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官房長官発言と「産めよ殖やせよ」 

2015年10月 5日 09:20

gennpatu 1864410762.jpg 先月29日、フジテレビの番組に出演した菅義偉官房長官が、歌手の福山雅治さんと女優の吹石一恵さんの結婚についてコメントを求められ「この結婚を機にですね、やはり、ママさんたちが『一緒に子供を産みたい』という形で国家に貢献してくれればいいなと思ってます」と発言した。さらに言葉を重ね「たくさん産んで下さい」……。新アベノミクスとやらの第2の矢は「夢をつむぐ子育て支援」なのだそうだが、とんだ子育て支援もあったものだ。
 それにしても、自民党の政治家たちは、いまだに「産めよ殖やせよ」から脱することができないのだろうか。

結婚十訓
 「産めよ殖やせよ」は、昭和16年1月に、夫婦の出産数を平均5児とすることを目標に閣議決定された「人口政策確立要綱」のスローガン。旧厚生省が昭和14年に発表した、次の「結婚十訓」を参考にしたものだ。

1、一生の伴侶として信頼できる人を選びませう
2、心身ともに健康な人を選びませう
3、お互いに健康証明書を交換しませう
4、悪い遺伝のない人を選びませう
5、近親結婚はなるべく避けることにしませう
6、なるべく早く結婚しませう
7、迷信や因襲にとらはれないこと
8、父母長上の意見を尊重なさい
9、式は質素に届けは当日に
10、産めよ殖やせよ国のため

 劣等な子孫が産まれることを抑制し、優秀な子孫のみを増やすというナチスの優生思想を参考にしたものらしいが、10番目の「産めよ殖やせよ」が国を挙げてのスローガンになった。背景にあったのが「戦争」であることは言うまでもない。日中戦争が泥沼化し、人口増にブレーキがかかっていた当時、兵隊のなり手が減ることを恐れた国が、無理やり多産を奨励したというわけだ。いまと昭和初期とでは状況が違うが、安倍政権は戦争法案を強行に成立させたばかり。きな臭い発言と思われても仕方あるまい。

安倍政権下、相次ぐ女性蔑視
 同じような発言で、批判を浴びた大臣がいたことを思い出す。平成19年、柳沢伯夫厚生労働相(当時)が、「15歳から50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、機械と言うのは何だけど、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言。いわゆる「産む機械発言」に、世の女性は猛反発した。辞任要求を一蹴した当時の首相は安倍晋三。トップの思想に影響を受けるのか、この人の政権下では暴言が目立つ。

 東京都議会では昨年6月、質問中の塩村文夏都議(みんなの党)に対して、自民党の鈴木章浩都議が「結婚した方がいいんじゃないのか」、「産めないのか」とヤジ。女性蔑視の姿勢に批判が相次ぎ、議会での同様のヤジが、次々と暴かれるきっかけとなった。「産む機械発言」も都議会でのヤジも、前述した「産めよ殖やせよ」と同じ発想だ。

自民党に蔓延する全体主義
 「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」――安保法案への反対運動を主導した学生団体「SEALDs(シールズ)」について、こう批判したのは武藤貴也衆院議員(問題発覚後自民党を離党)。「戦争に行きたくない」と思うのは自然で利己的でもなんでもないが、武藤氏は“国家のためなら個人の思想・信条は制限すべき”という思想の持ち主。政権に逆らう人たちは、すべて敵とみなしている。

 “”政権批判は許さない”という驕りを体現したのは下の4人だ。

1井上-thumb-550x207-14618.jpg 大西-thumb-550x207-14608.jpg
長尾-thumb-550x206-14611.jpg 礒崎%u3000陽輔-thumb-550x214-14615.jpg

 井上貴博、大西英男、長尾敬の暴言3人組は、政権の犬である産経・読売以外の報道や基地移設に反対する沖縄の民意など踏みつぶせと息巻き、礒崎陽輔総理大臣補佐官は、国家のためなら法的安定性など関係ないと言う。この4人も含め、本稿で紹介したたばか者どもに通底しているのは「全体主義」。これこそ安倍が提唱してきた「美しい国」の方向性で、個人は国家のための存在でしかない。

 ちなみに、「産めよ殖やせよ」を国のスローガンに掲げた年、日本は太平洋戦争に突入することになる。繰り返してはならない歴史があるが……。



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