鹿児島県(伊藤祐一郎知事)の外郭団体「鹿児島県住宅供給公社」が、鹿児島市松陽台町で分譲している戸建住宅地「ガーデンヒルズ松陽台」の土地を建設関連業者に買い取らせていた問題を巡り、同公社が無理な土地売却を進めるため、販売先の都合に合わせて複数の契約書を使用していたことが明らかとなった。
契約書は14種類にのぼっており、著しく公平性を欠いた形。不適切な土地販売によって、公共事業で造成された土地が一部業者に利益をもたらす結果を招いている。
(写真は鹿児島県庁)
分譲地の4割を業者に販売
ガーデンヒルズ松陽台の戸建用地は284区画。これまでに販売されたのは249区画だ。このうち108区画が、大手ハウスメーカーや県建設業協会加盟社など50社に販売されていたことが分かっている。
下は、公社への情報公開請求で入手した文書を基に、ガーデンヒルズ松陽台の土地を買った業者名と、契約件数をまとめたもの。ハウスメーカーにとっては、土地造成費の負担が軽くなる分、利幅も大きく、うまみのある取引だったとみられる。
問題は、県建設業協会加盟社への土地販売だ。松陽台の土地を買った50社のうち11社は、2009年に発覚したマリコン談合の当事者企業。県は、談合に関わった建設業者(31社)に違約金を請求したが、県議会が2度にわたって「減額」を決議したことで、業者側が負担すべき32億円の違約金を半分にする決定を行っていた。減額の見返りに、売れない住宅地を県建設業協会に押し付けたとの見立ても可能だ。
分譲地を引き受けた地場業者の中に「植村組」の社名があるのも象徴的。同社と伊藤県政の結びつきは深く、地元の反対を無視して薩摩川内市川永野に整備された産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」を巡っては、県が同社のグループ企業から二束三文の土地を5億円で取得。さらに、約100億円の建設工事を同社が参加する特定建設工事共同企業体(JV:「 大成・植村・田島・クボタ」)に発注し、経営難に陥っていた植村組の救済した形となっている。
契約書が14種類
不適切な土地売買を可能にしたのが、販売先の都合に合わせたとしか思えない契約書の数々。通常なら何通りもの契約が存在するとは考えにくいが、分譲地販売が思うに任せなかったためか、担当者が覚えられないほど何種類もの契約書が残されていた。
公社への情報公開請求で入手した資料によれば、ガーデンヒルズ松陽台の販売にあたって、公社が使用した契約書は14種類。そのうち9種類は一般の顧客との契約に使用されたものとみられ、安易な土地転売ができない内容になっていた。下は、戸建て用地を購入した一般市民が、県公社と結んだ契約書の条文。禁止事項の中で、『自己の住居の用に供する住宅』を建てることが、契約の前提条件になることを謳っている。
一方、建設関連業者との契約書は4種類で、そのすべてに『自己の住居の用に供する住宅』という文言はない。代わりに『土地だけを第三者に譲渡』することを禁じたり(下の条文参照)、『展示住宅の建設』を契約目的に入れるなどしているが(その下の条文参照)、一部の地場業者はこの契約条項を守っていない。
「談合が日常茶飯」と言われる鹿児島だけあって地場業者はよほど行儀が悪いらしく、昨年松陽台の分譲地を買った複数の業者は、1年あまり住宅建設を怠ったまま土地を放置。中には、住宅建築前に取得地を売りに出した業者もあった(下の写真参照)。公社が、分譲地の放置や「土地ころがし」を容認していた可能性が高い。
業者に販売された区画は全体の4割超。大半の業者が何らかの「利益」を得たか、あるいは今後得ると見るのが自然だ。一般の顧客が損をした形となっているのは確か。伊藤県政と建設業界の癒着構造が、県民に不利益をもたらしている。
失政の証明
販売用地の4割以上を業者に売付けざるを得なかったということは、県住宅供給公社の宅地開発が「失敗」だったことを意味している。その延長線上にあるのが、松陽台で進められている「県営住宅の大増設」だ。もともと、県公社がガーデンヒルズ松陽台で販売を予定していた戸建用地は470区画。ところが170区画程度(平成23年2月までの実績)を売却したところで、伊藤知事が方針を大転換。分譲予定地で最大の面積を占める戸建用区画約5.6 haを、すべて「県営住宅」に変更するとして県が約30億円で取得していた。県営住宅増設には、用地費を含め40億円を超す公費投入が見込まれている。
失政のツケを県民に回すのが伊藤県政の特徴。同県では、薩摩川内市に約100億円をかけて整備された前述の「エコパークかごしま」が、事業試算の甘さから破たんの危機を迎えていることも分かっており、県民負担の増大が確実視される状況に――。傲慢な県政運営を続けてきた伊藤知事だが、巨大公共事業はすべて失敗。県民負担だけが膨れあがるという異常事態になっている。