「アジアのリーダー都市」を目指すとしてきた福岡市が、中国籍の嘱託職員をターゲットにした脅しの電話に屈し、市の公文書に記載されている中国・韓国籍職員の氏名などを黒塗りにし、「非公開」扱いにしていたことが分かった。
脅しの対象となったのは中国籍の嘱託職員。だが、市は過剰反応し、脅しの電話とは関係のない韓国籍職員の情報まで非公開にしていた。
背景にあるのは、高島宗一郎市長が独断で「覚書」を締結し、猛烈な反発を受け頓挫した中国人公務員の研修受け入れ制度。失政が原因となったのは明らかだが、市は責任逃れとしか言いようのない、子どもじみた対応で収拾を図っていた。
「アジアのリーダー」というキャッチコピーが色あせる事態。高島市政が進める“国際交流”の在り方が問われている。(写真は高島福岡市長)
中国・韓国籍の職員名を非公開
福岡市が非公開扱いにしていたのは、中国と韓国から来日し、通訳などの業務に就いた嘱託職員の氏名と国籍。平成24年9月から3年間にわたって、当該職員の旅行命令書などに記載された情報を黒塗りにし、ホームページやフェイスブック上の情報も削除するといった対応を行っていた。
中国・韓国籍職員の氏名を黒塗り非開示にしてきた経緯と、これまでの対応が分かる文書を開示請求したところ、前代未聞ともいえる対応の原因となったのは、同年9月に市役所に架かってきた一本の電話。職員が受けた電話は、中国人職員を対象に、市側を脅す内容となっていた。市側は、この電話に過剰反応し、関係のなかった韓国人スタッフの情報まで非公開扱いにしていた。下は、同年9月に市内部で対応を決めた時の決済文書である。
卑劣な圧力に対し、はねつけるどころか場当たり的な隠ぺいに走った形。事の本質をとらえた解決策には程遠い手法だ。市側は情報非公開が職員の安全につながると主張しているが、本来、市職員に対する脅迫や強要に対しては、毅然とした対応をとるのが筋。原因が市長の失政にあったというのなら、市長自ら経緯を公表し、いかなる理由があろうとも暴力的な要求は許さないとする姿勢を示すべきだった。「アジアのリーダー都市」を標榜する以上、アジア各国から称賛を得るような対応があって然るべきだろう。
そもそも、匿名で架かってきたという脅しの電話の内容は、中国人職員を対象とするもの。韓国籍職員の情報まで非公開にする必要はない。裏を返せば、福岡市が、韓国を中国と同じように憎悪の対象となる国であることを認めたようなもの。わざわざ騒ぎの種を増やした格好となっている。
日韓親善に詳しい関係者は、こう話す。
―― 平成24年というと、竹島問題で日韓の間に緊張が高まった頃でしょうか。しかし、それと中国人公務員の研修問題とは関係ないでしょう。韓国籍の職員の名前まで消したということは、臭いものには蓋をしておこうという福岡市の姿勢の表れ。これでは、韓国との真の友好関係は築けないですね。脅しに屈するのもよくない。中国や韓国の人をいたずらに攻撃するのをたしなめるのが大人の政治家。高島市長さんは、“逃げた”ということです。本気で韓国人を守ろうという気持ちがあったとは思えません。
福岡市の国際交流に深く関わってきた関係者もあきれ顔だ。
―― 高島さんは、福岡と韓国の歴史をご存じないようだ。もともと、韓国との交流を強く願ったのは福岡市の方。進藤一馬元市長時代から懸案となっていたものを、桑原(敬一・元市長)さんが平成元年に釜山との『行政交流都市提携』という形で実らせた。その後、19年に釜山との『姉妹都市締結』に至るまで、韓国側との官民をあげての交流が続いてきた。中国と韓国をいっしょくたにして公的な記録から抹消するようなマネは失礼だろう。だいたい、名前を隠したから、安全が守れるという論法自体が理解できない。
チグハグ対応で意識の低さ露呈
日韓親善に詳しい関係者の言う通り、市側の“職員を守ろう”という意識が極めて低いものだったことは方針決定後のお粗末な対応からも明らかだ。今回、中国・韓国籍職員の氏名などを非公開にしていることが分かったのは、市への情報公開請求で入手した高島市長の韓国出張関連文書の一部が黒塗り非開示になっていたことが発端。整合性のない文書の開示方法に、記者が疑問を持ったからだ。まず、直近に開示された文書が下。通訳の氏名が黒塗りされている。
黒塗りの理由を尋ねたところ、市側は、外国籍の職員を対象とした「脅迫電話」があったため、職員の安全を守るという観点から、中国・韓国籍職員の氏名を黒塗り非開示にしてきたという。だが、一昨年、別の取材のため情報公開請求し、開示されていた同じ文書では、韓国人通訳の氏名は黒塗りになっていなかったのである(下がその該当部分)。
市側は当初、これを方針決定以前の情報公開で出された文書だと強弁していたが、中・韓国籍の職員名を隠すようになったのは前述の通り平成24年9月から。問題の釜山出張は平成25年2月。この時の出張自体が、方針決定の後だったのである。開示される出張関連文書においては、当然、韓国人通訳の氏名が黒塗りされていなければならなかった。だが、黒塗りなし。つまり、市側のミスだったのである。市側の本気度が疑われるのは当然だ。
お粗末対応の極め付けは、ここから。隠したはずの韓国人通訳の顔と名前が、つい先日まで市のホームページ上に残ったたままとなっていたのだ。下がその画面(画面の修正はHUNTER編集部)。市は、HUNTERが指摘するまでこの事実に気付いていなかったといい、指摘を受け、あわてて削除する始末。情報非公開が、いかにいい加減だったかを示す事例だと言えよう。こうなると、滑稽と言うしかない。
原因は「市長の失政」
問題を起こす原因を作ったのは、市長の失政だ。平成24年7月、高島市長は、唐突に中国から年間800人の公務員を研修として受け入れることを発表。市議会に諮ることもなく、3日後には中国側と研修受け入れの覚書まで交わしてしまった。この時の動きは、当時の配信記事≪高島福岡市長の「無知」≫に詳しいが、市議会や右寄り陣営はもちろん、多くの市民からも批判を受け、計画を断念していた。
中国籍公務員を狙った脅迫電話は、明らかにこの時の市長の暴走に起因するもの。市側は「そうではない」と市長をかばうが、市の内部文書には、これを認める記述が残されていた。(下参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
『騒ぎ』とは中国人研修受け入れを巡る騒動のこと。市側は、時間が経過して落ち着くまで、中国・韓国籍の職員名を隠すという、本質から外れた弥縫策でお茶を濁したということになる。結果、「頭隠して~」どころか、頭をさらして尻だけ隠すという、前述のような顛末となっている。
ちなみに、高島市長が、失敗した仮想行政区「カワイイ区」の2代目区長に据えていたのはタレント事務所所属の外国人女性。金髪の外国人なら表に出すが、中・韓の人は隠すというのだから、呆れた国際感覚だ。これが「アジアのリーダー都市」のやる事か?