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衆参ダブル選 政権が狙う「消費税8%のままで軽減税率導入」

2016年4月 4日 09:15

自民党 衆参ダブル選挙に向けて加速する安倍政権。3年ごとに執行される参院選は別として、任期途中なら解散が前提となる衆院選には大義名分が必要だ。国民の半数以上が改憲に反対もしくは慎重な姿勢で、首相が悲願とする憲法改正の是非を問うのは事実上不可能な状況。是が非でも改憲発議に必要な3分の2を両院で実現したい政権としては、ダブル選向けに、国民を欺くための“表向きの争点”を作り出すしかない。
 前回総選挙で与党が提示した争点は「消費増税の延期」。大勝はしたものの、選挙後に政権が行った安保法のだまし討ちに国民の不信が高まった。さすがに同じ手は通用しそうにない。そこで考え出されたのが、国民の喝さいを受けることができ、ダブル選に難色を示す公明党をも納得させることができる仰天プラン。霞が関や永田町の一部で、驚きの解散戦術が囁かれ出した。

「6月1日」解散へ
 「6月1日解散」 ―― 永田町関係者の間では、会期末の衆院解散とそれに伴う衆参ダブル選挙が既定路線になりつつある。既に衆院では自公合わせて3分の2の議席。わざわざ冒険する必要などなさそうなものだが、任期中の改憲を目指す首相としては、何としても必要なのが参議院の3分の2。圧倒的な数を有する衆院の選挙区候補と連動し、票の掘り起こしを図るしか道はない。

 自民党にとって、ダブル選には別のメリットもある。参院1人区での激戦は必至で、自民党が勝利するためには、野党陣営を分断するしかない。野党による統一候補擁立への動きが全国に広がる現状では、なおさらだ。その点、ダブル選になれば、各党が小選挙区で熾烈な戦いを余儀なくされ、参院選だけ共闘というわけにはいかなくなる。衆参で3分の2を実現するには、ダブル選しか道はない。ただし、共産党は捨て身で安保法廃止を実現する構え。小選挙区で、候補者擁立を見送る考えまで示しており、首相周辺の思惑どうりに事が運ぶかどうかは今後の流れ次第となっている。

消費増税先送りへ地ならし
 ダブル選であれ参院単独であれ、自民党にとって、選挙で最大のマイナス材料となるのが経済の停滞。アベノミクスの失敗を国民が実感し始めたいま、これ以上「もうすぐ良くなる」で国民を欺くことはできそうにない。「三本の矢」も「新三本の矢」も、的にあたる前に失速して落下しているのだ。経済的な恩恵がないと分かれば、有権者は冷淡。裏切られた有権者から、手痛いしっぺ返しをくらうのは、旧民主党も自民党も学習済みだろう。そうなると、安倍政権がまくエサは一つしかない。

 前回の総選挙、政権は、消費税10%への引き上げを先送りすることの是非を問うた。増税が延びるのだから、国民としては悪いことではない。“戦争への道”を歩み始めていることに気付いていた有権者もコロリと騙され、「一強」現出に一役買ったのは周知の通しだ。政権が、再び柳の下のどじょうを狙いたくなるのは当然だろう。しかし、「リーマンショックあるいは大震災級の事態にならなければ(消費税を)予定通り引き上げる」と公約したのは安倍首相。批判をかわすため、先月から、増税延期に向けての地ならしを始めていた。

 安倍首相が頼ったのは、「憲法を押し付けた米国」(首相の主張)の学者。3月に国際金融経済分析会合を3回開き、このうち2回にノーベル経済学賞を受賞した大学教授を招いていた。3月16日に米コロンビア大のジョセフ・スティグリッツ氏を、22日にはポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大教授を官邸に招き、話を聞いている。両人の提言ほぼ同じ内容。増税延期と財政出動の強化だ。クルーグマン氏は前回総選挙の直前にも安倍首相に招かれており、この時も増税延期を助言して、首相に選挙の大義名分を授けた形となっていた。結局、今回は学者の数が一人から二人に増えただけ。念には念ということなのだろうが、≪学者の言を容れて増税延期⇒国民の信を問う≫という構図であることに変わりはない。二番煎じが通じるほど、選挙は甘くないはずだが。

現行税率のまま軽減税率導入!?
 増税延期を掲げてダブル選という政権側の戦術は、早くから見抜かれていたこと。実行してもサプライズにはならない。手法としては、色褪せている。そこで、政権が考え出したのが、国民にとってより魅力的なエサ。複数の霞が関・永田町関係者の話によれば、それはズバリ「現行税率のまま、軽減税率を導入する」という仰天プランなのだという。

 昨年暮れに自民・公明両党が合意したのは、消費税を10%に上げるにあたって「軽減税率」を導入し、対象を酒類や外食を除く「生鮮食品と加工食品」とすること。これによって失われる税収は消費税1%分(2兆円)の半分にあたるおよそ1兆円だが、安倍政権は、この軽減税率を現行の8%で導入しようと目論んでいるというのだ。そうなると、事実上の1兆円減税。軽減税率にこだわった公明党も、もろ手を挙げて賛成する策である。ここに来て、公明党がダブル選容認の姿勢に転じたことにも、うなずける。

 政権側の動きについて、ある霞が関の関係者はこう話す。
 ―― 増税延期だけなら、自公のダブル選勝利はおぼつかない。軽減税率の導入、もしくはそれに匹敵する減税策を打ち上げるしか道はない。ただし、財務省が猛反発するのは必至。税率10%を選挙目的で延期された後だけに、『はいそうですか』とは言わないだろう。一強と言われてきたが、総理は逆に追い詰められているのではないか。

 たしかに、増税延期や減税策はアベノミクス失敗の裏返し。経済状況が好転していないことを、政権自らが認めることになるからだ。だが、参院選単独では敗色濃厚。ダブル選挙に持ち込むには、国民が納得する大義名分が必要となる。首相としては、頭の痛いところだろう。すでに政界は衆参ダブル選挙に向けて走り出しており、戦術を誤った場合、首相の求心力が低下する事態も想定される。



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