鹿児島市の市立松元小学校が、児童の下校時にJR鹿児島線「薩摩松元駅」で起きたホーム転落事故を隠し、鹿児島市教育委員会への事故報告はもとより、同駅を管理するJR九州にも事故発生を通告していないかったことが明らかとなった。
責任逃れに終始する学校側の姿勢には呆れるしかないが、こうした事態を招いたのは鹿児島県。伊藤祐一郎知事が、民意を無視した強引な県政運営を行ってきた結果なのである。
子どもを犠牲にしかねない、狂った県政の実態を検証した。(写真は鹿児島県庁)
伊藤県政「子育て支援」の実態
松元小学校の児童数は約400人。そのうちの200人以上が、3キロ以上離れた松陽台町から通学する子どもたちで、同町の就学児童は今後も増えることが確実だ。原因は、地域住民の反対を無視して同町内で進められる県営住宅の増設。県は、松陽台町内の土地約5.6 haに県営住宅を大増設する計画で、昨年度36戸、今年度は42戸を建設。最終的には300戸以上を整備する予定なのだ。
問題は、その整備目的。県は、松陽台に県営住宅を増設するにあたり≪子育て支援≫を目的に掲げ、入居対象を未就学児のいる世帯に限ったのである。県営住宅の建設が進むに従って小学生の数が増えることになるが、「子育て支援」は実態の伴わない空証文だった。
まず、松陽台町には保育所も幼稚園もなく、徒歩で子どもを預けに行くことは不可能。さらに、小・中学校が整備されていないため、就学すると同時にJR上伊集院駅から松元小学校がある薩摩松元駅まで列車で通うか、徒歩で40~50分歩くかの選択を余儀なくされるのである。200人を超す松陽台の小学生のうち、8割以上が列車通学となっているのが現状だ。
JRを利用する子どもが増えるのに比例し、事故の確率も高まっていく。下は、松陽台の子どもたちが通学に利用している上伊集院駅の様子だが、朝の7時台、昼はのどかなこの駅の状況が一変する。
列車からは、松陽台にある「松陽高校」に通う生徒たちが次から次へと降りてくる。一般客もいる。ごった返すホームで、児童たちは身を縮めて乗車口へと向かわざるを得ない。低学年の子どもたちは、乗り遅れまいと必死で乗車口に向かうため、駅長自ら事故がないよう誘導にあたる毎日なのだという。
さらに、松元小学校がある薩摩松元は無人駅。行きと帰りで、児童たちは危険と隣り合わせの通学となる。そうした中で起きたのが、10月中旬のホーム転落事故だった。松元小に子どもを通わせた経験のある松陽台の男性は、次のように話す。
―― 児童の転落事故は、起こるべくして起きたというのが、この件を聞いた最初の、率直な感想です。
松陽台から通う児童は200人を超えます。そのほとんどがJR列車を利用しています。上伊集院駅の過密化、列車の混雑については、県営住宅の増設計画が発表された当初から、危惧されていました。無人駅である薩摩松元駅が危険であることも、分かっていたはずです。
県はそうした現状に何ら手を打たず、保護者、地域住民、JR、最寄りの高校への声かけだけで事を済ませてきたのです。あまりに無責任。県の言う「子育て支援住宅」とは、一種の皮肉にしか思えません。
他に改善策がないのであれば、かつて松陽台が宅地開発される際に計画されたとおり、小学校を松陽台に開設すべきでしょう。この状態で県営住宅への入居者を募るであれば、詐欺行為と呼ぶしかありません。
失政隠しに子どもを利用
鹿児島県は、なぜこうした状況を放置して、県営住宅の増設だけを進めているのか――。理由はひとつ。実態が知られる前に県営住宅の整備を進め、県民の批判を回避しようというというのが伊藤県政の狙いなのだ。
松陽台町の県営住宅建設計画は、平成15年から鹿児島県住宅供給公社が販売している分譲住宅地「ガーデンヒルズ松陽台」の土地を鹿児島県が約30億円で取得し、新たに県営住宅328戸を建設するというもの。背景にあるのは、公社の杜撰な事業展開だ。
松陽台の県営住宅は、約11haの予定地に「ガーデンヒルズ松陽台」として戸建用地470区画を販売する計画だった公社が経営不振で行き詰まり、同地で最大の面積を占める戸建用区画約5.6 haを、すべて県が買い取ることで救済せざるを得なくなったのが発端。破たん寸前となった住宅供給公社の支援策だったことは明らかで、住宅政策の失敗を、県民の税金で穴埋めした格好だ。無駄な公共事業への批判をかわすため、県営住宅増設の理由づけに使われたのが「子育て支援」。伊藤知事は、子どもを踏み台にして県政の綻びを繕ったと言っても過言ではあるまい。
県のホームページには、≪松陽台町の県営住宅整備について≫として、こう書かれている。
鹿児島市内の県営住宅については、近年の応募倍率が平均で6倍(既設の松陽台団地:5倍強)を超えるなど、多くの方々が入居を希望しているとともに、特に子どもを持つ世帯が新規入居者の7割を占めることなどから、安心して子育てのできる環境を整備することとしています。
- 市街地へのアクセスに優れ、自然環境に恵まれたガーデンヒルズ松陽台に県営住宅の整備を進めます。
- 子どもの成長にあわせて間取りが変更できるなどの子育てに適した住戸プランとするとともに、集会所と各ブロック毎にまとまった緑地を設置し、安心して子育てのできる環境を整備します。
県の言う「安心して子育てのできる環境」が真っ赤な嘘であることは、これまで述べてきた通りである。
児童のホーム転落事故をひた隠しにした松元小学校は、増え続ける児童数に対応できず満杯状態。小学校の新設計画もないという。子育て支援に名を借りた失政の弥縫策は、すでに破たんしていると見るべきだろう。ちなみに、この嘘つき県政。包括外部監査(平成25年度)の結果報告で、次のような指摘を受けている。
各都道府県及び政令指定都市に設立された地方住宅供給公社57 公社のうち、平成20-24年度の間に15 公社が解散し、平成25年度も奈良県住宅供給公社の解散が予定されているが、鹿児島県では公社の今後について存続方針と回答している。
平成24年度決算における当公社の債務超過額は特定調停を実施していない公社の中では山梨県(38億円)に次ぐ22億円であり、全国的にも非常に厳しい状況といえる。公社の借入金残高175億円のうち、県からの借入金約115億円は金融機関借入金に劣後する債務であり、加えて民間金融機関借入金には県の全額損失補償が付されており、県の債権放棄及び追加支出が発生する可能性がある。
県公社による宅地開発の失敗 → 税金で穴埋め → 損失拡大 → 無駄な県営住宅建設で実態隠し→さらなる税金投入――これが伊藤県政の手法だ。県政運営の歪みが、顕在化しているのは事実。子どもの命を犠牲にすることだけは、断じて許してはならない。