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九電の核ゴミ乾式貯蔵 敷地内永久保管の危険性

2016年1月28日 09:15

玄海原発 廃炉作業中だった日本原子力発電東海原発の立地自治体である茨城県東海村の村長が、作業にともなって発生した低レベル放射性廃棄物の敷地内埋設処分を、容認する方針であることを表明した。
 原発敷地内への埋設容認は、立地自治体の首長としては全国初。村長は、各地で進む廃炉作業への影響を容認の理由として挙げているが、これを契機に放射性廃棄物の敷地内処分が他のケースにも拡がる可能性がある。
 最も懸念されるのは高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の処分と連動すること。事故の危険性とともに、原発が抱える大きな問題が“増え続ける核のゴミ”だが、原子力ムラは、貯蔵法を変えることでこの問題をクリアしようとしているふしがある。(写真は玄海原発)

行き場のない低レベル放射性廃棄物
 東海村が容認したのは、危険性に応じて何段階かに分けられている低レベル放射性廃棄物のうち、原発の建物などに使われていたコンクリートや金属など放射能濃度が最も低いレベルのもの。一部とはいえ、原発の敷地内に埋設を容認する意向を示したのは同村が初めてで、廃炉が進められている他の原発を抱える自治体の判断にも影響を与えそうだ。

 原発から発生する低レベル放射性廃棄物のうち、濃縮廃液などはセメントやアスファルトと混ぜて固化し、ドラム缶に詰めて発電所内の貯蔵庫に保管。その後、青森県六ヶ所村にある日本原燃の低レベル放射性廃棄物埋設センターに運ばれ、コンクリートピットに埋設処分されている。しかし、同センターにある1号埋設施設と2号埋設施設の容量は、200リットルドラム缶で、それぞれ153,600本と103,680本。2014年2月の段階で、1号埋設施設には147,507本が、2号埋設施設には容量を超える112,672本が埋設処分されており、もはや限界。増え続ける核のゴミともども、低レベル放射性廃棄物の処分にも、赤信号が灯る状況となっている。

核ゴミ保管 「乾式貯蔵」を言い出した九電
九州電力 こうした中、九州電力は昨年11月、原発の使用済み核燃料を保管する新たな施設として、核燃料を金属容器に密封して空気で冷やす「乾式貯蔵」の施設を、川内(鹿児島県薩摩川内市)・玄海(佐賀県玄海町)両原発の敷地内に建設する方針で検討を始めたことを表明した。「乾式貯蔵」はプールの中に使用済み核燃料を保管する「湿式貯蔵」よりコストが低く、汚染水などの廃棄物の量が減るなどのメリットがあるとされるが、原発関係者からは「敷地内永久保管」につながる危険性があると指摘される貯蔵方法だ。

 川内原発再稼働を実現させ、玄海原発の再稼働を急ぐ九電が、なぜこの時期に物議を醸すような方針を公表したのか――。背景にあるのは、使用済み核燃料を貯蔵するプールの容量だ。九電の川内・玄海両原発では、早晩、燃料プールが限界に達することが確実となっており、特に玄海原発は深刻な状況。再稼働すれば、ますます使用済み核燃料が増え、保管場所確保で窮することが分かっている。

 増え続ける使用済み核燃料に対応するには、保管場所を拡大するのが一番。しかし、原発の建屋ごとに設置された使用済み核燃料プールの大きさを変えることは不可能だ。そこで、使用済み核燃料一体ごとの保管スペース(ラック)間隔を狭くして詰め込むことで急場をしのごうと考え出されたのが「リラッキング」という手法である。使用済み核燃料が入る部屋のスペースはそのままに、壁を薄くして部屋数を増すようなもので、安全性に疑問が生じるのは当然。リラッキングを行なうにあたっては、国の認可が必要となるのは言うまでもない。

 九電は平成22年2月、玄海3号機のリラッキングを実施するため「原子炉設置変更許可」を経済産業大臣に申請、その日のうちに公表したが、福島第一原発の事故を受けて原発行政そのものが見直される形となり、許可は棚上げに――。原発の運転停止が長引いたことで、使用済み核燃料の問題に頭を悩ますことがなかった九電だが、玄海の再稼働が視野に入ったことで、対策を講じる必要に迫られたということだろう。ちなみに、九電の公表文書によれば、当初予定していたリラッキングの工事期間は平成24年度から平成27年度の間。福島第一の事故がなければ、玄海原発のリラッキングは、とうに終わっていたはずなのである。

 HUNTERは今月、九電に対し原発に関連するいくつかの質問をぶつけていたが、そのうちの一つが玄海3号機のリラッキングについてである。     

 ―― 現在の玄海3号機のリラッキング申請の状況は。

【九電側回答】

  • 玄海原子力発電所については、貯蔵余裕や使用済燃料の発生量を勘案し、平成22年2月に、玄海3号のリラッキング及び1、2、4号との共用化について、原子炉設置変更許可を経済産業大臣に申請した。

  • その後、国の安全審査については、当時の原子力安全・保安院による一次審査、原子力委員会及び原子力安全委員会による二次審査までは終了したが、福島第一事故の影響を受け、その後の原子炉設置変更許可の手続きは中断した状態である。

  • 現在、玄海3、4号機に係る新規制基準への適合性の方を優先して確認していただくこととしており、適合性審査後は、リラッキング工事に係る手続きに取り組んでいく。

 リラッキングを行う意思はあるようだが、原子力規制委員会の判断が出るのがいつになるのか分からない状況。規制委は、新規制基準による全国の原発を審査しており、まずそれが優先。規制委がリラッキングの可否を判断するのは、かなり先の話なのである。

乾式貯蔵で永久保管?
 九電が乾式貯蔵に前のめりになるのは、いつになるのか分からないリラッキングの許可を待つより、規制委が推奨する乾式貯蔵の方が、あらゆる面で有利と踏んだからに他ならない。九電にとっては都合のいい話だが、ここで疑問が生じる。“電力業界は、なぜこれまでに「乾式貯蔵」を採用してこなかったのか”――。そこで九電に対し、乾式貯蔵に関する質問も行った。

 ―― 現在、使用済燃料の乾式貯蔵について検討中とのことだが、乾式貯蔵と現行のプール貯蔵方式とでは、どちらの方が安全性が高いと考えているか。

【九電側回答】

  • 乾式貯蔵については、一昨年(平成26年10月)、田中委員長から「福島事故の教訓も踏まえ、安全上もセキュリティ上も有利である乾式貯蔵施設に取り組むように」とのご意見があった経緯もあり、プールで十分に冷却した燃料を空冷の方式へ移すことで、保管方法の多様化が図れ、冷却水や電源が不要となるなど、発電所の更なる安全性の向上に寄与できることから、技術的な検討を進めているところである。

 ―― 乾式貯蔵施設の整備には、どの程度の予算が見込まれているか。

【九電側回答】

  • 乾式貯蔵施設については、技術的な検討を行っているところであり、費用について、決まったものはない。

 ―― これまで乾式貯蔵を行ってこなかった理由は何か。

【九電側回答】

  • 使用済燃料については、六ヶ所再処理工場に搬出することを基本方針としているが、併せて、敷地内外での乾式保管について、従来から検討をしている。

  • その検討を行う中で、一昨年(平成26年10月)、田中委員長から「福島第一の事故の教訓も踏まえ、安全上もセキュリティ上も有利である乾式貯蔵施設に取り組むように」とのご意見があった。

  • これを踏まえ、プールで十分に冷却した燃料を空冷の方式へ移すことで、保管方法の多様化が図れ、冷却水や電源が不要となるなど、発電所の更なる安全性の向上に寄与できる乾式保管の技術的な検討を進めているところである。

 いずれも当たり障りのない答えだが、肝心の部分が抜け落ちているのではないか――。玄海原発も川内原発も、核燃料プールが事実上満杯。このままでは、「使用済み核燃料の保管に重大な問題が出る」という現実については触れていない。九電が乾式貯蔵への転換を急ぐのは、前述した通り核燃料プールの容量が限界に達しているからだろう。乾式貯蔵を検討せよとの規制委側の意見は、九電にとっては“渡りに船”。正直なところ、リラッキングなどどうでもよく、「乾式貯蔵で問題解決」というのが本音ではないだろうか。

 電力会社にとっては、いいことづくめの乾式貯蔵だが、「核のゴミをどう処分するか」という大問題が解決しない現状では、原発敷地内に核ゴミを永久保管する道をつけるのと同じ。原子力ムラの狙いは、「敷地内埋設」にあると見るほうが自然だ。



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