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甘利疑惑 文春報道への疑問

2016年1月26日 09:20

週刊文春 スクープである。「甘利大臣に賄賂1200万円を渡した」と題する「週刊文春」1月28日号の記事は、甘利大臣側に独立行政法人都市再生機構(UR)への口利きを頼み、見返りに現金や接待を供与したという、業者側の実名告発を報じたもの。主要閣僚とその秘書の違法行為が克明に描かれており、事実なら辞任は必至。政権を揺るがす大スクープであることは疑う余地がない。
 ただ、文春の報道内容で、気になっていることが二つある。まず、隠し撮りを含めた文春の取材手法。そして、告発者側の姿勢である。甘利氏側の非常識、脇の甘さは別として、報道の在り方、取材の正当性について考えてみたい。

“隠し撮り”の是非
週刊文春 見開き 文春の報道を読んで一番に考えさせられたのは、甘利氏の秘書と告発者が現金授受を行った現場に、同誌の記者がいたことだ。“もやもや感”と言っても良い。同誌のグラビア特集には、傍にいた記者が隠し撮りしたとしか思えない写真が掲載されており、記事の中でも「まず、冒頭の現金授受の場面は、小誌記者の目の前で行われたものである」として、記者の存在を認めている。記事では、その他にも、甘利氏の秘書たちの動きをカメラに収めていたことが詳細に綴られている。だが、こうして得られた写真は、隠し撮り=盗撮によるものである。(右は、「週刊文春」1月28日号の誌面)

 巨悪や不正を暴くために、隠し撮りや無断録音を行うケースがあることは理解できる。どこまで許されるかは議論のあるところだろうが、対象が「逃げ」を打つ可能性がある場合は、一定の範囲で証拠を残す必要がある。政治家や役所が取材対象であるなら、なおさら。いずれも、平気で嘘をつくからである。それでは、甘利疑惑を報じた記事に残る“もやもや感”は、どこから来るのか……。

 文春報道の問題は、現金授受の現場にいた記者が、そこで名刺を出して勝負をかけなかったところにあるのではないだろうか。まだまだ取材が不完全だったという言い訳もあろう。しかし、記者の取材が可能となったのは告発者が手引きしたからで、結果からみると、告発者と記者が、相手を「はめた」形ともとれる。犯罪行為が行われている横で隠し撮りして、その場をスルーしたことは、はっきり言って感心できない。「その場で甘利氏の秘書を問い糺すべきではなかったか」―― こう考える報道関係者は少なくないはずだ。

理解できない告発者の姿勢
 もう一点。告発者が、文春に甘利氏側の不誠実、たかりの事実を告げるに至ったのは、甘利氏側が告発者側の依頼(URへの口利き)をうまく処理できなくなったからに他ならない。記事を読む限り、最初の案件ではUR側に億単位の補償金を出させており、告発者側は、礼金として甘利氏側に500万円を持参したとある。その後、ある時点までは蜜月関係が続いていたようで、記事には、甘利氏側が度重なる接待や現金供与を受けていたことが記されている。

 記事の流れ通りなら、両者の関係がおかしくなったのは、やはりURとの2回目のトラブルが解決しなかったからだ。ならば、告発者側からの相談を、甘利氏側がすべて解決していたとすれば、どうなっていたのか?おそらく、今回の文春のスクープ報道はなかっただろう。先述した隠し撮りや一連の取材は、昨年秋に集中して行われており、告発者側が甘利氏側を見限った後のこと。違法行為を繰り返したあげく、事が停滞したから報道にタレ込んだという格好だ。告発者側に同情する必要は、まったくないし、告発したことが立派だったと讃える気持ちにもなれない。

 グラビアに掲載された、甘利氏の秘書が告発者から現金を受け取った瞬間の写真は、『外国人のビザ申請で便宜を図ってもらおう』(同誌の記事より)という依頼をめぐるやり取りの場面。つまりは、違法・脱法行為の相談だ。文春の記者がその場にいたということは、告発者側に秘書を“はめる”意図があった証左と言えよう。告発を決意するほど甘利氏側を恨んでいたのなら、なぜ金銭の要求を撥ね付けなかったのかという、素朴な疑問も残る。

 渡す1万円札をピン札に替え、それを写真に撮って、相手とのやり取りを録音までする。関係がこじれると、強硬手段 ――。告発者側のこの手法は、普通の社会人には理解できないものだ。キャバクラ、フィリピンパブといった接待場所や、カネの渡し方も常識を超える荒っぽいもの。裏社会との関係まで考え出すと、“もやもや感”が膨らむ一方だ。

文春の事情
 余談だが、一連の取材から報道まで、3カ月余りのタイムラグがあるのは何故か考えていたところ――あるベテランの週刊誌記者が、その疑問に答えてくれた。
 ―― 文春が、性風俗を描いた江戸時代の「春画」に関する記事を掲載したのが、たしか昨年の10月。発行元の文芸春秋は、これを問題視して編集長に3カ月の休養を命じました。甘利問題は、その編集長の下で仕込んだネタだったのではないでしょうか。編集長の休養明けの1月になって報じており、復帰を飾るにはもってこいのネタ。ですが、隠し撮りの部分を含めて、ちょっと危ない感じのする記事ですね。

 『危ない感じの記事』―― 同感である。



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