先月29日、福岡市民病院と福岡市こども病院を運営する「地方独立行政法人福岡市立病院機構」が、委託契約を巡る情報漏洩があったとして市民病院の元事務局長を懲戒処分にしたことを公表した。
福岡県警の捜査対象となっていたほど事件性の濃い案件だったが、主役と見られていた元事務局長への処分は「解雇」ではなく「停職3カ月」。病院機構に確認したところ、辞表は出ていないとしており、職場復帰が可能な状況だ。
どうもしっくりこない。念のため、病院機構と福岡市に処分経過を示す文書を情報公開請求。入手した文書を精査するとともに周辺取材を続けたところ、元事務局長の悪質な犯罪行為が判明。事件の真相が、闇に葬られた可能性が出てきた。(右が福岡市民病院。病院機構HPより)
医療汚して「停職3カ月」
下が、病院機構が公表した関係職員に対する処分の内容。元事務局長は懲戒で停職3か月。出向中だった市職員3人が懲戒ではなく「服務上の措置」にあたる文書戒告だ。
公表文を、今少し砕けた形にすると、こういうことになる。
元事務局長は平成23年2月、前の職場で使っていた旧知の業者に看板製作業務を受注させるため、部下に見積り合わせに参加した他の2社の見積額を漏洩させ、情報を得た業者との間に不正な契約を結ばせていた(契約金額43万3,000円)。
同年3月には別の表示板製作業務を同じ旧知の業者に受注させるため、見積り合わせに参加する予定がなかった業者の見積書を旧知の業者に用意させ、2社による見積り合わせがあったように偽装するという、大胆な手口で不正な契約を結んでいた(契約金額187万4,000円)。
つまりは情報漏洩=守秘義務違反。契約を歪めたことによる競売等妨害に問われるべき事案であり、文書偽造の疑いもある。県警が、どうして元事務局長の逮捕に至らなかったのか不思議なほどの犯行が、停職3カ月というのだから呆れるしかない。県警の捜査や事件発覚後の病院機構側の検証は十分だったのか――確認する意味で、職員処分の関連文書を調べることにした。
業者と共謀―歪んだ契約
HUNTERが病院機構及び福岡市への情報公開請求で入手したのは、関係職員への「事情聴取記録」、「職員懲戒審議会の答申決済」など5種類の文書。この中にあった事件経過を記した文書の記述を引用する形で、平成23年当時の動きを整理した。(*元事務局長は「事務局長」、市から出向していた職員は「係員」と表記)
元事務局長の行為は傲慢かつ悪質。掲示板や表示板の発注が決まった瞬間から、旧知の業者(以下「A社」)に受注させるべく動いていたことが分かる。
掲示板製作業務発注までの段階では、真っ先にA社を招き協力依頼。下見積書に加え、本来、病院側が作成すべき「仕様書」の案まで提出させていた。この間、部下職員らが作成した仕様内容案を却下するなどA社有利に進むよう配慮し、最後は他社の見積金額を部下に漏洩させてまで契約させていた。
次いで発注された表示板製作業務も、不正まみれの契約だ。こちらも、A社が仕様書案と下見積書を提出。参加業者が見当たらず、見積り合わせが困難となるや、A社が別の業者(B社)の見積書を持ち込み、できないはずの金額比較ができたように見せかけるなど、とんでもない偽装を行っていた。すべて元事務局長が主導したものである。
開示された文書は黒塗りだらけだが、読み取り可能の記述からは、出向していた市職員が不正への加担を固辞していた状況も伝わってくる。結局、事務局長の強権発動で旧知の業者をねじ込んだ形だが、犯罪に巻き込まれた職員は気の毒と言うしかない。(下が、開示された文書の一部)
隠された元事務局長の素性
これだけの事件を起こしながら、当の元事務局長は捕まりもせず、3カ月の骨休め。民間では考えられない甘い対応で、病院機構も福岡市も、この人物の氏名はおろか、経歴さえ公表していない。ただし、開示された文書の中には、元事務局長の素性をうかがわせる記述がある。度々出てくる「前職において~」という文言だ。つまり、旧知であるA社と関係ができたのは「前の職場」ということ。特別な関係が先にあり、それが癒着の原点であることは疑う余地がない。病院機構側は、元事務局長の前職について「お教えすることはできません」と固くなな姿勢を崩そうとしないが、記者の質問に対し、前の職場が「別の民間病院」であることだけは認めている。
不正の真相を解明するには、元事務局長の経歴を調べるしかない。確認作業を続ける中、開示文書の記述の中に、この人物を特定するためのヒントがあることに気付いた。