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高島福岡市長の「無知」 

2012年8月 7日 12:10

 今年4月、東京都の石原慎太郎知事が、都として尖閣諸島(沖縄県)を購入する意向を示した。その後の騒ぎについては周知の通り、いまさら説明するまでもないが、波紋は国内外に拡がった。
 一方、5月には、外国人登録証明書を不正更新したとされる中国大使館の書記官に、対中輸出促進事業に関する農林水産省の機密文書が漏洩していたとする疑惑が浮上。政権を揺さぶる事態となったことは記憶に新しい。

 いずれも現在進行形ではあるが、「国益」に関する議論を喚起したことは間違いなさそうだ。議論の先にあるのは「中国」だが、その中国から年間800人の公務員を研修として受け入れ、自前で積み上げた技術やノウハウを献上しようという首長が現れた。福岡市の高島宗一郎市長である。

 石原知事が聞いたら腰を抜かしかねない話だが、高島市長は先月3日、唐突に方針を発表。議会に諮ることもなく、三日後には中国側と研修受け入れの覚書まで交わしてしまった。
 拙速とも思える研修受け入れの背景に何があるのか、覚書締結までの過程を検証したが、見えてきたのは、人気取りに狂奔するタレント市長の“無知”だった。
(写真は福岡市役所)

公文書で見る政策決定過程
 福岡市への情報公開請求で入手した覚書締結までの過程を示す一連の文書から、今回の施策決定までの流れを追った。
(注・『 』内は文書名。《 》内が出張日と訪問先、協議参加者)

【平成23年】
文書名:『旅行命令(依頼)書』(11月17日付) 
出張日:平成23年11月21日~22日
訪問先:「財団法人日本国際センター(JICE)」・外務省(日本アセアン統合基金関係協議)・独立行政法人国債協力機構(JICA)。
出張者:総務企画局国際部国際課の課長と課員2名+市の外郭団体「公益財団法人福岡アジア都市研究所」副理事長と係長

文書名:『出張復命書 別紙協議メモ』(11月25日提出)
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文書名:『旅行命令(依頼)書』(12月13日付)
出張日:平成23年12月16日
訪問先:中国国家外国専家局日本駐在事務所(東京)
出張者:総務企画局国際部国際課係長+福岡アジア都市研究所から2名

文書名:『出張復命書 別紙協議メモ』(12月21日提出)
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【平成24年】
文書名:『中華人民共和国国家外国専家局の山崎副市長への表敬訪問について(協議メモ)』
訪問日:1月12日 
市側:山崎一樹副市長
中国側:中国国際人材交流協会日本国駐在事務所(中華人民共和国国家外国専家局)より2名

文書名:『旅行命令(依頼)書』(4月19日付)
出張日:4月23日 
訪問先:中国国家外国専家局(北京)。
出張者:総務企画局国際部国際課課長、係長+福岡アジア都市研究所から2名》

文書名:『出張復命書 協議報告』(5月2日)
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文書名:『覚書締結の決済文書』(7月2日付)
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7月3日 ―高島市長、定例会見で覚書締結を公表―

文書名:『旅行命令(依頼)書』(6月13日付)
出張日:7月5日~7日 
訪問先:中国国家外国専家局(北京)。
主張者:高島市長、総務企画局国際部部長、係長、嘱託職員

結論ありきで始まった動き
 公文書の時系列的な流れを見ると、わずか半年ちょっとで中国側公務員の受け入れが決まった形だ。事の重大性からして、通常では考えられないスピードである。
 結論から先に述べるが、今回の研修受け入れは、事前に国の機関などに根回しが行われ、定められた手順でことを運んだ結果と見るべきだ。

 市側の説明によれば、きっかけとなったのは昨年11月の市国際部の職員による東京出張。日本国際センター(JICE)などに市の取り組みを紹介しに行った際、中国からの研修受け入れを勧められたという。
 たしかに出張復命書に添付された協議メモにはそれらしい記述もあるのだが、これは単なるアリバイ作りでしかない。国の関係機関がそろって福岡市に中国からの研修受け入れを勧めること自体、不自然だ。
 協議メモの内容を読むと、今回の研修受け入れに都合の良い話ばかりが記されており、出張がアリバイ作りの一環だったことは一目瞭然だ。
 
 その後の急な動きを見ていくと、中国からの研修受け入れが、既定方針として進められた可能性が高いことが歴然となる。
 紹介した一連の文書の他には、何も残されておらず、市内部で議論を積み上げた形跡も、市幹部による協議の記録もないのである。誰が、何時、こうした方針を決定したのか、まるで分からない状況だが、これはトップである市長の指示で事が動いた場合の典型的なケースなのだ。
 つまり、中国からの研修受け入れは、市長もしくは市長周辺から指示が出され、覚書締結まで一気に突っ走った結果ということになる。

スケジュール先行の証拠
 情報漏れを防ぐためか、手順を無視してスケジュールばかりを先行させた証拠もある。下の文書は今年7月に覚書締結のために市長が北京出張した折の旅行命令書である。(青塗りと赤いラインはHUNTER編集部)

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 命令日は6月13日となっており、前掲の覚書内容についての決済日(7月2日)より半月以上も早い。
 この点について市の担当課に確認したところ、決済文書は「覚書」の内容についての確認であって、北京行きのスケジュールは先に決まっていたという。
 しかし、覚書の内容さえ詰められていない状態で、出張日だけが先に決まることなど考えられない。結論ありき、内容無視の愚行がまかり通ったということだ。

根拠の薄い「経済効果4.8億円」
 覚書締結の直前、7月3日に行なわれた市長会見で、高島市長はフリップを掲げて次のように説明している。
《来ていただくということで福岡の経済が間違いなく活性化される。それは実際問題、1人およそ60万円という試算、掛けることの幾つという、5億円弱がですね、この試算でいけば5億円弱が福岡ないしはその近辺に落ちるわけであって・・・》
 下がそのフリップだが、「日本初」、「4.8億円」、「稼ぐ都市」が強調してある。

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 このうち、「4.8億円」とする経済効果とやらは、来福する中国人公務員が、滞在中に1人あたり60万円のカネを使うと想定した数字だ。会見で配布された資料には、次のように記されている。

『受入による経済効果
○中国公務員の研修については、中国側より経費支給あり
試算: 800人(目標) × @60万円(宿泊・食費・研修費など)= 4.8億円』

 市側に「60万円」の算出根拠を求めたところ、文書としては何も残されていないと明言している。もちろん、あくまでも市の試算であって、中国側から示された数字でもないという。
 根拠が明示できない“いい加減な数字”を、覚書締結の前提にしたと言われてもおかしくない状況なのだ。これほど杜撰な市政運営が許されるものなのだろうか?

市長の無知―「市の負担なし」は間違い
 結論を急ぐあまり、穴だらけの手続きが続いたことは確かだ。その上に重なるのが高島市長の「無知」である。

 7月3日の会見で、市長と記者との間に次のようなやり取りがあった。
記者:(研修受け入れにかかる)福岡市側の負担としては、どのくらいですか。

市長:いや、中国、中国、じゃあごめんなさい、福岡が負担するということはないですね。福岡はお金をもらう側なんで。

 福岡市側の負担はゼロだと断言しているのだが、これは大きな間違いである。
 公務員ひとりを養うためには、給与のほか福利厚生や保険などに多額な税金がかかっている。地方自治の専門家の試算では、年収700万円程度の公務員の場合でも、時給4,000円~5,000円の計算になるという。

 中国から来た研修生たちの面倒を見るため、何人もの市職員がその対応にあたることになる以上、公費支出を伴うのは当然。コストがかかるということで、その金額は数千万から場合によっては億単位にも上る可能性がある。高島市長に、公務員の時給についての認識が欠如しているのは明らかだが、この場合、「無知」と言った方が妥当なのかもしれない。

 やみくもに「稼ぐ都市」を演出しようとしたのだろうが、稼ぎの中身は皮算用、コスト意識も欠いたとなれば、市長の底の浅さを露呈したに過ぎない。

噴き出す市長批判
 誰かにそそのかされて、「日本初」に飛びついた結果であろうが、市関係者からは厳しい批判が上がっている。
「『日本初』が大好きな市長らしい愚行。はじめから方針を決め、市議会などに知られる前にことを運んだということだろう。会見で『世界はひとつ』と言ったらしいが、国際情勢はそんなに甘いものではない。この市長に2期目を委ねることは危険だろうな』(市議会関係者)。

「東国原(元宮崎県知事)あたりと接触していると聞いている。次の(市長の)選挙が市長選なのか国政なのか分からないが、大阪の橋下市長が率いる維新の会からの出馬を想定しているのではないか。初当選で世話になった自民党には、何の未練もないらしく、『自民党は関係ない』などと公言しているそうだ。それにしても、市が築き上げてきた様々なノウハウを、ビジネスと称して売り払う神経は理解できない。人気取りのためのパフォーマンスとしか思えず、だとしたら容認してはいけない愚行だ」(別の市議会関係者)。 

「ばかげてる。コスト意識を欠いた施策である上、国益を損ないかねない危険性もある。福岡市のメリットが何か判然としておらず、拙速との批判は当然だろう」(市OB)。

 トップダウンで税金の無駄遣いを重ねる福岡市の高島宗一郎市長だが、市の利益どころか国益まで損ねかねない施策に、市民の理解が得られるのだろうか・・・。



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