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隣県大地震でも試合開催 ホークス球団への疑問

2016年4月19日 09:00

 ソフトバンク~1.png14日に熊本県で発生したマグニチュード6.5、震度7の地震。16日にはマグニチュード7.3、震度6強の本震が熊本県を襲った。17日午前までに確認された死者は42人(18日現在44人)。1,000人以上が重軽傷を負うという大惨事となっている。熊本市のライフラインはズタズタとなり、同県益城町は壊滅状態。熊本や、新たな地震が発生した大分の両県で一時は20万人が避難を余儀なくされる事態となった。
 そうした中、プロ野球の人気球団「福岡ソフトバンクホークス」が、17日に東北楽天イーグルスとの試合を開催した。地震被害が拡大する状況で試合を強行したホークスの姿勢に、様々なご意見が寄せられたのは言うまでもない。
 九州で唯一の球団として愛されてきたホークス球団の判断は、正しかったのか――。

余震続く中、17日に試合開催 
 楽天戦が行われた17日午前の段階で、熊本県を中心に福岡、佐賀、大分、宮崎の4県を加えた被害状況は次のようになっていた。
・死者41 人
・重傷者202人
・軽症者883人 
 家屋倒壊、半壊、一部破壊は数知れず、熊本では市民病院をはじめ複数の病院が倒壊もしくは機能停止となった他、宇土市役所も建物が半壊し危険な状態に。熊本空港は閉鎖、九州道は陥没事故で通行不能となっており、九州新幹線も脱線事故の影響で、全線が運転休止となっている。

 ライフラインもズタズタになった。17日午前の時点で、停電7万1,900戸(九電発表)、都市ガス供給が10万5,000戸で停止。さらに、水の都として知られる熊本市で、水道が出ないという非常事態となっていた。避難者は、熊本、大分で一時20万人を超える状況。こうした中、ソフトバンクホークスは16日の楽天戦を中止。しかし、17日は一転して午後1時から試合を開催していた。

問合せ対応は「報道」に限定
 熊本が苦しむこの状況で、なぜ隣県福岡のプロ野球球団が、万単位の観客を集めて試合なのか?HUNTERの記者ならずとも、違和感を覚えた人は少なくなかったはず。被災地熊本の人たちはなおさらだ。17日にホークスが「試合日程を公表した後、これを疑問視するメールが何通も送られてきた。

 災害時のイベント自粛については、東日本大震災の折も議論になった。どこまで自粛すればいいのか、イベントを主催する側も難しい判断を迫られる。ホークスも、十分に検討した結果16日の試合を中止し、翌17日の楽天戦を開催したはず。“直接球団に意見をぶつけては”と返信することも考えたが、ホークスのホームページを開いて、それができないことが分かった。

ソフトバンク.png

 上は、球団のホームページの画面。試合を開催することを発表しているが、球団側が問い合せに応じるのは報道関係者だけ。「一般の方からのお問い合わせにはお答えしかねますのでご了承ください」とある。球団が公表している代表電話は、つながらない状態に設定されていた。もちろん、広報の電話は非公開。マスコミの取材には応じるが、一般市民の話は聞かないという姿勢だ。

球団側の主張とは
 やむなく広報に電話を入れ、17日の試合を開催した意図について聞いたところ、1時間ほどして球団広報から連絡があった。以下、球団広報とのやりとりの概要。


記者:熊本の読者から、きょうの試合開催について疑問視する意見が寄せられた。球団に電話したが、つながらないということで、取材の形で球団側の考え方を聞きたい。議論があることろだが、なぜ、このタイミングでの試合開催か?
広報:前提として、我々は興業、野球をする―野球を見ていただくという仕事をやっている。基本的には、プロ野球という使命からも、できるならば野球をやらなければならないと思っている。

記者:プロ野球の使命として?
広報:その通り。もちろん、被災地の方々のことを心配しているし、我々も義援金だの募金だのとやっている。基本的に、今朝においては福岡近辺の道路交通事情が回復している、ということを前提で開催ということを決めさせていただいている。

記者:福岡近辺の道路交通事情が回復していると……。
広報:そうです。きのう開催しなかった理由も、朝の時点で西鉄電車であるとかバスであるとかの交通が機能していないかったこと。さらに、集中豪雨が予想されたので、興業をやってしまった後、夕方のお帰りいただくお客様の足の確保が難しかろうということで中止を決めさせていただいた。きょうに関しては、そういうご来場いただく方のご案内が確保できたという前提で開催させていただいた。

記者:昨日の中止には、被災地への配慮という意味はないのか?
広報:そうですね。

記者:九州全域、熊本にもファンは多いと思うが、この被災状況を考慮しないのか?
広報:先ほど申し上げたように、野球をやっている球団なので、野球をやるということ以外でメッセージを送れる方法はないだろうと。選手も、金曜日の興業で内川がヒーローインタビューにお答えしたように、やはりこうやって野球をする姿でエールを送り続けるということしか、我々にはできないと思っている。

記者:東日本大震災の時にも、議論があったところだが……。
広報:あの時は、楽天球団の本拠地が使えなかったという事情があった。議論の中で、野球をする姿をお見せすることに、価値があるという形でやらせていただいた。もちろん、被災された方々の中には『我々がこんな思いをしている時に野球なんて』と思われる方もいらっしゃるだろうし、逆に『今日やっていただいて、本当に力になります』というご連絡であるとかも、SNSなどで数多くいただいている。
 もちろん、皆さん全員に納得していただく方法はないと思っている。もし興業を中止したとしても、『あなたたちはプロ野球選手なのに、プレーする姿でエールを送るべき(じゃないか)』と。ましてや先週は熊本で試合しており、非常に大勢のファンの方がいらっしゃった。『こういう時だからこそしっかり試合して皆を元気づけてほしい』と(言われるのではないか)。また(試合の)相手も楽天球団で、プレーする姿で被災者を励ましてきた球団であり、楽天さんも(ホークス球団も)、こういう形でしっかり仕事を全うして、それを楽しんでいただく、ひと時でも嫌な思いを忘れていただくというのが、我々にできることだと思っている。もちろん、これが絶対的な正解ではないが、我々は野球というものを開催して、それを見ていただいて、皆さんにひと時楽しい思いをしていただくというのが使命だと思っている。

記者:福岡でも震度5を観測した日があったが、その点についての安全確保には自信があるということか?
広報:基本的には、ドーム球場は耐震構造。想定外ということはあろうが、一定の耐震性能があると自負している。

記者:ヤフオクドームは、どの程度までの地震に耐えられる設計か?
広報:7強以上となっている。ドーム球場は災害時の避難場所にも指定されているほどだ。

記者:(筑後での)3軍の試合は中止されているが?
広報:先方(のチーム)が陸路、バスでお越しだったので、交通に支障が出て帰れないということになると、独立リーグのチームなので、平日は普通に仕事をしている選手が多い。足止めが長くなると、ということもあり、リーグと相談のうえで(中止を)決めた。


 ホークス球団側の話を要約するとこうだ。
・プロ野球球団と選手は、野球をやることが使命。野球をする姿を見せることで、被災地にエールを送ることしかできない。
・試合を開催するかどうかは、観客の足が確保できるかどうかで判断する。
・災害被災地に考慮して、試合を中止する考えはない。
・3軍戦の中止は、相手チームの選手の事情を考えてのことだった。

 主張は明快。なるほど、と思える部分もある。試合開催を望む熱狂的なファンが多いことも事実だろう。選手たちの奮戦に、元気をもらう被災者もいよう。だが、それらのプラスを考えたとしても、記者は球団の判断には「不同意」。賛否両論あるだろうが、球団側の言い分には納得できない部分がある。

議論はあろうが……
 最初の地震は14日。その後は「余震」と見られていたところに、16日未明の「本震」が発生している。余震は続き、震源域は拡大する一方。震度5、震度6の地震が頻発するという、九州にとってはかつてない異常事態だ。福岡も揺れている。そうした中、交通アクセスの悪いドームに、数万人の観客を集めるのが妥当な判断とは思えない。判断基準にすべきは、交通事情ではなく、安全か否かではないのか?気象庁は、1週間以内に震度6を超える地震が起きる可能性があると警告を発していたわけで、少なくともその期間だけは、大規模なイベントは避けるべきだろう。

 球団側の主張の中で、もっとも不快なのは、16日の試合中止理由が福岡市内の交通事業悪化でしかなく、被災地への配慮からではなかったという点。隣県熊本の惨状と、試合展開に歓声を上げるドーム内の風景は、どう考えても重なることがない。被災地に対しては冷淡、一方で、3軍の試合に出場予定だった相手チームの選手には「仕事」の都合があるからとの理由で、帰路の心配をしている。興業優先、関係者の生活第一。そこに被災地と向き合う姿勢は感じられない。懸命にプレーすることで被災地にエールを送るというが、地震発生からわずか3日。被害が拡大する中、被災者たちにテレビやラジオで野球を楽しむ時間があるとは思えない。現地取材を通じて聞かされるのは「水がない」「食料が足りない」「食事は屋外」「本当の本震が、来るのではないか」等々の不安を訴える声ばかり。どうやって「エール」を受けろというのだろうか?

 熊本市で17日未明の本震を体験し、危うく家具の下敷きになりかけたという男性は次のように話している。
 「後に「前震」とされた14日の地震の後、家の片付けをし、落ち着いた気分で家の中で就寝した家庭も多かったんです。もちろん私も。(気象庁や報道が)この後は「余震」と言うのだから、最初の地震以上のものは来ないと思い込んでいました。そこを「本震」が襲い、もっと酷い被害が発生したんです。油断でしたが、気象庁には強く抗議したいと考えています。
 今も震度3~5の余震が続くなか、「本震」の教訓から熊本の被災者は、今もなお、警戒を緩めていません。家が倒壊せずとも、避難所や車中泊の生活を続けている。家に入るのは、トイレや食料を取りに行くなど必要最小限度。テレビで野球の試合を観る余裕などあるわけがない。一体、誰へ向けてエールなのか疑問ですね。県外の人には格好の良い話ですが、私たちにとっては「勝手にやってろ」というのが偽らざる心境です」

 なんでもかんでも自粛しろというつもりはない。問題は、イベントの規模だろう。さらに、ホークスは九州で唯一のプロ野球球団。試合中止や開催の理由に、「被災地の状況」が関係ないというのなら、あまりに寂しい姿勢というしかない。プロとしては筋の通った姿勢なのかもしれないが、試合中止が経営上大きなマイナスであることは事実。“そろばんをはじいた”との見方も可能だ。選手を応援する気持ちは、記者もファンと同じ。弱小ホークス時代から、他球団を応援したことはない。そこを割り引いても、記者は今回のホークス球団の姿勢には不同意である。この原稿を書いている最中、福岡市でも地震の揺れ。速報によれば熊本の震度は5強。“試合中は無事だった”は、結果論に過ぎないと思うが……。

(中願寺純隆)



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