自民党の力の源泉は、言うまでもなく“利権”。票とカネの両方がついてくる公共事業が、長く同党を支えてきたのは確かだ。国の予算を、より多く引っ張ってくることのできる国会議員の選挙は安泰――必然的に無駄な道路や橋が増える。地方では、この図式がいまだに健在で、政官業の癒着はそう簡単になくなりそうもない。
省庁の予算や人事に影響力を持つ大物政治家には役所も遠慮するもの。たとえそれが引退した政治家であったとしても、特別扱いは続いていくらしい。先月、福岡県の南部地域で、ある大物政治家の力を見せつけるかのような出来事があった。
絶大だった古賀誠元幹事長の力
福岡県南部出身の大物政治家といえば古賀誠元自民党幹事長。古賀氏の在任中、地元の衆院福岡7区では大型公共事業が相次ぎ、建設業者はこぞって古賀氏の選挙運動に精を出したという。古賀氏が代表を務めていた自民支部への、建設業者を中心とする政治資金提供額もけた外れ。古賀氏が引退した時点で残った政治資金は、7億円を超えていたことが分かっている。農協、漁協、商工会に建設業界の支援――選挙地盤は盤石だった。
古賀氏の代表的な“作品”は、「おぼろ大橋」(福岡県八女市上陽町)、「有明海沿岸道路」(大牟田市~佐賀県鹿島市)、「新幹線・筑後船小屋駅」(筑後市)。それぞれ「誠橋」「誠道路」「誠駅」などと称されてきた。小物ばかりとなった永田町で、建造物に名前を冠されるほどの力を発揮する政治家は稀。地元における古賀氏の力が、いかに絶大であるかを示す証拠とも言える。
九地整の案内状
さて、下は先月上旬、関係者だけに届けられたという文書。有明海沿岸道路「三池港IC連絡路」の着工を前にした杭打ち式の案内状だ(式典日時など一部を省略)。案内状を配ったのは、国土交通省の出先である九州地方整備局の福岡と熊本の国道事務所である。
問題は、杭打ち式の概要を記した二枚目。なかでも、「挨拶」と「祝辞」を述べる予定となっている福岡県側のメンバーに注目した。県会議長と知事の他に、古賀氏の後継で福岡7区の藤丸敏衆院議員、そして「有明海沿岸道路建設促進福岡県期成会」の顧問という肩書きがついた古賀誠氏の名前がある。
巨額な税金を投じた事業であるにもかかわらず、この記念行事に呼ばれた福岡県の政治家は“当初”この4人だけ。県政界関係者はこう打ち明ける。
――挨拶どころか、古賀、藤丸師弟コンビ以外の自民党国会議員には、(杭打ち式)の案内さえなかった。民主党には県南出身の参院議員が二人いるが、そちらは式典があることさえ知らされていなかったはずだ。“古賀さんへの特別な配慮” ―― そう思われてもおかしくない案内先の選定で、古賀さんの力の誇示のために、国交省が舞台を用意した形だった。やり過ぎもいいところだ。
式典直前、野党議員にも案内状
こうした声は国交省にも届いていたとされ、式典の数日前になって事態が急展開する。
上は、杭打ち式当日の一コマ。杭打ちを行っているのは古賀氏だが、なぜか挨拶の予定がなかった参院議員の顔が見える。写真には入りきれていないが、民主党の議員も参列していたことが分かっている。
じつは式典の数日前、古賀氏と距離を置く自民党議員や民主党の国会議員に、前掲の内容そのままの案内状が届けられていたのである。批判を受けての方針転換。式典のスケジュールには変更がなかったことから、体裁だけ整えたということらしい。
九州地方整備局福岡国道事務所に、式典で挨拶する人をどのような基準で決めたのか聞いたが、「与野党の関係者に幅広くご案内をいたしました」と的外れの答え。挨拶の人選ではなく、案内先を限定したことへのゴマカシが先に口に出た。改めて、関係者の話を聞いた上での取材であることを告げ回答を迫ったが、「確認して連絡する」という国道事務所の約束は10日経っても守られていない。
歪む公共事業
県南地区での古賀氏の功績は大きい。特に、有明海沿岸道路の沿線住民からは「便利になった」という声が多いのも確かだ。だが、延長約55kmの沿岸道路に、これまで投じられた税金は約2,700億円。全線開通までに、まだまだ事業費がかかるという。しかも、自動車専用道路(地域高規格道路)でありながら通行は無料。「これだけ道路にかける税金があるなら、もっと福祉や教育に回してほしい」(福岡7区に住む50代主婦)といった声が上がるのも当然だろう。
古賀氏の力の源泉が公共事業であったとするなら、それは税金による地盤培養。役所がそれに加担する現状は、やはり歪んでいると言わざるを得ない。