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鹿児島県知事サイン・コサイン発言 議事録は事実上の“捏造”

2015年10月13日 07:00

002.png 時代劇に登場する悪代官といえば、威張りちらして民衆を苦しめるのが相場。こうした手合いに限って、悪行を暴かれると見苦しい嘘や姑息な手段でその場を逃れようとするものだ。
 鹿児島県の伊藤祐一郎知事(写真)は、まさにその典型。会見での傲慢な態度や民意を無視する県政運営に対し、県外からも批判が上がるほど。姑息さも歴然で、波紋を呼んだ女性蔑視発言に関する会議の議事録を、都合のいいように書き変えていた。
 鹿児島の独裁者・伊藤知事の悪辣さを、2回に分けて検証する。

議事録から消えた「女の子」
 問題となったのは、8月27日に県庁で開かれた第2回鹿児島県総合教育会議における知事の発言。県の教員委員と知事で構成されるこの会議で、知事は次のように発言していた。

 ―― 高校教育で女の子にサイン・コサイン・タンジェントを教えて何になるのか

 ―― 女性委員に怒られるけど、「社会に出て、サイン ・コサイン ・タンジェトを使ったことがあるか 」と女性に聞いたら、10分の9は「使ったことありません 」とおっしゃる。

 発言が報じられた直後から、女性団体はもちろん識者からも厳しい批判。翌28日の定例会見で、言い訳せざるを得ない事態に追い込まれた。この時、発言の趣旨について説明を求められた知事は、記者団と次のようなやり取りを行っていた(以下、県ホームページより)

【伊藤知事】
 昨日の教育会議でいろんな議論がありました。そして私の教育に対する基本的な考え方とか、相当のことをしゃべっています。どういう人物像が必要かとかなんとか。それはもう全く取材の対象になっていないようですね。これが本論です、教育会議でありますから。

 その後、学力調査の報告があったのです。それで、鹿児島はなかなか順番が伸びないという過程の中で、確か「小中高においてはやはりきちんと勉強しなければいけない。その上に更に何を教えるかは結構難しい」という類の中で、たまたま女性に関連して「サイン・コサインというのは教えて何になるのかなと思うこともありますね」ということを言っているのです。そもそも「サイン・コサイン・タンジェント」皆さん方、サインアルファプラスベータ・コサインアルファプラスベータを高校時代に習ったと思いますが、あの公式を覚えておられますか。

 私もサイン・コサインというのは、実は人生で1回使いました。私の足がもし15センチ長ければ、私はウサイン・ボルトくらいのスピードで100メートルを走れます。ということで、私の足を15センチ長くして一歩一歩をどういう形で、すごい回転が速いですから。その時ぐらいしかサイン・コサインは使っていないよねと。ですからサイン・コサインというのはいったい何に使うのかねというのが従来からあって、昨日はたまたまそれと女性を結びつけて口がすべった形でしゃべったというのが本当のところです。ですから、女性蔑視とかなんとかという話ではなくて、どうしてああいう記事になるのかよくわからないけれども、その程度の話なんですよね。サインコサインアルファプラスベータ・コサインアルファプラスベータとか、まぁまぁ教えなければいけないのですが、サイン・コサインとかログとか、数学を専門にする理科系の人は違いますよ。ですからいろんなカリキュラムの中でいったい何を教えるかというのはけっこう難しいというのがあのセンテンスです。全部読んでいただくとそうなっていると思いますが。そこの「女の子にサイン・コサインを教えて何になるのかな」というところだけ引っ張り抜かれました。以上です。

【記者】
 今の質問に関連して、知事としてはその発言については問題なかったとお考えですか。

【伊藤知事】
 少々軽率だったかもしれませんね。と言った方がよろしいでしょうね。そういう意味ではなくて、「女性だけではなくて、私にとってもサイン・コサインは使ったことがないよね」と。今までそういう話をずっとしていて、たまたま、昨日はそれを「女性」とうっかりしゃべってしまったというのが昨日の発言の趣旨ですので。

【記者】
 撤回・訂正するお考えはないと。

【伊藤知事】
 撤回・訂正というか、「口がすべった」というのは撤回・訂正ですよね。実際難しいのですよ、何を教えるかというのは。中学校の頃明確に言われた話が、実は頭の中にあってこの発言が出てくるのですが。「君たちね、英語の単語を1つ覚えるよりも、世の中の草花の名前を覚えた方が人生は豊かになるんだよ。君たちは今一生懸命英単語を覚えているんだけど。」というのが、中学校の時の先生に教わったセンテンスですし、それが今も頭の中にあり、考えてみれば草花の名前なんてほとんど知らないよねというのが潜在的にありますので、ああいうセンテンスになって発言したんですけど。皆さん方いかがでしょうかね。昨日は、私の教育観についても、人間像についても結構しゃべっていますので、きちんと議事録を読んでいただければと思います

 “言い訳”というのは多弁になりがちなもの。ウサイン・ボルトやらサインアルファプラスベータやら、総合教育会議で話してもいない事柄まで持ち出し、女性蔑視ではないと強弁する知事。だが「口がすべる」は、言ってはならないことをうっかり言ってしまうこと。知事が主張する「撤回・訂正」ではない。結局、不適切な発言であることを認めながら“謝罪”はなし。知事は「うっかり」「たまたま」で逃げきりを図り、「議事録を全部読めば分かる」として記者団との質疑を打ち切っていた。

 ところが約2週間後の先月14日、県のホームページ上で公表された議事録からは、肝心の部分が削除されていた。下が、伊藤知事の問題発言部分である。

コサインサイン-2.png

 結論から述べると、これは事実上の“捏造”。知事発言から、肝心の「女の子」「女性に」が削除されており、前提にした「女性委員に怒られるけど」もない。知事発言を正確に記すなら、こうなるはずだ。

 高等学校になると、 いろんな人生の問題、いろんな人生の分野が あるので、そこは、もう少し均一的な教育の仕組みを変えた方が良いのかなという気もしている。と従来から言っている。
 女性委員に怒られるけど、「社会に出て、サイン ・コサイン ・タンジェトを使ったことがあるか 」と女性に聞いたら、十分の九は「使ったことありません 」とお っしゃる。
 高校教育で、女の子にサイン ・コサイン ・タンジェトを教えて何にな るのかなと。
 それよりも、もう少し社会の事象とか、植物の花とか、草の名前とか覚えさせた方が、教えた方がいいのかなというのがある。

 「女性委員に怒られるけど」は、女性を対象にした発言だったことの証拠。知事の「たまたま」「うっかり」という強弁を否定する部分だ。都合の悪いところを、意図的に削ったと見るのが普通だろう。さらに「女の子」「女性に」を削ったのは、会見での自身の発言を正当化するための行為。これによって、発言の本質を根本から変えてしまっている。問題視されたのは、知事の発言が「女性」に向けられたものだったからなのだ。肝心の部分を省いておいて「きちんと議事録を読め」はあるまい。

 姑息な手法は、これだけに止まらない。公表された資料は「第2回総合教育会議 議事録」となっているが、知事と教育委員とのやり取りは「議事の概要」。ここでもまた、“概要だから大筋が分かればいい”という逃げ道を作っている。前述したように、知事は「全部読んでいただくとそうなっている」「きちんと議事録を読め」と明言していたはず。ならば、一言一句あまさず正確な議事録を公表すべきだった。

時代錯誤の「教育観」
 ちなみに、会見で知事は「私の教育観」と言っている。今春、鹿児島県肝付町に、県立の中・高一貫校『楠隼(なんしゅん)中学・高校』が新設された。整備費に約50億円が投じられた同校は、「全国初の公立全寮制男子校」。公立でありながら目指すのはエリート養成校、男女共同参画の時代に男子オンリーの学校なのである。同校のコンセプトに、伊藤知事の考え方が盛り込まれているのは言うまでもない。昨年4月の会見で、「全寮制にする、男子校にする、そのへんも知事が提案されたのでしょうか」と聞かれた知事は、こう答えていた。

 ―― 提案というわけではないけれども、私の考えとは一致していますね

 女性を区別して政策立案しているのは事実。サイン・コサイン発言の裏に、知事の時代錯誤的な「教育観」があったことは疑う余地がない。世の中では、これを女性蔑視という。



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