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正体見せた原子力規制委 朝日・線量計報道の波紋

2016年3月22日 07:45

朝日新聞 朝日新聞の放射線測定装置(モニタリングポスト)に関する報道に、原子力規制委員会が筋違いの過剰反応を示している。
 朝日の記事は、鹿児島県が川内原発から30キロ圏内に設置したモニタリングポストの半数が性能不足で、原発事故時に緊急避難を判断できないという内容。川内の再稼働にゴーサインを出した県の姿勢を批判した形だ。
 これに対し規制委は、問題の記事を事実上の「誤報」とみなす見解を公表。朝日が報道の趣旨を説明する記事を掲載したとたん、再度これに反駁を加えるという異例の事態となった。
 この間、規制委の田中俊一委員長は感情むき出しで朝日新聞を糾弾。「犯罪的」と罵り、原発再稼働を認めた鹿児島県や規制委の正当性を強調してみせた。
 傲慢さが目に余る専門家集団だが、そもそも規制委に、モニタリングポストや避難計画のことを騒ぎ立てる資格があるのだろうか?

朝日VS鹿児島県のはずが……
 朝日の線量計報道は14日。朝刊の一面トップを使って、鹿児島県による放射線監視態勢の不備を報じた。モニタリングポストの全体を見ず、「30キロ圏内に設置された22台」だけで避難計画の不備を論じた記事の内容は、いささか独善的な筋立て。だが、まったくの間違いとは言い切れない。先週の配信記事でも述べたが、低い線量しか測れないモニタリングポストが設置された地域で、即時避難の判断が遅れるのは事実。不備があることは、確かなのだ。そうした状況を無視し、原発再稼働ありきで進んだ伊藤祐一郎知事の責任が問われるのは当然だろう。しかし、朝日が線量計報道を行った14日から現在(21日)に至るまで、鹿児島県が公式に反論を試みた形跡はない。

 批判されたのは鹿児島県のはずなのに、反応したのは何故か原子力規制委員会。線量計報道の翌日15日には、「平成28年3月14日朝日新聞朝刊の報道について」とする見解が、規制委のホームページ上にアップされた。

 規制委によると、鹿児島県は低線量率から高線量率までカバーできるように各検出器を組み合わせて対応しており、監視態勢は十分。原子力防災会議においても、川内、高浜両原発の緊急時対応の在り方が了承されており、朝日の報道内容は読者に誤解を生じさせるものであるとして、事実上の「誤報」とみなしていた。

 規制委のイライラは見解の公表だけでは収まらなかったとみえ、翌16日の定例会の中で、田中俊一委員長が次のように発言する。

 新聞報道については、私は半分計れるとか、計れていないとか、そんなことが問題ではない、モニタリングによって、我々がいろいろな判断をするために必要十分かどうかということが基本になるのです。それが、あたかも全く判断できないような報道をするということは、原発の立地自治体とか、その周辺の方たちに無用な不安をあおり立てたという意味では、非常に犯罪的だと私は思っています。これは個人的かもしれないけれども、そういう点では十分に反省していただきたいと思います。

朝日以上に独善的な規制委・田中氏
 朝日の報道を糾弾した田中氏の発言内容は、朝日以上に独善的だ。『我々がいろいろな判断をするために必要十分かどうかということが基本』と言っているが、そもそも、放射線監視態勢が必要十分かどうかを判断するのは原発事故の被害を受けることが予想される「住民」。『我々=規制委』のためのモニタリングではなかろう。

 500マイクロシーベルトを超える線量が計測されれば即時避難。この段階では、規制委が『いろいろな判断』をする必要などなく、朝日は、まさにそうした状況下での態勢が不備だと指摘しているのだ。問題の記事は、即時避難の判断に使えない機材があるということを明らかにしたものであり、その点は決して間違いではない。規制委としては、80マイクロシーベルトしか測れないモニタリングポストにも、それなりに意味があると説明すれば済む話。『犯罪的』という言葉まで出して罵倒するのは、専門家の横暴に過ぎない。

 田中氏は『原発の立地自治体とか、その周辺の方たちに無用な不安をあおり立てた』とも述べているが、これは住民の思いを逆利用し、事故対策の欠陥を糊塗しようとする卑怯な便法だ。鹿児島県では、県や各自治体の避難計画に懐疑的な見方を示している人の方が多く、不安が払拭されたとは言えない状態。再稼働ありきで進んだ伊藤知事に対する不信も、根強く残っている。これまで報じてきたように、80マイクロシーベルトしか測れないモニタリングポストをあてがわれた地域は、即時避難の判断が遅れる可能性が高く、決して万全の監視態勢と言い切れる状況ではなかろう。住民のための問題提起が、「無用な不安」をあおり立てる「犯罪的」な行いであるはずがない。

 朝日の報道に限らず、放射性監視態勢の不備を訴える声は、不安をあおりたてているのではなく、不安を払拭するためにどうすべきかを問うているだけのこと。そうした声を否定する規制委の姿勢は、かつて「安全神話」をでっち上げた原子力ムラの姿に重なる。福島第一原発の事故原因さえ解明されていない中、原発再稼働にお墨付きを与え続けている規制委が、事故対策の議論で偉そうな口を叩くのは間違いだ。

朝日の第二報に異例の再反論
 筋違いとしか思えない規制委側の反論を受けて、朝日は17日に報道の趣旨を説明する記事を掲載。その中で、次のように記している。

 朝日新聞は、原発事故で放射線量が急上昇した場合に5~30キロ圏の住民をすぐに避難させる大切な指標になると考え、毎時500マイクロを測定できる設備が配備されているかどうかに注目した。

 記事はこの後、他の原発立地県が、ほとんどのモニタリングポストに500マイクロシーベルトまで測れる機材を採用しているという取材結果を示した上で、鹿児島県だけがMAX80の機材を配備していると指摘。低い線量しか測れないモニタリングポストでは、即時避難の判断には使えないとする見方を強調し、報道内容に理解を求めている。

 重ねて述べるが、川内原発30キロ圏のうち、80マイクロシーベルまでしか測れないポストが設置された一部地域で、即時避難の判断が遅れるのは事実。底が浅いとはいえ、朝日の報道は、地域住民の立場からすれば当然と言えるものだった。

 「犯罪的」という罵声まで浴びせても、規制委側は、なお朝日の報道が許せない。17日の朝日第二報を受けて、異例の即日再反論で、再び朝日の報道内容を全面否定する。下が規制委の見解が公表されているホームページの画面だ。

規制委員会

 『現時点における線量計の設置が、緊急時の防護措置がとれないかのような誤った解釈を招きかねない記事』 ―― たしかに、朝日の第一報は、80マイクロシーベルまでしか測れない30キロ圏内の22台だけで、緊急防護措置全体の不備を指摘するという乱暴な筋立て。“誤った解釈”という見方をする人もいるだろう。しかし、80マイクロシーベルトしか測定できないモニタリングポストでは、即時避難の判断ができないのも事実。それが30キロ圏内に設置された半数にも及ぶとなれば、盤石とは言えないこともまた確かだ。現状で、「絶対大丈夫」と胸を張る学者や役人がいるとすれば、それはただの楽観論者。住民の安全より自分たちの面子を重んじる連中ということだ。

避難計画の議論、規制委に参加資格なし
 そもそも、原子力規制委員会に、モニタリングポストや避難計画の不備を追及する報道を、ここまで激しく反論する資格があるとは思えない。新安全基準に基づいて川内原発を審査したのは規制委だが、原発事故にともなう避難計画は審査の対象外。避難計画の有無に関係なく、すでに原発再稼働を認めているのだ。計画の不備を訴える多くの声に耳を貸さなかった規制委が、今頃になって、放射線監視態勢は十分だなどと騒ぎ立てるのは筋違いというものだろう。朝日の報道に反論できるのは、当事者である鹿児島県だけなのである。

朝日への集中砲火は“見せしめ”
 朝日の線量計報道に対する規制委の反応自体、暴走と呼ぶに相応しいものだ。モニタリング体制の不備について最初に報じたのは朝日だが、その後共同通信や時事通信が後追いし、毎日、東京など新聞各紙がほぼ同じ内容のニュースを流している。本来なら朝日を含む報道各社の記事に反論すべきところを、規制委はわざわざ「朝日新聞朝刊の報道について」と断って、同紙に集中砲火を浴びせた格好だ。朝日の報道だけをやり玉に挙げるのは何故か――。疑問を解くカギは、16日の定例会後、田中委員長が会見で述べた次の発言の中にある。

 今日も委員会の席上でも申し上げましたけれども、皆さんとはここ3年半、いろいろな信頼関係のもとに立ってプレスの皆さんとはお付き合いをしてきたというふうに私は思っているのですけれども、その信頼を裏切るような記事が今週出まして、いろいろなところに影響を与えていますので、まず、そのことを一言申し上げたいと思います。
(中略)
 事実として、いろいろな問題を指摘して、こうした方がいいという改善提案であれば、私はいくらでもお聞きしますけれども、そういうことはないということで、どういう意図で書かれたか知りませんけれども、一面トップ。社説までおまけに書いているというそういう姿勢については、私は看過できないということで、一言申し上げておきますので、今後ともこういったいい関係を続けるためには、その分、十分そちらの方も自覚していただきたいということを申し上げたいと思います。

 規制委は権力側、報道機関は、その権力側を監視する立場だ。規制委や原子力政策について問題があれば、報道が厳しく追及するのが当然だろう。しかし田中委員長の論法だと、田中氏や規制委の意に沿わぬ報道は、すべて「信頼関係を裏切るような記事」。田中発言は、権力側にとって都合の悪い記事を書けば、「いい関係」ではなくなるという脅しに他ならない。

 朝日の記事を「犯罪的」と断じた田中発言は、明らかに一線を越えたもの。不見識と言っても過言ではあるまいが、狙いは朝日を叩くと見せかけて、報道機関全体に警告を発することではないのか。つまり、朝日への集中砲火は“見せしめ”。規制委にとって都合の悪い報道をすれば、同じような目に遭うことになるぞというブラフだと考えれば合点がいく。ここに来て、規制委が「原発再稼働に対する異論は許さない」という姿勢を鮮明にした格好だ。

 今回の線量計報道に関するやりとりを見ていて感じるのは、相変わらず「30キロ圏」だけに注意が向けられていること。これでは、原発をめぐる議論が矮小化されてしまう。原子力ムラの一員であることがハッキリした規制委は別として、報道は、それ以外の地域の人たちの思いを汲み取る努力をするべきではないのか。30キロ圏以外にモニタリングポストがないことこそ問題であり、原子力行政の歪みなのである。



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