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安倍自民の言論封殺 もうひとつの背景

2015年8月25日 10:40

08-1.jpg 安部晋三首相に近い自民党議員が開いた勉強会で、作家と3人の政治家が言論を封殺する発言を行い、国会で審議中の安全保障法案の行方に影響を及ぼす事態となった。
 自民党議員の発言は、戦前の軍部を彷彿とさせる最低レベルのもの。議員辞職に値すると言っても過言ではない。安部政権に対し増える一方の批判に焦った証左との見方もあろうが、もうひとつの背景があることを忘れてはならない。
 大手メディアに、言論封殺発言を咎める資格があるのか――。

暴言3人組
 自民党議員らによる言論封殺発言が問題になったのは6月。安全保障法案を巡り、安倍政権への批判が高まりを見せはじめた頃だった。もう一度、3人の議員が何を発言したのか確認しておきたい。

井上議員

大西議員

長尾議員

 長尾敬氏の沖縄蔑視は、正気を失った暴論としか思えず論外。だが井上貴博、大西英男両議員は、「広告」という商業マスコミの弱点をよく知った上で発言しているのが分かる。

 井上氏は、福岡JC(青年会議所)時代に広告料でマスコミを抑える効果があったとも話しており、何らかの経験があったのは確か。大西氏も、広告費になびくマスコミの実態を把握していると見るべきだ。

「広告を買う」
 マスコミが「広告費」に弱いのはいまに始まったことではない。民放テレビがいちばん気を遣う対象は視聴者ではなくスポンサー。これは常識になっている。一方、新聞は「公器」を自認しているが、本当にそうか?

 どの新聞も同じだが、ページの3分の1は広告。さらに「全面広告」が何ページもあり、新聞1部に広告が占める割合はぐっと高くなる(下の写真参照)。購読料だけでやっていけないのは分かるが、紙面の3分の1以上が広告というのはどう考えても異常。読者は、せっせと広告を買わされているようなものだ。これで朝・夕刊合わせて4,000円前後なのだから、部数減もうなずける。

新聞広告

 日本の大手メディアは、広告主によって支えられており、これに逆らうことは死活問題につながりかねない。広告主の意向で、報道内容が歪められるというケースが、“絶対にない”とは言えまい。こうした実態について、知っていても知らぬふりが続いてきたが、自民党議員の暴言は、マスコミの実相を浮かび上がらせる可能性があった。大手メディアの過激な反応には、そうした側面があったのではないか?

暴言許す「記者クラブの実情」
 暴言3人組の経歴で見落とせないのは、井上氏と大西氏が、ともに地方議員出身だということ。井上氏は福岡県議、大西氏は江戸川区議・東京都議を経て国会議員になっており、地方自治体と記者クラブの関係を熟知している。つまり、「広告と権力」=「飴とムチ」によるマスコミ操縦法を知っているのである。

 自民党の勉強会で言論封殺発言が飛び出して以降、マスコミは厳しく3人の議員を糾弾した。もちろん、糾弾されて当然の暴言ばかりで、議員辞職が妥当な愚かな主張であることは言うまでもない。が、大手メディアには広告費とは別に、この連中に付け込まれるだけの理由がある。

 HUNTERの発足は平成23年3月10日。東日本大震災の発生前日に初回の配信記事を送り出してから、主として地方の行政や政治について報道を続けてきた。この間、様々な事案を取り上げてきたが、痛感させられたのは「記者クラブ」の弊害だ。

 鹿児島では、川内原発再稼働をはじめ県が進めてきた産廃処分場、無用な県営住宅建設問題などを追い続けてきた。いずれも伊藤祐一郎知事が独裁的手法で事を進めており、公費投入をともなう事業に「破綻」の可能性が高まっているのが現状だ。だが記憶する限り、県政記者クラブ所属社が、こうした事例についての調査報道を行ったことなど、ただの一度もない。

 佐賀県については、玄海原発の背景や、県立高校及び武雄市で実施されているタブレット端末を使った教育事業の惨状を報じてきた。しかし、在佐賀の記者たちが、県民の立場で真相究明を図った報道には、これまたお目にかかったことがない。武雄市に至っては、ちょうちん記事を書く新聞社の記者を「歓迎」の看板で迎える始末(下の写真)。同市の記者クラブ所属社も、権力の監視はできていない。

ちょうちん記事を書く新聞社の記者を「歓迎」

 政令市・福岡も実情は同じ。政権を後ろ盾にした高島宗一郎市長の暴走が続く福岡市では、すでに「広告費」を使ったマスコミのコントロールが現実のものとなっている。高島氏の市長就任後、市が記者クラブ加盟社に支出する広報・宣伝費が4,000万円台から最高で9,000万円台にまで急増。その過程で、市長が「広告を出しておけば、(報道を)抑えることができる。民間だってやってるでしょう」などと発言していたことがHUNTERの調べで分かっている。市長はその後も同様の発言を繰り返しており、「報道はコントロールできる」と自信を示しているともいう。広告費のご利益はたしかで、高島市政を追及する記者クラブ所属社の調査報道はここ数年皆無。一部を除き、大本営発表ばかりが垂れ流されている。

 記者クラブに所属する記者たちが一番恐れるのは、いわゆる「ネタ落ち」。役所の人事や方針などは、いずれ発表されるものだが、他社に先駆けて記事にするのをスクープだと思い込んでいる記者は、リーク情報欲しさに権力側の機嫌を損ねる報道を控えるようになる。奨励する新聞社やテレビ局が悪いのだが、もらい癖がついた記者は、権力に対峙しているという意識が薄れていくものだ。記者クラブ制度の弊害が、住民の知る権利を奪っているのである。

 暴言代議士たちを糾弾するのはたやすい。だが、大手メディアは、地方レベルにおける報道の意図的な不作為をしっかりと自覚する必要があるのではないか?地方をよく知る自民党議員たちは、記者クラブの表と裏を知り尽くしており、はなからマスコミをなめてかかっているのだから。



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