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安倍政権の犠牲になる沖縄 重なるこの国の未来

2015年10月28日 08:50

辺野古 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画をめぐり、石井啓一国土交通相が27日、埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事による処分の効力を停止したことを明らかにした。
 防衛省が行っていた行政不服審査法に基づく不服審査請求と執行停止の申し立てを受けての措置。政府は同日、埋め立て承認の権限を県から奪い去る「代執行」の手続き開始まで閣議決定しており、基地移設問題が法廷闘争に突入する見通しとなった。
 沖縄県と国の全面戦争。“地方創成”を掲げた安倍政権が、基地問題で苦しみ抜いてきた沖縄に、さらなる苦痛を与える形となる。

法律捻じ曲げる暴挙
 石井国交相が下した埋め立て承認取り消しの効力停止は、防衛省の行政不服審査請求を受けての決定。安倍政権は当然のこととして埋め立て作業を進める構えだが、安保法成立までの過程同様、法律の趣旨を捻じ曲げた末の暴挙である。

 政権が沖縄つぶしの拠り所とした行政不服審査法は、その第1条で≪この法律の趣旨≫について次のように規定している。

第1条
 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。

 どう見ても、この法律が保護の対象としているのは「国民=私人」 、決して国ではない。防衛省も国交省も国の機関であり、その防衛省が国交省に審査請求し、国の都合に合わせて決定を下すというのでは、明らかなお手盛りだ。著しく立法趣旨に反する行為がまかり通る現状は異常と言うしかない。さらに、埋め立て承認の権限を県から奪い去る「代執行」--こちらは地方自治の否定である。

行政法の学者らが政府に「NO」
 23日には、全国の行政法研究者93名が、「辺野古埋め立て承認問題での行政法研究者有志の声明」を公表し、政府の行為に「NO」を突き付けている。

 声明の中で研究者らは≪行政処分につき固有の資格において相手方となった場合には、行政主体・行政機関が当該行政処分の審査請求をすることを現行の行政不服審査法は予定しておらず、かつ、来年に施行される新法は当該処分を明示的に適用除外としている。したがって、この審査請求は不適法であり、執行停止の申し立てもまた不適法なものである≫とした上で、≪沖縄防衛局は、すでに説明したように「一般私人と同様の立場」で審査請求人・執行停止申立人になり、他方では、国土交通大臣が審査庁として執行停止も行おうとしている。これは、一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意(しい)的に執行停止・裁決を行おうというものである≫と指摘。政府が行政不服審査制度を乱用しているとして、国交相に、沖縄防衛局による執行停止の申し立て及び審査請求をただちに却下するよう求めていた。安保法では憲法学者が、基地問題では行政法の学者が政府に異論を唱えるという異例の事態である。

「公益」-安倍政権の利益
 菅官房長官は、翁長知事の埋め立て承認取り消しについて「違法な処分であり普天間基地の危険性除去が困難になる。外交防衛上の重大な損害が生じ、著しく公益を害する」と批判しているが、この場合の「公益」とは一体何を指すのだろう。基地に苦しむ沖縄は、度々の選挙で辺野古移設反対の民意を示してきており、こうした県民の意思に沿うことこそ「公益」。管氏が言う公益とは、安倍政権の利益であって、国民の利益ではない。安倍政権が目指すのは全体主義国家。「公益」の捉え方が、はなから違っているのである。

カネの力で民意を圧殺
 事を急ぎたい政府は26日、条件付きで辺野古移設を認めるとしてきた名護市辺野古、豊原、久志の3地区の自治会組織に、地域振興関連費を直接支出する方針を伝えている。沖縄県や名護市の頭越しに地元地域を黙らせようとの魂胆だが、カネの力で民意をねじ曲げる手法は、仲井真弘多前知事が辺野古埋め立てを承認した時と同じ。この時の材料は、安倍政権が打ち出した毎年度3,000億円の沖縄振興予算だった。

 終戦後の復興期、わずか140世帯に過ぎなかった辺野古に賑わいをもたらしたのは基地。ピークとなった1975年には、約300世帯、2,000人を超える住民が暮らすまでになったが、ベトナム戦争終結とともにさびれ、現在はゴーストタウン同然だ(下の写真参照)。

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 今年6月、辺野古地区での取材では、何人もの人から「もろ手を挙げての賛成じゃない」といった苦しい心のうちを聞かされた。「沖縄の民意は移設反対」――そうした報道に接する度に、心が重くなるのだともいう。終戦直後にキャンプシュワブを受け容れた時のように、米軍基地に集落の未来を託すしかない状況で、地元振興のためにやむなく基地を受け容れるという構図。政府は、国策に翻弄され続けた辺野古地区の住民を、カネの力で弄んでいるのである。分断される地方の声――これが安倍晋三が唱える「地方創成」の正体だ。

 集団的自衛権の行使容認から安保法にいる過程で、安倍政権の特徴が「民意無視」にあることが明らかとなった。国家のためと称し、平然と個人や地域の自由を奪う政権を、これ以上続けさせてはならない。沖縄の現状は、日本の未来なのだから。



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