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鹿児島市 桜島住民避難初動で大失態 
原発事故インチキ避難計画と鹿児島市のバス事情(下)

2016年3月 9日 09:35

 桜島3.jpgのサムネール画像低賃金にあえぐ市バスの運転手に、「公務員」であることを理由に災害時緊急輸送に従事するよう命令を下すとする鹿児島市。原発事故をにらんだバス協定で民間事業者の運転手が守られる一方、鹿児島市交通局の市バス乗務員は、市の理不尽な姿勢に憤るしかないのが現状だ。
 同市の避難計画が、いかに杜撰なものであるかについては、報じてきた通り。災害時のバス輸送でハンドルを握る予定の市バス乗務員が、具体的な避難方法について何も聞いていないというのだから、呆れるしかない。
 緊急輸送を命じるのは、国家公務員より高い給与をもらっている鹿児島市のお役人。彼らは「正規の公務員」に限定して出動を指示するとしていたが、どうやらこの公約も守られない可能性が高い。
 昨年夏に鹿児島市をおそった緊急事態で、市が災害時の運転業務には就かせないとしている「非正規」のバス乗務員を、住民の緊急輸送にあたらせていたことが分かった。(写真は、鹿児島県庁から見た桜島)

「桜島」住民避難―バス輸送に「非正規職員」
 昨年8月、火山性地震が増加したことを受け、桜島の噴火警戒レベルが3(入山規制)から4(避難準備)に引き上げられた。鹿児島市は、火口近くの3地区に避難勧告。数十世帯が島内の安全な場所に避難した。この時、緊急輸送で動いたのが鹿児島市交通局の市バス。だが、現場到着が遅れたことやその理由は、これまであまり知られていなかった。一体何があったのか――。

 災害避難で市バスを動かす場合、乗務員には「正規の公務員しか使わない」とする鹿児島市。念のため、桜島の住民避難でバスの運転を行ったのは、どういう立場の乗務員だったのか市側に確認した。市交通局桜島営業所の業務は、北営業所の業務とともに平成24年4月に民間のバス事業者である南国交通に委託されている。桜島で緊急輸送を担ったのが、南国交通のバス運転手なのか、市交通局の職員だったのか確かめる必要があったからだ。市としては、民間人である南国交通の運転手に緊急輸送を行わせるわけにはいかないはず。案の定、はじめに返ってきたのは「公務員」という回答だった。

 それでは、桜島で住民避難に従事したのは「正規」か「非正規」か?災害避難で輸送にあたるのは「正規の公務員運転手」だと主張している鹿児島市のこと、当然「正規」という答えが返ってくるものと考えていたが、なかなか返事がない。ようやく担当職員の口から出たのは「初日は嘱託でしたが……」という言葉だった。

 鹿児島市側の説明をまとめると、こうだ。

・噴火警戒レベルが上がって、市が避難勧告を出した段階で、桜島に正規の市バス運転手がいなかった。このため、バスの出動が遅れた。
・やむなく、2名の嘱託職員(=非正規職員)に輸送バスの運転を任せた。嘱託職員は、桜島西エリアを周遊する交通局の「サクラジマ アイランドビュー」の乗務員だった。
・2日目からは、正規の職員を桜島内での輸送にあたらせた。
・こうしたことを受けて、防災計画の見直しを進めている。

 運転手不在でバス輸送が遅れた!?――桜島の緊急事態で、市が初動時に失態を演じていたのは確か。しかも、災害時には「正規の公務員しか使わない」と言っていた鹿児島市が、場当たり的に「非正規」を利用。突発的な事態の前に、基本方針は見事に崩されていた。鹿児島市の危機管理体制は、杜撰というほかない。

 昨日報じた通り、鹿児島市交通局のバス乗務員給与は、事務系の一般職員を大幅に下回る額。多くの乗務員が手取り10万円台の低賃金に苦しんでいるのが現状だ。非正規である嘱託乗務員は、手当ももらえぬ極貧状態。年2回、10万円が支給されるというが、焼け石に水で、食いつなぐので精一杯だという。しかも1年ごとの契約更新。明日への希望など、持てるはずがあるまい。

 一方、災害時の避難計画を策定し、「行って来い」と指示するのは高給取りの事務方役人。彼らは、低賃金で市民の足を守り続けているバス乗務員を、自分たちの都合で使いまわしているだけだ。「理不尽」とは、こういうことを言う。

問われる鹿児島市の姿勢
 ここで、川内原発で重大事故が起きた場合の避難計画に話を戻してみよう。鹿児島市の計画では、避難の対象は市内郡山地区のみ。住民の緊急避難で出動するバスは「2台」だ。市側が言う「正規公務員」である乗務員は92人。十分過ぎる人数のようだが、昨日の配信記事でも明らかなように、現場の市バス乗務員たちの大半は災害避難についての具体策を聞かされておらず、出動の指示が出ても即応できない状況。避難計画の実効性は、無きに等しいというのが実情である。

 原発事故の際の混乱は、桜島のケースとは比較できない大規模なものになるのが確実。市全体の避難計画を持たない鹿児島市が、対応できるはずがあるまい。結局、たった2台のバスでさえ出動できなくなる。「誰もいないから、あなたが行って」――市が立場の弱い非正規の乗務員に命令を下す可能性があることは、桜島の1件で証明済みだ。

 鹿児島市の森博幸市長や市議会の自民党系会派は、市バスの効率化を図るためには民間への業務委託を進めるべきとの考えだ。すでに交通局桜島営業所と北営業所の運営は南国交通に委託されており、事実上の民営化は着々と進行中。だがそれは、いつ大噴火するとも限らない桜島をかかえ、市域の一部が川内原発から30キロという鹿児島市がやる事であるまい。

 鹿児島市において、災害時に大量輸送の切り札となる市バスの存在は貴重。民間のバスが「バス協定」に守られ、原発の過酷事故で動かない以上、公営である市バスとその乗務員は市民にとっての大切な財産なのだ。市民の安全・安心を守るという視点からも、安易な民活は許されまい。一方で民営化を進め、他方で災害時に「バス乗務員は公務員としての義務を果たせ」という整合性のない市の姿勢は、厳しく問われるべきだろう。

 ちなみに、公表された森鹿児島市長のマニフェストには、次のような項目がある。

市長公約.png

 どう甘く見ても、現段階では公約違反と言わざる得ない。



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