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戦争法案強行採決 憲法改正案にみる安倍・読売の野望

2015年9月18日 10:05

自民党、読売新聞 日本国憲法はアメリカに押し付けられたものだと主張し、改憲を訴えてきた安倍晋三首相が、力ずくで憲法をねじ曲げ、国民に戦争法案を押し付けた。押し付け憲法論者が、だれもが嫌がる憲法解釈を押し付けるというのだから、論理矛盾もはなはだしい。
 こんな「押し付け」こそ御免こうむりたいが、安倍の強権政治がこれで終わりだと考えるのは早計である。安倍と販売部数日本一を自称する新聞社が狙っているのは、さらに進んだ「軍国主義国家」。すでにその未来像が提示されていることを忘れてはならない。

届かぬ民意 
 17日、多くの国民が反対の意思を示している安全保障関連法案が、参院平和安全法制特別委員会で強行採決された。きょう18日にも参院本会議で成立する見込みだが、その瞬間、民主主義、平和主義、立憲主義を確立するために70年をかけて積み上げられてきた先人の努力が、水泡に帰すことになる。

国会 荒れる国会、野党も最大限の抵抗を試みたが、安倍政権の暴走に歯止めをかけることはできなった。国会前を埋めた人々の声も、いまや多数派となった法案反対の声も、安倍と自民・公明の議員たちには聞こえなかったらしい。聞こえていながら黙殺したというのなら、この連中は「選良」ではあるまい。

 委員会採決後、与党側や政府の犬となったエセ野党から、法案に反対した民主党などの手法を批判するコメントが発せられた。採決を思いとどまるよう委員長に迫った行為が、「ルール違反」(次世代の党幹事長)なのだという。

 野党議員ならずとも、「冗談も程々にしろ」と言いたいところ。国会のルールを云々する以前に、もっとも大切な“民主主義のルール”を破ったのは首相であり、政権与党だろう。主権者たる国民の声を無視し、採決を強行する方がよほど「ルール違反」であるということを、法案に賛成した政治家たちは自覚すべきだ。

 特別委の鴻池祥肇委員長は、「参議院の10党のうち、5党が賛成したから強行採決ではない」と主張する。笑止というほかない。与党に与した次世代の党、日本を元気にする会、新党改革は、いずれも自民党に近い議員の集まりだ。順番に言えば、自民党以上の右派、政権にすり寄ったあげく分裂した第三局の残党、そして政党というより政治団体と呼ぶべき一人所帯――。強行採決の色を薄める効果さえなかったというのが実情だろう。自公とこれらの集団との“与野党合意”は、国民を欺くための茶番なのである。

鴻池氏 ルール無視と言えば、鴻池氏の委員会運営も酷かった。「参議院は官邸の下請けではない」と見得を切った鴻池氏だったが、公聴会の開催日程を決めたあたりからおかしくなり、最後は完全に安倍官邸の言いなり。予定された理事会室での会議を勝手に委員会室に変え、開会を宣言。不信任動議を出されると、筆頭理事の佐藤正久議員に議事進行を「委託」し、さっさと議場を退出してしまった。動議否決と同時に委員長席についた鴻池氏は、2時間が充てられていた締めくくり総括質疑をすっ飛ばし、いきなり安保法案の採決を強行している。唯一、この人が“らしさ”を見せたのが神奈川県で行われた地方公聴会の終了後。「(安保法案の)強行採決は許さない」という会場からの声に激高した時だ。右がその時の映像。ヤクザの親分顔負けの迫力だった。

安倍自民党の本音
 特定秘密保護法、武器輸出三原則の撤廃、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認、そして仕上げが戦争法案――。安倍の妄執がこの国の形を歪めているが、彼の最終的な目標は憲法改正による「美しい国」の実現である。その正体がどのようなものか――改めて、安倍自民党が目指す日本の未来像を確認してみた。自民党は平成24年4月に「日本国憲法改正草案」を発表しているが、現行憲法の9条を、次のように変えるとしている。

【自民党憲法改正草案】
  第9条の2(国防軍)
1 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前2項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

 一読すれば、今回の安保法案が自民党の憲法改正案を先取りしていることが分かる。条文中の「平和」や「国民の安全」は、法案審議の中で、首相をはじめ閣僚諸氏が散々使ってきた言葉。さらに、各条では「国防軍」が海外で広く活動すること容認しており、まさに安全保障関連法案の趣旨と一致する。注目すべきは、自衛隊を「国防軍」――すなわち“軍隊”にすることを明記し、その「最高指揮官」を「内閣総理大臣」にしている点だ。まさに首相が思うがままにに軍隊を動かすことを目指す内容であり、今回の法案審議で示されてきた「恣意的運用」が、じつは自民党の本音であることを表している。安倍は今後、憲法違反との批判を押し潰すため、現行憲法の破棄に執念を燃やすだろう。狂った独裁者には、心強い味方もいる。

読売の野望
 特定秘密保護法や集団的自衛権、さらには今回の安保法案をめぐり、国論が二分される形になったのは、メディアの2極化が原因だ。政権寄りの読売・産経VS政権に批判的な朝日・毎日・地方紙連合軍。右翼の広報としか思えない産経は別として、日本一の販売部数を自称する読売が、一貫して安倍擁護で走ってきたことの罪は重い。アベツネの威光は健在のようだが、その読売は2004年、「憲法改正試案」を発表している。肝の部分を抜粋してみた。

【読売新聞社・憲法改正2004年試案】
第12条(自衛のための軍隊、文民統制、参加強制の否定)
(1)日本国は、自らの平和と独立を守り、その安全を保つため、自衛のための軍隊を持つことができる
(2)前項の軍隊の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。
(3)国民は、第1項の軍隊に、参加を強制されない。
 自民党の憲法改正草案と同じで、同紙もまた自衛隊を「軍隊」に変えるのだという。こちらも、指揮権を持つのは首相。蜜月の両者が目指す方向は同じで、首相の命令一下、自衛隊改め国防軍が海外でドンパチを行うことの出来る国だ。国会の関与が条文から抜け落ちているところをみると、読売は、国会はもとより国民の声さえ聞く必要はないと考えているフシがある。政治を陰であやつるのが好きなアベツネ氏は、国をも思いのままに動かすつもりなのだろう。こうなると、読売の野望というよりアベツネの野望。歪んだ言論が国を敗戦に追い込んだことを、私たちは肝に銘じておかねばばらない。

政権との闘いはこれから
 さて、政府与党の暴走で、戦争法案が“いったん”は成立する。だが、決してこれを認めてはならない。国防軍だの戦争だのが嫌なら、今後の選挙で自民・公明の候補者に投票せず、対極にいる政党や候補者を選べばいい。政権を取り替え、制定された「国際平和支援法案」を葬り去って、「平和安全法制整備法案」に盛り込まれた10本の法律を元に戻せば済む話なのだ。そのためには投票所に足を運ぶこと。結果がどうなるかは平成15年、17年、21年、24年、26年に行われた衆議院の総選挙における自民、民主、共産の小選挙区と比例区の政党別得票数及び投票率の数字からも明らかだ。

得票数

 自民党が、長期低落傾向にあるのは確か。それでも多数を得ているのは、投票率が下がったことに助けられたからである。安倍や読売が目指す「新たな戦前」を否定するなら、戦争法案に反対する意思を持ち続け、来年の参院選と次の総選挙で自民、公明を叩き潰すしかない。次代の子どもたちのために民主主義や平和を守り抜くのは、いまを生きる私たちの義務なのだから。



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