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鹿児島県 放射性物質拡散予測を保有せず
崩れる避難計画の信頼性

2015年10月 6日 08:45

鹿児島県庁・原子力発電所川内-thumb-260x164-14789.jpg 川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に合意した鹿児島県が、原発事故の際に放射性物質がどのように拡散するかを予測できる唯一のシステム「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」のデータを、一切保有していないことが明らかとなった。
 SPEEDIのデータは、原発事故時のシミュレーションには不可欠。避難計画策定に極めて有用とされ、玄海原発を抱える佐賀県や隣県の福岡県は、これまでに蓄積したSPEEDIデータを保有している。
 今年8月の1号機に続き、14日にも2号機の再稼働が確実とみられる川内原発。避難計画は不十分、除染場所の情報も示さぬまま拙速に事を進めた伊藤祐一郎知事の姿勢に、疑義が生じた格好だ。
(写真左は鹿児島県庁、右は川内原発)

原発立地県の呆れた現状
 原発事故の際に放射性物質がどのように拡散するかを予測できる唯一のシステムが、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)。原子力規制委員会は昨年、曖昧な理由でSPEEDIの活用を止めたが、SPEEDIによる放射性物質の拡散予測の予測がなければ避難時の細かいシミュレーションは不可能。そこで、再稼働第一号となった川内原発に関するSPEEDIデータの保有状況を、鹿児島県への情報公開請求を通して確認した。情報公開に消極的な鹿児島県らしく30日もかかったが、出てきた答えが下の通知だ。

鹿児島県文書2.jpg

 結果は「公文書不開示」――鹿児島県は放射性物質の拡散予測(SPEEDIデータ)を保有していない。これまでの調べで、玄海原発(佐賀県玄海町)の立地県である佐賀県は、平成19年を除く14年から25年までの、主として9月の日中におけるSPEEDIデータ(他に4、5、7、11月に各1回)を保有。隣県福岡でさえ、平成24年と25年の1月から12月までのSPEEDIデータを保有している(佐賀・福岡の各データは、1日1~2回の予測)。原発立地県で、しかも川内原発再稼働を全国の自治体に先駆けて決めた鹿児島県が、避難計画策定に不可欠のはずのSPEEDIデータを持ち合わせていないというのだ。

 たしかに、川内原発の事故を想定した同県の避難計画は、弱者切り捨ての杜撰なものだった。季節ごとの風向きを考慮した細かなシミュレーションもない。鹿児島の伊藤祐一郎知事は、原発絡みの重要情報を「(県民に)知らせる必要はない」と明言するほどの独裁者だが、熱心だったのは原発再稼働の嚆矢となることだけ。県民の安心・安全など一顧だにしていなかったということになる。今年7月の定例会見では、「除染」への取り組みについて聞かれ次のように述べていた。

 今度は除染等々の話がありました。その都度、実際にそれがワークするとなると、今おっしゃるようなものも必要でもありますが、それについても十分な対応をしたいと思います。どのバスでうんぬんというのは、その都度その都度、いろんな形で若干変化していきますので、具体的な場所はその都度その都度適正に判断するとしか言いようがないと思いますが、それも含めて十分に我々として頭の中にありますので、そういう対応も必要な対応等々については準備していきたいと考えています。

 除染についての対策は「頭の中にあります」――そう断言した知事だったが、SPEEDIデータを保有していないということは、実際には除染場所を特定するための材料を持ち合わせていなかったことを示している。

 風向きは季節によって変わるため、原発事故が起きた場合の避難方法や除染施設の場所も、その時々によって変わる。しかし、放射性物質の時期ごとの大まかな拡散状況が分かっていれば、行政にとっても県民にとっても、万が一の場合の判断材料になるのは確かだ。だからこそ、SPEEDIのデータは貴重なのである。

 新潟県の泉田裕彦知事が「被ばくが前提の避難基準では住民の理解は得られない」として規制委にSPEEDIの活用を強く迫っているのは、県民のことを第一に考えてのこと。原子力ムラの利益しか頭にない伊藤知事の姿勢とは、あまりに違い過ぎている。再稼働を認める以上、県の責任で事故対策を明示するべきだが、独裁知事はこれを怠った。いや、できなかったと言うべきだろう。

鹿児島県の不作為  
 不可解なのは、規制委だけが、川内原発の事故を想定したSPEEDIデータを保有していることだ。規制委への情報公開請求によって開示されたのは、平成24年と25年に作成された2日間分のデータ。下はその一部だが、これは鹿児島県で実施された原子力防災訓練の時にとられたデータである。

スピーディ.jpg スピーディ1.jpg

 規制委にあるデータを鹿児島県が保有していないのというのは、怠慢を通り超えて致命的な不作為。県の担当者に確認を求めたところ「見たことがあります」という程度だった。原発推進の意向を露わにした県政トップの姿勢が、県職員にまで浸透している証拠。これで県民の安全が守れるはずがない。

 川内原発2号機の再稼働は目前。本当にこれでいいのか――安全無視の知事の姿勢が問われている。



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