報道の使命が権力の監視にあることは言うまでもないが、その報道が権力と癒着してしまった場合はどうなるか――。例えば、地方紙が地元自治体の広報係と化し腐敗や不祥事を隠せば、読者=県民が損害を被ることになる。
代表的なのが、鹿児島県(伊藤祐一郎知事)で絶対的な販売部数を誇る「南日本新聞」と県との関係。これまでも度々その御用紙的姿勢を伝えてきたが、“県に寄り添う姿勢”は益々顕著。先月末には、100億円をかけて事実上「県」が整備し、早くも破たん必至と見られている産廃処分場に関する報道で、犬コロぶりを発揮していた。伊藤独裁県政に尻尾をふる南日本新聞の記事とは……。
搬入産廃「1000トン超」を強調
先月28日、南日本新聞朝刊に、県が住民の反対を無視して薩摩川内市に建設を強行した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(運営:鹿児島県環境整備公社)に関する記事が掲載された。下がその紙面である。
見出しは≪10月搬入量は1000トン超 エコパークかごしま≫。記事では、今年1月に開業した「エコパークかごしま」への10月分産廃搬入量が1000トンを超えたこと。9月までの搬入量が2999トンで、大口契約の目途がつくなど営業活動も活発な上、環境モニタリング調査の結果にも問題がないといったことが紹介されている。何から何まで順調――この記事を読んだ大半の人間はそう思うだろう。記事の最後にある操業差し止め訴訟については、この書きぶりからして南日本にとっては「付け足し」。大手メディアの常套手段で、公平・公正を装っただけのことだ。
新聞は見出し勝負。この記事の目的が、エコパークへの10月搬入量が1000トンを超えたということを宣伝することにあったのは言うまでもない。もちろん、読んで分かる通り「1000トン超」がすごいことだと思わせる記事の書き方。処分場は万々歳といったところだろう。だが、実態はまるで違っている。
無視された経営実態
鹿児島県への情報公開請求で入手した「鹿児島県環境整備公社」の予算関連文書によれば、エコパークかごしまの収益は、計画を大幅に下回る状況。開業以来、搬入された産廃が施設運営に必要な量の10分の1以下だったことも分かっており、生の数字が破たんの可能性を証明しているのだ。
公社が作成した平成26年度の「収支予算書」(下の文書参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部))などによれば、処分場の開業初年度となった今年1月~3月期、1億260万円を事業収益として見込んだのに対し、実際の収益は約1,170万円。産廃受入れによる売上は計画の10分の1で、不足額は約9,000万円となっていた。
27年度は、前年度の2倍にあたる2億2,572万円の事業収益を見込んでいるが、4月~8月の産廃受入量は毎月200~500トンの大苦戦。9月にようやく900トン超が搬入されたことで、開業以来の産廃総量は2999.27トン。公表されている受入れ産廃ごとの価格に従って計算すると、この間の収益は5615万2860円だったことが分かる。
10月の受入量が1000トンを超えたとしても、プラス1900万円(平均19000円/トン×1000トン)。収益は約7500万円ほどでしかない。計画通り2億2,572万円の目標を達成するには、あと約8000トン=1億5000万円、平均すると毎月1600トン=3000万円以上の稼ぎが必要なのだ。現状からするとかなり厳しく、仮にこの数字をクリアできたとしても、前年度の赤字約9,000万円は解消されない。そこそも、公社が企図した平成26年度と27年度の目標は、あくまでも開業直後の特例。施設維持のために必要な数字からは、大きくかけ離れているのである。
エコパークかごしまの稼働期間(埋立期間)は15年。60万トンの産廃を埋め立てる予定で、事業試算はこの数字を基に作成されている。昨年2月の県議会定例会で、産廃搬入料金と施設運営維持費、施設運営の採算性などについて答弁を求められた当時の県環境林務部長新川龍郎氏(現・環境整備公社理事長)は、次のように答弁している。
――管理型最終処分場にかかる料金等についてでございます。処理料金等については、県環境整備公社が検討を進めており、公社としては、処理料金の平均単価をトンあたり19000円とし、埋立期間15年で60万トンの廃棄物の受け入れにより、約114億円の収入を見込み、また支出は、公社の運営費や施設の維持管理費約54億円、建設費の借入金返済約59億円、合計約113億円を見込んでおり、現時点では収支はおおむね見合うものと考えております。
この答弁通りなら、エコパークにおける年間の産廃受入必要量は4万トン、7億6000万円を稼がねばならない。月平均3300トン超=約6300万円が必要ということで、南日本新聞がたいそうに書いた「月1000トン超」は、その3分の1にも満たないのである。
公社の運営費や施設の維持管理費には年間約3.6億円、建設費の借入金返済にも4億円が必要だ。最低でも約7億6,000万円とされていた年間支出は、27年度で9億円近くに増大。収益不足に反比例し、支出が増えるといった赤字の垂れ流し状態である。収入も支出も、県が主張してきた数字からかけ離れるばかり。民間なら「倒産」が視野に入る経営実態であることは、少し調べれば分かる。
滑稽なのは、県側の事業計画自体が絵に描いた餅であること。平成22年度に管理型施設での処分が必要とされた産廃は県全体で3万8千トンとなっていたが、27年度には3万6千トンになると下方修正されている。産廃そのものの排出量は減る傾向で、もともと年間4万トンという計画自体が無謀なものだったのだ。「月1000トン超」がいかに意味のないことか理解できるだろう。
平成25年度に実施された県の包括外部監査では、「鹿児島県環境整備公社」の経営悪化に警鐘を鳴らされていたことも明らかとなっており、南日本新聞の記事は、こうした実態を無視したもの。記事中に経営悪化を示す部分はなく、県側と一体になって県民を欺いた格好だ。
エコパークかごしまの経営が破たんすれば、ツケを回されるのは県民。南日本新聞は、歪んだ県政を助けるような報道が、読者を裏切っているということを自覚すべきであろう。