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僭越ながら:論

カウントダウン

2015年12月28日 08:55

 ≪government of the people, by the people, for the people≫――和訳すると「人民の、人民による、人民のための政治」。アメリカの大統領、リンカーンが演説の中で使ったこの一節は、民主主義の原則を示した言葉としてあまりに有名だ。
 翻って、現在の日本はどうか。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、原発再稼働、普天間飛行場の辺野古移設、そして安保法……。現状は「安倍の、安倍による、安倍のための政治」であり、国民の声は黙殺されたも同然。民主主義国家としての体をなしていない。
 この国は、一体どこへ向かおうとしているのだろう。

安保法、原発 
 きょう28日は御用納め、正月を前に新たな年への希望が膨らむ時期だが、今年ばかりはどうにも気が重い。国民の半数以上が反対する中、9月に安保法が成立。明けて3月には同法が施行される見通しで、安倍の判断一つで自衛隊を戦場に赴かせることが可能となる。

 福島第一原発の事故を契機に崩壊したはずの「原発安全神話」も復活した。すでに九州電力の川内原子力発電所が営業運転を開始しており、来年は、運転休止中だった全国の原発が次々に再稼働することが確実となっている。

 2015年は戦争へのカウントダウン、原発事故へのカウントダウンが始まった年だったと言えるだろう。

歪む政治
 一方、沖縄では米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設が強行されており、国と沖縄県が法廷で争うという異常な事態。“大きな虫を活かすためなら、小さな虫は殺してしまえ”というのが安倍政治の本質だ。国民の安全だの美しい国だのと騒いできたが、安倍が目指しているのは全体主義国家。最終目標は、戦争ができる国にするための「憲法改正」なのである。

 高笑いしているのは財界、右翼、米国。一般大衆はアベノミクスとやらの恩恵に浴することもなく、家計は増税によって苦しくなるばかりだ。

沈黙する報道
 暗い世相は、報道の世界にも影を落とし始めている。権力批判が売り物だったテレビ朝日の「報道ステーション」だが、長年キャスターを務めてきた古舘伊知郎氏の降板が決定。故・筑紫哲也氏が育てたTBSの「ニュース23」も、アンカーを務める岸井成格氏が来年3月いっぱいで交代するのだという。

 火のない所に煙は立たぬというが、降板劇の背景に政権の圧力が噂されているのは事実。伏線となったのは、昨年の総選挙前に放送されたニュース23と報道ステーションだった。

 衆院解散後のニュース23。ゲスト出演した安倍首相は、「景気が悪い」「アベノミクスの効果を実感できない」という街頭インタビューでの指摘に逆切れ。自説に迎合した声が無かったことと合わせ「これおかしいじゃないですか」とまくしたて、見苦しい姿を晒してしまった。

 安倍は、この時の屈辱が我慢できなかったのだろう。直後に首相側近の萩生田光一総裁特別補佐(当時)と福井照報道局長(同)の連名で、NHKと民放キー局に対し、選挙報道の公平中立などを求める要望書を送付。数日後には、アベノミクスの効果に疑問を呈した報道ステーションの内容が「放送法」に抵触するとして、テレビ朝日の担当者に恫喝まがいの要請文を突きつけるなど、報道への圧力を強めていた。

 自民党の暴走は、今年になっても止まらなかった。4月には元経産官僚・古賀茂明が報道ステーションで「官邸からの圧力があった」と発言。これを問題視した自民党は、党の情報通信戦略調査会にテレビ朝日とヤラセが発覚したNHKを呼びつけ異例の事情聴取。放送法を盾に、「政権批判は許さない」という姿勢を鮮明にした。言論の自由・表現の自由に対する権力の介入に、厳しい批判が相次いだのは言うまでもない。

 自民党の狙いが、一貫してニュース23と報道ステーションだったことは疑う余地がない。ともに、政権に批判的な国民の声を代弁してきた番組で、安倍にとっては目障りで仕方のない存在だったはず。その二つの番組で「顔」がそろって降板するというのだから、偶然にしては出来過ぎ。政権の意向が働いたと見られても、おかしくない状況なのである。テレ朝、TBSが「圧力」に屈した結果だとすれば、それこそ報道の自由を担保するために制定された「放送法」の趣旨を踏みにじったことになる。

 今年6月には、安倍に近い自民党の若手議員らが党本部で開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、政府・与党への批判的な報道を封殺するよう求める声が続出。安保法の国会審議にまで影響を与える事態となったことも記憶に新しい。

 多くのメディアが委縮する中、はしゃいでいるのは“政権の犬”と化した産経、読売だけ。報道が沈黙した「戦前」に向けて、カウントダウンが始まっていると見るべきだろう。「安倍の、安倍による、安倍のための政治」は、勢いを増す一方だ。

 年末の31日、列島各地で新しい年に向けてのカウントダウンが行われる。初詣先の神社仏閣で、イベント会場で、あるいは自宅で、それぞれが新たな年に思いを馳せる。暗い未来へのカウントダウンであってはならないはずだが……。


 

 

 



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