九州電力が昨年12月になって表明した川内原子力発電所「免震重要棟」の建設撤回をめぐり、立地自治体への説明を後回しにした同社の対応に、鹿児島県が何の反応も示していなかったことが明らかとなった。
免震重要棟の設置は、原子力規制委員会が川内原発の審査を行った際の「前提」。約束を反故にした格好の九電に対し、県民はもとより、規制委側からも同社の姿勢を疑問視する声が上がっているが、立地自治体として再稼働に最終合意を与えた県は無反応。伊藤県政の九電寄りの姿勢が浮き彫りになった形だ。
(左は鹿児島県庁、右は川内原発)
免震重要棟 唐突に建設撤回
停止中だった全国の原発のなかで、再稼働第一号となった九州電力川内原子力発電所。1号機は昨年8月に、2号機は10月に再稼働し、いずれも営業運転に移行している。
再稼働に最終的なゴーサインを出したのは伊藤祐一郎鹿児島県知事だが、避難計画は不備のまま。11月には、県が平成24年度に設置した25個所の放射線測定装置(モニタリングポスト)が、設計ミスから測定不能になる時間帯があったことが判明し、県民の安全を軽視した再稼働への合意に、批判が集まる事態となっていた。
そうした中、九電は昨年12月17日、テロに備えるための特定重大事故等対処施設や常設直流電源設備の設置、1・2号機共用の緊急時対策所=免震重要棟の計画変更などを目的に、原子力規制委員会に原子炉設置変更許可申請を行ったことを発表。同社が、免震重要棟の建設を撤回することが明らかとなった。
再稼働後に「前提」破棄
原発に事故が起きた際に対策所を置く免震重要棟は、新規制基準下での審査で設置が前提とされていた施設。唐突な建設撤回表明に、九電の姿勢を疑問視する声が上がったのは言うまでもない。再稼働を許可した原子力規制委員会側からも、「(九電は)設置を前提として再稼働の許可を得ている。基本的に(約束を)守ってもらわないといけない」(田中俊一委員長)などと不快感を示す発言が出るほど。立地自治体である鹿児島県も何らかの反応を示すはずと思っていたが、年を越しても、知事を含めて県側の声は聞こえてこない。このためHUNTERは先週、九電に対し、原発関連の質問を文書で提出。その中で、免震重要棟に関する質問取材を行っていた。免震重要棟に関する九電への質問は以下の3点だ。
これに対する九電側の回答は、次の通りである。
- 今回の計画変更は、更なる安全性向上のために検討を重ねた結果、免震重要棟と同等の機能のものを、早期に建設し、運用開始することを目指したもので、原子力発電所で多数の建設実績があり、技術的にも確立された耐震構造に変更するものである。
基準地震動Ssに耐えられる設計であれば、免震構造・耐震構造いずれも安全性の相違はなく、耐震支援棟は、緊急時対策所と一体的な運用を図る上でも、同じ耐震構造が良いと考えており、今後、規制委員会の審査を真摯に対応するとともに、地域の皆さまへ丁寧に説明していきたい。なお、玄海については、まだ何も決まっていない。
- 12月17日の原子炉設置変更許可申請に伴い、鹿児島県へ連絡を行った。また、特段、抗議や要望は頂いていない。
九電は、「免震重要棟と同等の機能のものを早期に建設」「免震構造・耐震構造いずれも安全性の相違はなく、耐震支援棟は、緊急時対策所と一体的な運用を図る上でも、同じ耐震構造が良い」としているが、この方針を、再稼働に向けた審査の途中で規制委に伝えていたとしたら、当然川内原発の再稼働は遅れていただろう。川内原発を再稼働させた後で「前提」を崩したことは、「再稼働さえすれば、あとは無理が通る。いったん動き出した原発を止めるようなマネはできまい」といった九電の傲慢な姿勢の表れだ。
国民を騙した形の九電は厳しく糾弾されるべきだが、原発の合意権限を持つ肝心の鹿児島県は沈黙したまま。九電に対し、抗議も要望もしていないというのだから、呆れるしかない。
九電は、規制委に原子炉設置変更許可申請を提出した時点で、安全協定に基づき、今回の申請に関する事前協議書を鹿児島県と薩摩川内市に提出したとしている。つまりは事後通告。県は、これに対しても無反応で、県民の不安を払しょくする努力を怠った格好だ。一体、誰のための県政なのか・・・・・。