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百田尚樹「朝日の読者は日本の敵」への“読者”からの反論(上)

2018年1月22日 09:35

 今月12日、作家の百田尚樹氏がツイッターに「朝日新聞は日本の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日の読者も日本の敵だ」 と投稿。ネット上で物議をかもす状況となった。筆者は朝日新聞を購読しており、同紙を「支える」形となっている「読者」である。だが、極右の嘘つき作家に「日本の敵」と罵倒される謂れはない。

■「朝日の読者は日本の敵」
 下が、問題のツイッターでの投稿。百田氏は、韓国や中国を巡る朝日新聞の報道姿勢について批判し、《マジで潰れてもらわないといけない!!」と述べた後で、《これは首を賭けてもいい。 もし、中国と日本が軍事衝突をすれば、朝日新聞は100パーセント、中国の肩を持つ。 朝日新聞は日本の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日の読者も日本の敵だ》と明言していた。

百田.png

 これに対し、朝日新聞もツイッターで《「朝日の読者も日本の敵だ」と作家の百田尚樹さんが発信していますが、特定の新聞の読者を敵視するような差別的な発言に強く抗議します。私たちはこれからも建設的で多様な言論を尊重し、読者とともにつくる新聞をめざします》と異例の反論を行っている(下がその画面)。

朝日.png

 朝日は公に反論することが可能だが、大半の読者は反論する術(すべ)を持たない。新聞読者のすべてが、インターネットを利用しているわけではないからだ。むしろ、百田氏に罵倒されたことを知らない読者の方が多いのかもしれない。つまり百田は、反論できない読者が大勢いることを承知で、吠えたということになる。随分汚い“保守派”である。

■百田氏の間違い
 朝日の販売部数は約620万部。読者は各界各層に存在しており、中には朝日の報道姿勢に否定的な人もいる。例えば、右派を自称する自民党の政治家の中にも“読者”はいるし、官邸の人間も同紙を購読している。そういった読者も「日本の敵」なのか?「朝日の報道姿勢を評価する読者」とすべきところを、単に“読者”と述べてしまったのは百田氏の失敗。言語能力に疑問符が付いた格好で、この人が本当に「永遠の0」や「海賊とよばれた男」の著者かと首をかしげざるをえない。

 中国と日本が軍事衝突した場合、朝日新聞が100パーセント中国の肩を持つというが、朝日は日本の報道機関。万が一、軍事衝突が起きても冷静な分析をするだろうし、一方的にどちらかの肩を持つことなどあるまい。非がある方を批判するのがジャーナリズムであり、中国が悪ければ中国を、日本が悪ければ日本政府を批判すべきなのである。百田氏は、戦前の新聞のように、大本営発表を無批判で報じるのが新聞の在るべき姿だと思っているのかもしれない。「偏狭なナショナリズム」は、百田氏にこそ当てはまる言葉である。

 ところで、百田氏が賭ける「首」とは、どの立場のことを指すのだろう。作家としてか、言論人としてか、人間としてか?「首を賭ける」「命を賭ける」などと力む輩に限って、事が起きれば真っ先に逃げだすものだ。

■“嘘つき作家”の証明
 「中国と日本が軍事衝突をすれば、朝日新聞は100パーセント、中国の肩を持つ。 朝日新聞は日本の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日の読者も日本の敵」――根拠を示さず他者を罵るのが百田流だが、あまりに酷い筋立てに呆れるしかない。そもそも百田氏こそが、平気でウソを垂れ流す“日本の敵”ではないのか――。

93e5a87f54e3ff222392dd96e3803eb4674bfccb-thumb-500 xauto-23292-thumb-500x253-23293.png 昨年12月7日、米軍普天間基地所属の大型ヘリ「CH53」の部品が、基地近くに位置する保育園の屋根に落下するという事件が起きた。5日後の12日、百田はDHCテレビがネット上でライブ配信を行っている報道番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』で、とんでもない虚言を放っている。沖縄の「琉球新報」「沖縄タイムス」の2紙が、ヘリの部品落下について厳しく批判したことに触れた百田と司会者のやり取りだ。
(右は、番組で発言中の百田。『真相深入り!虎ノ門ニュース』の画面より)

 百田:(沖縄の2紙が)大々的にやった。ところが、どうも調べていくと、これは全部ウソやった、ちゅうことです
 司会:落ちてなかったんですか?
 百田:はい。

 司会:そもそも落ちてなかった?
 百田:そう。あのう、これ、米軍のヘリコプターの羽根の中につけとるキャップなんですけどね。これが落ちたということなんですが、米軍が調べてみたら、うちの装備からは一つもなくなっていないし、落ちた形跡は一切ないということなんです。これがね、米軍がウソをついとるかというと、これはウソじゃないんですね。これはちゃんと調べてる。

 この後、キャップについてもっともらしい説明を続け、「誰かが古いキャップを持ってきて保育園の屋根の上に置いた可能性が高い」と断定していた。危険性を訴えた保育園の保護者らの声も「捏造」と決めつけ、「ほぼ間違いない」とまで言い切っている。最後は、沖縄の2紙について「ここまでしていいんですかね」――。沖縄の新聞社こそ「ここまでしていいんですかね」と言いたいところだろう。

 百田が述べた「調べた」の主体は、百田自身ではなく沖縄の米海兵隊。米軍は、保育園に落下した部品がCH53の装備品であることを認めたものの、「普天間飛行場所属のCH53のカバーは全数保管されていることが確認された」として、当時飛行していた米軍機のものではないなどと主張したからだ。百田氏は、米軍の主張を鵜呑みにして、部品落下を訴えた保育園や沖縄メディアを批判したのである。だが、沖縄県が設置しているカメラには、部品落下と同時刻にCH53とみられる機体が映っていたことが分かっている。米軍のウソは明らか。百田は確かな裏取りもせず「調べた」と断言し、自国民を誹謗・中傷したことになる。

 保育園への部品落下から6日後――つまり虎ノ門ニュースで百田氏が発言した翌日の13日、基地に近接する市立普天間第二小学校のグラウンドに、海兵隊の大型輸送ヘリCH53Eのコックピットの窓枠(90センチ四方)が落下。その衝撃ではねた小石がぶつかり、男児が手に怪我を負うという事件が発生した。年が明けて間もない今月には、沖縄県内で2件の米軍ヘリ不時着事故。普天間基地所属機による事故が後を絶たない状況は文字通り「異常」な事態だ。在沖米軍トップのニコルソン沖縄地域調整官でさえ、「(事故の続発は)クレイジーだ」と発言していたが、米軍の背信行為はその後も続いている。

 部品落下を受けて日米は、学校上空の飛行を「最大限可能な限り避ける」というルールに合意していたはず。しかし、今月18日には小学校に派遣されていた防衛省の職員が、普天間飛行場所属の米軍ヘリ3機が普天間第二小学校上空を飛行しているのを確認。米軍は小学校上空の飛行を否定したが、小学校上空を飛行するヘリの映像が公表されており、ここでも米軍のウソが証明された格好だ。現時点で、米軍発表に基づく百田発言に賛同する国民は、ごく一部の極右くらいだろう。問題は、虎ノ門ニュースでの百田発言の前後から、被害を受けた保育園や小学校に対し、「ヘリからの落下ではなく自作自演」「やらせ」「住むのが悪い」などといった誹謗・中傷が相次いだことである。

(つづく)



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