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矮小化される原発事故 ― 朝日・線量計報道と規制委の異常対応

2016年3月18日 10:05

川内原発 朝日新聞が報じた放射線測定装置(モニタリングポスト)に関するスクープ報道に、原子力規制委員会が噛みついた。
 規制委が問題視したのは、朝日が14日に報じた原発事故監視体制の不備を指摘する記事。鹿児島県が、川内原発周辺に設置した放射線測定装置(モニタリングポスト)の半数が性能不足で原発事故時に使えず、住民避難態勢が不備なまま原発再稼働が認められたという内容だった。
 これに対し規制委は、15日に公表した見解で朝日の報道内容を事実上の「誤報」扱い。16日の同委定例会では田中俊一委員長が「犯罪的」とまでけなし、原発事故時の監視体制には問題がないとする主張を展開した。
 一体、どちらが正しいのか――。(写真は川内原発)

1面トップでスクープ報道
 まず、問題の朝日の記事。14日に、紙面とネット(朝日新聞デジタル)で次のように報じている。

川内原発周辺の線量計、半数が性能不足 避難判断の目安

 運転中の九州電力川内原発(鹿児島県)周辺に設置されたモニタリングポストのうち、ほぼ半数が事故時の住民避難の判断に必要な放射線量を測れないことがわかった。9日の大津地裁の仮処分決定で運転が止まった関西電力高浜原発(福井県)の周辺でも、計画する数が設置できていなかった。事故時の住民避難の態勢が十分に整わないまま、原発が再稼働した。

 東京電力福島第一原発事故後、国は原子力災害対策指針を改定。原発から5キロ圏は大事故が起きたら即時に避難し、5~30キロ圏はまず屋内退避したうえで、ポストで測った放射線量の値をみて避難させるかを国が判断することにした。毎時20マイクロシーベルトが1日続いたら1週間以内に、毎時500マイクロに達したらすぐに避難する。

 指針などでは、原発から30キロ圏の市町村に避難計画の策定を、道府県にはポスト設置と、地区ごとに避難の判断基準とするポストを定めることを求めた。

 鹿児島県は昨年8月の川内原発1号機の再稼働までに、5~30キロ圏に判断の基準となる48台のポストを設置。うち22台は毎時80マイクロまでしか測れず、すぐに避難する判断には使えない。

 県原子力安全対策課は「緊急時には近い別のポストで測ったり、(持ち運んで据え付ける)可搬型ポストを配備したりするので問題ない」と説明。だが、県が配備した可搬型ポスト44台のうち30台は毎時100マイクロまでしか測れない。

 原子力規制庁が作った指針の補足資料では、固定されたポストで平常時から測定することを前提としている。継続的に測ることで急な放射線量の上昇を速やかに把握するためだ。可搬型では地震などで道路が寸断された場合に必要な場所で測定できない恐れがあることも考慮している。

 京都府は高浜原発の5~30キロ圏で、規制庁の「5キロ間隔程度」との目安に基づき、おおむね小学校区ごとに41カ所でポストを整備する計画を定めた。しかし、3号機に続き4号機が再稼働した2月末時点で66%にあたる27カ所で未設置だった。府環境管理課は「設置場所の選定を進めていたが、先に再稼働してしまった」と説明し、今月末までに27台を設置する。

 避難対策は国の審査の対象外で、ポストの設置基準もあくまで目安だ。だが、規制庁は「不十分だったり未設置だったりする状態で再稼働するのは問題だ」としている。全国のポストの性能や設置状況を調査中という。

 残念ながら、朝日の報道内容は底が浅い。まったくの間違いではないが、牽強付会との批判は免れまい。まず、鹿児島県が設置したモニタリングポスト67台の全容については述べておらず、毎時80マイクロシーベルトまでしか測れない「30キロ圏内の22台」にだけ焦点をあてている。22台が、即時避難の目安とされる毎時500マイクロシーベルトを測れないのは確かだが、他に10万マイクロシーベルトまで測定が可能なモニタリングポストが40台以上あることを省いているのだ。問題にした22台にしても、同時期に整備されたのが25台で、電力不足のため、すべての機材が一時測定不能だったという重大な瑕疵については触れていない。

 そもそも、22台が避難基準である500マイクロシーベルトを測れないというだけで、『事故時の住民避難の態勢が十分に整わないまま、原発が再稼働した』と断定するのは、いささか乱暴すぎる筋立てだ。毎時80マイクロシーベルトといえば、それだけで異常事態。毎時20マイクロシーベルトが1日続いたら1週間以内の避難が必要になることを考えれば、MAX80の22台を頭から否定することはできない。むしろ問題は、80マイクロシーベルトまでしか測れない機材をあてがわれた地域において、即時避難の判断に遅れが生じること。鹿児島では、小学校区ごとにモニタリングポストを設置しているが、問題の22台が設置された地域では、他の線量計で確認するまで即時避難の判断を下すことができないからだ。議論を提起するなら、同じ30キロ圏にあって、地域間で情報伝達の時間に差が出ることを取り上げるべきだった。朝日は、「80」「500」の数字や「30キロ圏」にとらわれるあまり、誤った方向性で突っ走ったと言わざるを得ない。下は14日の朝日の紙面。この危ういスクープを1面トップで報じ、社説でも同様の主張を行っていた。

朝日新聞

規制委、感情剝き出しで反論するが……
 朝日の報道は、鹿児島県が策定した避難計画の杜撰さを追及する内容。それは、川内原発の再稼働に事実上のゴーサインを出した原子力規制委員会に対する批判でもある。当然、県と規制委は猛反発。3月15日、規制委は、ホームページ上で朝日の記事に反論する。以下、規制委の公表文である。

平成28年3月14日朝日新聞朝刊の報道について

 平成28年3月14日(月)の朝日新聞朝刊において、鹿児島県及び京都府におけるモニタリングポストの設置に関する報道がなされていますが、当該記事の内容は、読者の方に誤解を生ずるおそれがありますので、事実関係を説明します。

鹿児島県及び京都府における緊急時モニタリング体制について

○緊急時モニタリングには一般的に以下の検出器(※)が用いられる。
・NaI式(測定範囲:バックグラウンドレベル~80μSv/h程度)
・電離箱式(測定範囲:1μSv/h程度~100mSv/h程度)
・半導体式(測定範囲:0.2μSv/h程度~10mSv/h程度)
(※地方公共団体の発注仕様により異なる。)

 緊急時モニタリング体制の整備に当たっては、
1 それぞれの検出器の測定範囲を踏まえ、低線量率から高線量率までカバーできるように、各検出器を組み合わせて地域の実情に応じた配置を行い、
2 各検出器と防護措置の実施区域を対応させることにより、
UPZ内全域で防護措置の判断が可能となる体制をとることが必要である。これら検出器の配置については、例えば、NaI式と電離箱式を同一箇所に配置するケース、分散して配置するケースのいずれも選択し得る。

○鹿児島県においては、NaI式29台、電離箱式42台が川内原子力発電所30km圏内に概ね均等に設置されており、このうちUPZ内のNaI式23台、電離箱式26台と防護措置の実施区域を対応させている。
 また、京都府においては、NaI式16台、電離箱式16台が高浜発電所30km圏内に概ね均等に配置されており、このうちUPZ内のNaI式12台、電離箱式12台と防護措置の実施区域を対応させている。
 これらに加えて、それぞれの地域では、可搬型のモニタリングポストやモニタリングカーが配備されている。
 原子力規制庁としては、鹿児島県及び京都府において、原子力災害が発生し放射性物質が放出された場合には、緊急時モニタリングを実施して防護措置を実施すべき範囲を特定することがUPZ内全域で可能な仕組みが整備されていると判断している。

○この緊急時対応の在り方については、川内地域については平成26年9月12日の原子力防災会議において、高浜地域については平成27年12月18日の原子力防災会議において、それぞれ具体的かつ合理的なものとなっているとして了承されている。
 なお、緊急時モニタリングの体制については、訓練等の結果を踏まえ、継続的に充実していくことが重要であると認識している。

 朝日がモニタリングポストの不備を指摘した鹿児島県だけでなく、京都府のケースも「問題なし」の判断。『低線量率から高線量率までカバーできるように、各検出器を組み合わせて』対応しており、原子力防災会議において、川内、高浜両原発の緊急時対応の在り方が了承されているのだという。『読者の方に誤解を生ずるおそれ』があるとの表現は、事実上朝日の記事を誤報とみなしている証左だ。面子を汚されたことへの怒りからなのか、翌日の定例会では田中委員長から「犯罪的」という言葉まで飛び出すありさま。かつて原発の安全神話をでっちあげた原子力ムラ同様、規制委の面々は、“自分たちの判断は絶対”とでも思っているのだろう。朝日の報道姿勢も疑問だが、規制委の異常な対応にも違和感を覚える。

 規制委は、低線量を測るモニタリングポストの必要性を重要視しているようだが、原発の事故で住民がもっとも知りたいのは、拡散された放射性物質が、「避難」が必要か否かの判断基準となる500マイクロシーベルトを超えているかどうかという点。80マイクロシーベルトまでしか測れぬ線量計しかない地域は、「なぜ?」と思うのではないだろうか。低い線量の変化もつかみたいという意図は理解できるが、それなら、同じ場所に低線量向けと高線量向けのモニタリングポストを設置すべき。現状は、“十分な対策”と胸を張れる状況ではなかろう。

五十歩百歩の朝日と規制委
 前述した通り、鹿児島県が平成24年度に整備した25台のモニタリングポストについては、会計検査院の指摘によって設計ミスから測定不能になる時間帯があったことが判明。モニタリング設備が太陽光発電を利用したシステムだったため、日照不足で電力が得られず、測定不能になる時間帯が存在していたことが明らかになっている。この設計ミスを補うため、商用電源につないで電源確保を実施したとされるが、商用電源とは九電の電気。原発に重大事故が起きれば九電の送電はストップするはずで、結局25台のモニタリングポストは計測不能になる可能性が高い。原発事故を監視する上では、こちらの問題の方が大きかったと言うべきだろう。

 朝日も規制委も、30キロ圏以外の原発事故対応など関係ないと言わんばかりの姿勢。30キロ圏から外の地域の事故対策については、一切言及しておらず、原発事故の問題を矮小化した格好だ。規制委も朝日も五十歩百歩。原発事故を、緊急防護措置区域内(UPZ)の30キロ圏内だけで捉えていることに変わりはない。



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