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安全は二の次 九電「免震重要棟建設撤回」に規制委がダメ出し

2016年1月29日 08:55

川内原子力発電所 九州電力が昨年12月になって表明した川内原子力発電所「免震重要棟」の建設撤回問題をめぐり、原子力規制委員会は26日、九電側提出の原子炉設置変更許可申請を取り下げ、検討し直すよう事実上の指示を出した。
 同日の審査会で規制委側は、九電が提出した免震棟から耐震棟への変更許可申請を厳しく批判。申請内容についても主張を変える同社に、申請の部分的な補正など認めないという姿勢を示し、不信感を露わにした。
 川内原発再稼働後、唐突に新安全基準における審査の前提を崩した九電に、規制委がダメ出しした形だ。(写真は川内原発)

九電側説明に批判続出 
 昨年12月、九電が規制委に提出したのは、テロに備えるための特定重大事故等対処施設や常設直流電源設備の設置、1・2号機共用の緊急時対策所=免震重要棟の計画変更などを目的にした川内原発の「原子炉設置変更許可申請」。26日は、この申請内容について、九電側の説明を聞く審査会だった。

 九電側は、提出した資料(右下が資料の表紙)を基に説明を行ったが、資料冒頭の『緊急時対策所の変更に対する原子炉設置変更許可申請の概要』には、次のように記されている。

資料表紙 川内原子力発電所の緊急時対策所については、「代替緊急時対策所」及び「緊急時対策所(免震重要棟内)」の設置変更許可(H26.9.10 許可)をいただいたが、早期の緊急時対策所機能の拡充を目的として計画を見直した。
 今回の設置変更許可申請(H27.12.17申請)は、既設の耐震構造の「代替緊急時対策所」を正規の「緊急時対策所」とし、「緊急時対策所(免震重要棟内)」の設置を取りやめるものである。
 なお、「代替緊急時対策所」の隣に耐震構造の「耐震支援棟」を設置して、両施設を合わせて運用することで早期の緊急時対策所機能の拡充を図る。

 九電側説明は、この概要に沿ったもの。「安全」ではなく「早期」という観点で変更許可を求めた形になっている。しかし、免震重要棟の設置は、規制委が川内原発の審査を行った際の「前提」。約束を反故にした格好の九電に対し、各方面から同社の姿勢を疑問視する声が上がっていた。一番怒っていたのは規制委だったようで、26日の審査会では、九電に対する厳しい批判が相次いだ。規制委のホームページにアップされた当日の動画記録から、規制委側の声を拾ってみた。

 ○九電の申請内容は、許可された申請(重要免震棟の設置)と比べ、申請範囲に支援機能の充実が入っておらず、安全性が向上しているとは言えない。九電が方針を決めてから説明を聞く。

 ○規制委の審査で、申請を出してから変更があると説明されたのは初めて。先週、事前ヒアリングを行った時の内容が、もう変わっている。時間をかけることはできない。一度取り下げて検討し直し、出し直してもらいたい。申請は、申請の範囲や安全性の向上というところを詰めた上で、自信のあるものを提出してもらいたい。

 ○もともとの経緯は、川内原発の審査の中で代替緊対(「代替緊急時対策所」)と免震棟との組み合わせについて、運用等々についても審査をしたうえで許可に至った。安全性上望ましいということで申請したのだろうが、安全性向上という一つの論点が、「これなら早く手当てができる」(に替わっている)――。その「早く」も、訂正的にしか説明できないというのでは、申請の理由を欠いているのではないか。そのそも、変更の動機が説明できていない。最も重要な変更申請の根拠を欠いている説明だ。将来の補正に触れているが、将来の補正含みで、現申請について審査するというのは、審査の理想像の観点からも好ましくない。できれば避けたい。(取り下げて検討し直すようにとの)指摘を重く受けとめ、検討の上回答してもらいたい。

 ○今後の補正申請があると言っているが、取りやめるという免震重要棟というものを評価するための地震動というものを、わざわざ当初の申請あるいは許可にあたって検討して、そこを評価して検討している。それが今の時点で無駄になっている。そういうことは避けたい。よく考えて下さい。

 要約すれば、こういうことになる。

  • 免震棟を耐震棟に替えることで、安全性が向上すると言いたいらしいが、説明資料からそれを読み取ることはできない。
  • 安全性ではなく、早期=時間を目的とした変更申請だ。しかし、九電は「早期」がどれくらいのものなのかさえ説明できない。変更申請の根拠を欠いている。
  • 言うことがコロコロ変わる。補正含みの申請など、容認できない。
  • 変更許可申請を取り下げて、もう一度検討しろ。

 規制委の委員たちから、今回の変更許可申請を評価する声は皆無。九電側の言い分など、まるで信用できないと言わんばかりの意見が多数で、説明に参加した九電社員たちはたじたじ。「申請を取り下げて、検討し直せ」と迫る規制委側に、反論することさえできなかった。

 免震重要棟の建設撤回は、川内(鹿児島県薩摩川内市)、玄海(佐賀県玄海町)両原発がある九州の住民にとっても見逃せない問題。九電の見直し表明を受けて、多くの関係者から同社の企業姿勢を問う声が上がったのは言うまでもない。HUNTERは今月、九電に対し、原発関連の質問を文書で提出。その中で、免震重要棟に関する質問取材を行っていた。

―― 質問川内原子力発電所で計画されていた「免震重要棟」の新設計画を撤回したが、その理由と、今後の対策は?

【九電側回答】
  • 今回の計画変更は、更なる安全性向上のために検討を重ねた結果、免震重要棟と同等の機能のものを、早期に建設し、運用開始することを目指したもので、原子力発電所で多数の建設実績があり、技術的にも確立された耐震構造に変更するものである。
  • 基準地震動Ssに耐えられる設計であれば、免震構造・耐震構造いずれも安全性の相違はなく、耐震支援棟は、緊急時対策所と一体的な運用を図る上でも、同じ耐震構造が良いと考えており、今後、規制委員会の審査を真摯に対応するとともに、地域の皆さまへ丁寧に説明していきたい。なお、玄海については、まだ何も決まっていない。

 たしかに、この時の回答でも「安全性が向上する」とは言っておらず、「早期に建設し、運用開始することを目指したもの」としている。九電側の狙いが、早期建設であることは間違いない。早く出来るということは、すなわちコストが抑えられるということ。九電の狙いの中に、コスト低減があることは疑う余地がない。

 規制委の田中俊一委員長は、免震重要棟の建設撤回を決めた九電に対し「安全への方向なら歓迎するが、お金を節約ということなら厳しい審査をすることになる」(今月6日の会見) 「手抜きをしようとか、安上がりにしようという意図であれば絶対に認められない」(27日の会見)という姿勢。規制委側は、九電の本音を見抜いているということだ。

 免震重要棟の建設撤回、さらには使用済み核燃料の「乾式貯蔵」への方向転換――。川内原発再稼働直後、九電が次々に打ち出す策は、いずれも「コスト」を重視したものだ。福島第一の事故からもうすぐ5年、新たな原発の神話からは、「安全」の二文字さえ欠落している。



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