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おかしいぞ、福岡県! ― 守られる「海砂利権」

2013年4月22日 08:15

福岡市東浜に揚陸された大量の「海砂」 今月15日、玄海沖の海砂採取に関する許可権限を持つ福岡県が、海砂の量を確認する調査―「賦存量調査」(ふぞんりょうちょうさ)を、28年間にわたり実施していなかったことを報じた。海域の環境保全と適正利用を謳った「福岡県一般海域管理条例」の趣旨に反する事態だが、不作為を続けてきた県は沈黙を守ったままだ。海砂利権に群がり続けて生きた業者を擁護することに専念してきた県としては、再び問題が顕在化することを恐れているとしか思えない。環境より利権が優先されてきた“海砂行政”のこれまでを振り返っておきたい。
(写真は、福岡市東浜に揚陸された大量の「海砂」)

無法な海砂採取で環境破壊
 福岡県内における海砂採取問題がクローズアップされたのは、平成17年のことだ。はじめに問題となったのは、海砂採取の際の掘削深問題。採取業者は、「福岡県一般海域管理運用要綱」(以下、『要綱』)に定められた「掘削深1メートル」を守らず、取れるだけの海砂を海底からバキュームしていたのである。結果、海底が凸凹になり、魚群探知機でも確認できる状況になっていたとされる。

 次いで判明したのが、同じく要綱に定められた「賦存量調査」を20年間怠っていたという事実。環境保全が叫ばれる中、県は自ら定めた規定さえ守っていなかった。海砂採取業者が欲しいままに海砂を採取し、県がこれを黙認するために必要な調査をサボタージュするというもたれ合いの構図だが、賦存量調査はその後も実施されず、28年間にわたって不作為が続いている。

 無法な海砂採取と県の不作為がもたらしたのは海域の環境破壊だった。海砂問題の報道が続く中、平成14年から福岡県が民間企業に委託して海底の実態調査を行っていたことが判明。その報告書に、「漁場価値の著しい低下」「回復に20年」「グミ(なまこの一種)の大量発生」といった海砂採取による“被害状況”が、克明に記されていたのである。

業者擁護のため要綱を改悪
 一連の報道を受け、改めて注目されたのが前述の「要綱」。困まり果てた県は、平成18年に要綱の内容を一方的に変更し、業者擁護の姿勢を鮮明にする。
 例えば、「要綱」の第3条(3)は、次のように変えられている。

変更前:「掘削深は、1メートル以内であること
変更後:「掘削に当たっては、部分的に深堀りをしてはならないこと

 県は、それまでの“掘削深1メートル”という海砂採取の方法自体が“現状に合っていない”として、肝心の部分を削除することで問題の沈静化を図ったのである。つまり、何メートル掘ってもかまわないということで、海底が凸凹になっている事実は、全く無視されてしまった。

資格のない「組合」の存続を後押し
博多海砂組合 要綱の改悪は、「掘削深1メートル」の削除だけにとどまらなかった。法的な資格を有しないことが分った海砂採取業者の組合を、要綱の条文に加筆することで無理やり存続させたのである。

 平成18年、県内の14社で組織された「博多海砂採取協同組合(当時の名称)」が、組合自ら定めた定款に、組合員の資格を「自己の採取船を保有し、砂の採取を行う事業者」と規定しながら、実際には4社しか採取船を保有していないことが分った。

 「中小企業等協同組合法」の「法定退会」の規定に従えば、この時点で博多海砂採取協同組合は違法状態。法定の理事定数も満たしていなかったのであるから、操業停止はもちろん、組合が存続することも不可能だったはずだ。しかし県は、博多海砂採取協同組合を協業組合に組織変更することを認めた上で、要綱そのものを変えてしまう。

変更前:「土石採取を行おうとする者は、県内採取業者(福岡県内に主たる事務所を有する海砂の採取を目的として設立された中小企業等協同組合法に規定する事業協同組合をいう)であること」
変更後:「土石採取を行おうとする者は、県内採取業者(福岡県内に主たる事務所を有する海砂の採取を目的として設立された中小企業等共同組合法に基づく組合及び中小企業団体の組織に関する法律に基づく組合をいう)であること」

 福岡県は、海砂採取業者の杜撰な組織運営を容認し、利権の存続に力を貸し続けてきたのである。海砂採取で環境が破壊されるのは自明の理。瀬戸内海では既に海砂の採取が全面的に禁止されている。しかし、九州では依然として海砂採取が続いており、なかでも福岡県沖の採取量はダントツだ。年間上限400万㎥、平均すると東京ドームの2杯分にあたる年平均250万㎥という膨大な海砂が、建設用資材として消えているのである。

海砂利権の闇
 海砂採取をめぐっては平成22年、玄海沖でも海砂を採取している「唐津湾海区砂採取協同組合」(佐賀県唐津市)が、所得税法違反(脱税)の疑いで佐賀地検に摘発され、その後有罪判決を受けている。

 福岡県は、玄海沖での海砂採取を認める一方、有明海では他県で採取された海砂をばら撒くという事業を進めてきた。覆砂(ふくさ)と呼ばれる工事である。じつは、この工事をめぐっても、県と業者の癒着を示す事件が起きていた。明日から、その実態を報じていくが、海砂利権の闇は深い。



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