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原発再稼働 無視される放射性物質拡散予測
「SPEEDI」のいま

2015年9月30日 09:45

川内原発、玄海原発 昨年10月、原子力規制委員会が原子力災害対策指針を改正し緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用を止めることを決めた。SPEEDIは、原発事故の際に放射性物質がどのように拡散するかを予測するシステム。国が百数十億をかけて構築し、毎年巨額の業務委託費を投じて維持してきたものだ。
 福島第一原発の事故で適切なデータを出せなかったため批判の対象になったが、避難計画の策定などには有用。規制委や地方自治体が蓄積されたSPEEDIのデータをどう活用したのか、改めて検証した。
(写真左は川内原発、右が玄海原発)

SPEEDIを巡る状況
 SPEEDIシステムの構築に投じられた税金は120億円以上。福島第一原発の事故までは文科省が所管し、同省の天下り団体「公益財団法人 原子力安全技術センター」に毎年5億円~8億円の業務委託費を出し、運用させてきた。

 原発事故時の住民避難に役立つものと期待されていたが、福島第一の事故では震災によって発電所内の機器が破損。放出源データが得られず放射性物質の拡散予測ができない状態となり、目的を果たせなかったことで批判を浴びる結果となっていた。以後、所管は経済産業省原子力安全・保安院に移り、現在は原子力規制委員会が引き継いでいる。

 フクシマ以後、全国の原発が停止したが、再稼働にあたって最も重要になるのが「避難計画」。原発の立地自治体などからは、規制委に対し、放射性物質の拡散状況を唯一予測することが可能なSPEEDIを活用するよう意見書が提出されていた。

 ところが規制委は昨年10月、SPEEDIの運用方針を変更。緊急時における避難や一時移転等の防護措置の判断にあたってはSPEEDIによる計算結果を使用しないと決め、今年4月には原発事故時の住民避難の基本方針を定めた「原子力災害対策指針」から、SPEEDIに関する記述そのものを削除してしまった。これを受け、7月には国が、災害対応の基礎となる「防災基本計画」からSPEEDI活用を除外している。方針変更の道筋をつけたのは規制委。理由は、以下の通りだ。

 放射性物質の放出が収まり沈着した段階以降において、防護措置以外の判断を行う場面等では、今後も、活用目的、活用するタイミング等を明確にした上で、SPEEDIから得られる情報を参考とする可能性があると考えている。しかしながら、原子力災害対策指針がその方針として示しているように、緊急時における避難や一時移転等の防護措置の判断にあたって、SPEEDIによる計算結果は使用しない。

 これは、福島第一原子力発電所事故の教訓として、原子力災害発生時に、いつどの程度の放出があるか等を把握すること及び気象予測の持つ不確かさを排除することはいずれも不可能であることから、SPEEDIによる計算結果に基づいて防護措置の判断を行うことは被ばくのリスクを高めかねないとの判断によるものである。
(規制委:「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の運用について」より)

 結論から述べるが、この規制委の判断には重大な誤りがある。たしかに、放射性物質の放出状況や気象状態を予測するのは難しい。しかし、SPEEDIは、あらゆる気象状況と放射性物質の放出量から、ほぼ正確な拡散予測をすることが可能なシステム。百億円以上の公費を投入して運用してきた実績や積み上げた膨大なデータは、避難計画の策定において極めて有用な材料となる。逆に考えれば、SPEEDIの予測がなければ避難時の細かいシミュレーションは不可能とも言える。規制委は、『SPEEDIによる計算結果に基づいて防護措置の判断を行うことは被ばくのリスクを高めかねない』としているが、これは事故発生後のことだけしか考えていない証拠。事前の避難計画の重要性を無視した結果なのである。

 季節ごと、一日の時間ごとに気象状況は変わるが、原発事故の度合いに応じた放射性物質の放出量は想定が可能。ならば、その地域に応じた細かいシミュレーションを確認するのが普通だ。まともな自治体のトップなら、あらゆる事態に備えたくなるもの。原発事故の防止・対応策が十分でない現状に懸念を示してきた新潟県の泉田裕彦知事は、「被ばくが前提の避難基準では住民の理解は得られない」として規制委にSPEEDIの活用を強く迫ってきた。しかし、規制委はこれを黙殺。システムを所管しながら、有効利用を否定するという異常な姿勢を崩そうとしていない。規制委は、重大事故が起きた場合の避難を実際に測定された実測値を基準に判断するとしているが、これはあくまでも事故後の対応。実効性のある避難計画は、無視されていると言っても過言ではない。

川内原発、シミュレーションデータはたったの2日間分
 原発再稼働の第一号となった川内原発(鹿児島県薩摩川内市)だが、規制委は、杜撰な県の避難計画を丸呑み。自ら原発事故時のシミュレーションを行った形跡もない。規制委に対し、改めて川内原発の事故を想定したSPEEDIデータの情報公開請求を行ったところ、たったの2日間分のデータしか保有していないことが分かった。下は、規制委への情報公開請求で入手した川内原発の放射性物質拡散予測の一部。規制委が保有していたのは、鹿児島県が平成24年と25年に実施した原子力防災訓練の時に利用された2日間分のデータだけだった。

スピーディ.jpg スピーディ1.jpg

 前述したように、気象条件は季節ごとに変わる。朝と晩で風向きが変わりこともしばしばだ。詳しいシミュレーションには膨大なSPEEDIデータが必要だったはずだが、規制委は方針転換以前からSPEEDIを重要視していないかったらしく、データの確認さえ行っていなかった。避難計画の実効性など、どうでもよかったということだろう。

 それでは、原発事故の影響を受けることが確実視される周辺自治体は、どのような対応を行ってきたのか――。玄海原発に関係する自治体のSPEEDIデータ保有状況を確認したところ、とんでもない実態が浮かび上がってきた。

(以下、次稿)



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