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不正発覚の山笠「東流」 問われる自浄能力

2016年3月14日 09:45

東流 画像.jpg 巨額な簿外金の存在が明らかとなった「博多祇園山笠」の運営組織のひとつ『東流』。公表している決算額と同じ程度の金額を一部幹部の自由裁量に任せ簿外処理。実際の収支を隠す手口で、山笠補助金を支給している福岡市をはじめ、同流の仲間まで欺いていた。
 不正発覚から約1か月。東流が自浄能力を発揮した形跡はなく、内部で帳簿や預金通帳、領収書などの証拠書類を確認したといった声は聞こえてこない。
 相変わらずの密室談議に業を煮やしたのか、同流の関係者から、東流の幹部たちに「公開質問書」が送り付けられる事態となっている。
 伝統行事の舞台裏で、一体に何が起きているのか――。

自浄能力に疑問符
 不正が行われていたのは明らかだというのに、東流の動きは鈍い。疑惑が浮上してから1か月も経つというのに、経理問題は未解明。山笠に対して、観光客などの誘致促進を図る目的で年間2,700万円の「祭り振興補助金」を支給している福岡市に話を聞いたが、「現在も調査中」として、虚偽報告の後始末が終わっていないことを認めている。

 流の内部はといえば、こちらはなお暗い状況だ。不正経理発覚で緊張が走ったのは初めだけ。日が経つにつれ、言い訳が聞こえてくるようになり、HUNTERの報道内容まで「作り話」だと言い出す幹部もいるという。報じてきた通り、不正経理とその手口については、取材に応じた東流代表や会計担当者が実態を認めており、彼らは他の報道機関にも同じ話をしている。いまさら「作り話」はあるまいが、流内で不正を追及する動きは出てこなかったという。山笠の流は上下関係に厳しいことで知られるが、これが悪い方に作用しているのである。

 こうなると、長年事実とは違う決算報告書を渡され、欺かれ続けてきた流のOBたちが黙っていない。肝心の東流の中で、謝罪や説明が行われない現状に危機感を抱いた人たちが、流の幹部たちに「公開質問書」を突きつける事態となった。

 今月8日、東流の関係者から同流の代表者など執行部と呼ばれる人たちに送付された質問書は、次の7項目について確認を求める内容だ。

 質問1 現存する帳簿、通帳、領収書、請求書など東流(東会含む)の経理関係書類を一定期間、場所と時間帯を決めて公開することは可能ですか?

 質問2 集団山見せなどの際に来賓や関係者から受けた謝金、祝儀などの金額を、年ごとに詳しくご説明下さい。

 質問3 山笠手拭やハッピ、扇子等、販売してきた物品の仕入れ値と販売額及び収益  額を、年ごとに詳しくご説明下さい。

 質問4 山笠の台を、他の組織に貸し出した折の相手先や礼金額について、年ごとにご説明下さい。

 質問5 稚児に関する個別の寄付額やギフト券等について詳しくご説明下さい。

 質問6 山小屋建設費について、「舁き山」「飾り山」に分けて、発注先ごとの金額をご回答ください。また、この件に関する領収書や請求書といった関連書類の公開は可能ですか?

 質問7 平成23年に発生した東日本大震災を受け、東流として義援金300万円を福岡市に贈っています。寄付の日時や募金先(町内、個人等)ごとの金額などを詳しくご説明下さい。また、この件に関する証拠書類が残っているかどうかについてもご回答下さい。


 いずれの質問も、答えて当然の内容だ。正確な収入、支出を説明するのは、これまで東流を率いてきた人たちの義務。証拠書類がないならばないなりに、真実を話す責任があろう。もちろん、時間がかかる作業でもない。にもかかわらず、疑惑発覚から1か月、説明一つないというのでは不誠実と言われても仕方があるまい。

 ちなみに、5項目目の「稚児」とは、博多どんたくの起源とされる福岡の伝統行事「博多松囃子(まつばやし)」の構成組織の一つ。博多松囃子は、どんたく期間中、御神馬に乗った福神、恵比須、大黒の三福神と子どもたちが、市内の各所を訪問し祝賀するというもので、福神は福神流が、恵比須は恵比須流が、大黒は大黒流が、そして稚児は稚児東流と稚児西流が受け持っている。稚児を受け持つ山笠東流と同西流は、2年ごとの交代制。博多松囃子各流にも、市から100万円の振興補助金が出ており、質問書が詳細を聞いているのは、東流が受け持った年の会計についてだ。公開質問を行った側は、稚児関連の経費にも疑問を持っているらしく、「とにかく、詳しい内容を聞くまでは信用できない」と話す。

質問書めぐり「犯人探し」
 問題は、この公開質問をめぐり、東流の内部が揺れていることだ。原因は、流の幹部による“犯人探し”。公開質問の同調者をさぐり、その意思があるのかないのか、確認しているのだという。厳しい上下関係を悪用して、黙らせようという魂胆だ。

 じつは、東流の代表者らに送られた公開質問書には、質問側代表者の氏名と連絡先しか記されておらず、他の同調者たちは「他○名」として氏名が伏せられていた。一方、質問者側が市役所の記者クラブに持参した質問書には、代表者の他、数名の流関係者の名前があったとされる。「窓口を一つにしないと、回答をめぐって混乱する」(質問者側の説明)という理由でこうなったというが、多くは流の幹部からみると後輩になるため、責め立てられるのを防ぐ狙いがあったというのが真相だろう。

 事実、新聞社から質問者側全員の氏名が明かされたとたん、「名前を無断使用しているから、質問書には答えなくていい」という幹部の声が聞こえてきたという。だが、この逃げ口上も世間では通用しまい。流の代表者らに提出された公開質問書には代表者の氏名と連絡先が明記されている。たとえ質問者が一人だったとしても、流の関係者であることが確実なら、答えるのが筋。男ぶりが誇りの山笠にしては、随分と姑息な対応だ。

 公開質問にした意図を聞いてみたところ、質問者側は次のように話している。
「(HUNTERの記事に)簿外で処理してきたのは年間で1,000万円と書いてあるが、本当の額はいくらだったのか、きちんとした説明を聞きたい。情報公開は当然のことなのに、聞こえてくるのは言い訳ばかり。報道内容を否定する役員さえいる。長年多くの関係者をだましてきておいて、まだ保身に走るというのでは、卑怯というものだろう。山笠の伝統を汚した以上、きちんと事実関係を明らかにし、その上で責任を取るべきだ。不正が発覚したのに『俺は知らん』と言っている役員もいるが、これを許すようなら、私たちには山笠を語る資格がなくなる」

 公開質問の回答期限は、きょう14日。事態の推移を見守っているという別の東流関係者は、「誰が(質問書を)出したかなんて、些細なこと。関係ない。こんな基本的な質問に答えられないようなら、東流には自浄能力がないものと判断せざるを得ない」として、背任を視野に刑事告発を検討する意向を示している。



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