしいとも言わなかった。選挙目当ての回答なのは、誰の目にも明らかだろう。
鹿児島市内に住む50代の主婦も、市議候補たちの回答結果には疑問を感じるという。
―― 川内原発で事故が起きた場合、風向きによって鹿児島市がダメージを受けるのは誰でも分かること。危険に晒されるのは私たち市民の命です。ですが、市長や市議会は、県や九電に厳しい注文を付けたことがない。いまある避難計画にしても、実効性があるとは思えません。郡山地区での避難訓練では、道が狭くて大型の避難バスがスムーズに通らなかったという話もあります。市議会は、何もしてこなかった。アンケート結果には、呆れたとしか言いようがありません。
原発は危険、免震重要棟も造るべき――そう言いながら「再稼働賛成」。大丈夫か!?鹿児島市議会。