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原発再稼働とメディアの沈黙

2015年8月24日 09:30

田中委員長 先週19日の定例会見で、噴火の危険性が高まっていた鹿児島市の桜島と再稼働したばかりの川内原子力発電所(薩摩川内市)の関係について聞かれた原子力規制委員会の田中俊一委員長が、記者の質問に逆切れし、一方的に質疑を打ち切るという一幕があった(右の写真)。
 この際、田中委員長は、火山と原発という二つの脅威におびえる鹿児島県民を愚弄する発言を行っており、HUNTERは20日の配信記事でこの姿勢を厳しく批判した。だが、なぜか地元鹿児島や九州で会見の内容を問題視する報道は皆無。田中氏が言った「影響はない」という部分だけを強調する記事が小さく掲載された程度だ。沈黙する大手メディア――動いてしまった原発には興味がないということなのか?

国民を愚弄する田中委員長の姿勢
 19日の田中委員長の会見。HUNTERが問題視したのは、川内原発への影響や九電からの連絡について聞かれた田中委員長の次の発言だった。

 規制委員会には何もないですけどね。気象庁の発表してるのは3キロ、4キロ以内の立ち入り禁止でしょ。川内原発50キロにまで大きな影響が及ぶようだったら、今はもう鹿児島市内に人はおれないですよ。違いますか?そんなの常識じゃないですか。

 いかなる質問であろうと、真摯に答えるのが公的機関の義務だ。しかし、田中氏の発言は明らかに上から目線。“そんなことも知らないのか”という、侮蔑の意思表示でもある。

 記者ならずとも、緊迫する桜島が川内原発に与える影響について知りたいところ。再稼働にお墨付きを出した規制委がどのような対応をしているのか記者が確認するのは当然だし、丁寧な説明は田中氏に課せられた責務。なのに、なぜここまで傲慢になれるのか?

 さらに問題なのは、「影響はない」とする田中氏に、ある記者が「何を以て(噴火の)予兆とするのか」と食い下がったところで発せられた一言。

 答えてもしようがないから、やめましょう

 質問の意図が伝わらなかったにしても、田中氏は公務員。税金を原資とする報酬を得ている身であり、一方的に質疑を打ち切れる立場ではなかろう。ましてや川内原発は再稼働したばかり。そこに桜島の噴火となれば、不安が拡がるのは当然なのだ。そうしたなかでの説明責任の放棄――。追及しない記者たちにも呆れたが、さすがに翌日の朝刊では厳しい批判記事が出るものと思っていた。だが、この期待はみごとに裏切られる。

地元紙は規制委の広報
 下は、川内原発と桜島がある鹿児島県で、圧倒的な部数を誇る「南日本新聞」20日朝刊の紙面である。田中委員長の会見記事があるにはある。しかし、見出しは≪桜島噴火影響「明確にない」≫。記事も、田中氏の発言のうち、桜島の影響を否定した部分だけを取り上げたもので、問題発言については一切触れていない。同紙の記者が会見場にいたのかどうか分からないが、これではまるで規制委の広報だ。

南日本新聞朝刊

 次が九州の雄、西日本新聞の同日の紙面。こちらも扱いは小さく、見出しは≪川内原発に影響ない≫。国や電力会社にとって、都合のいい部分だけを取り上げた記事だ。記事を書いたのは、田中委員長の会見に参加し、前述の傲慢発言の直後に別の質問を行った記者。委員長の姿勢に疑問を感じなかったか、感じて記事を書いたが削られたのかのどちらかということになる。

西日本新聞朝刊

 国民の多くが原発再稼働に反対しているのは、福島第一原発の事故で安全神話が崩壊し、「原発は安全」というそれまでの主張がまったくの作り話だったと分かったからだ。騙したのは電力会社と国。さらにこの両者は、フクシマ以後も事故の実態について嘘やごまかしを繰り返してきた。そうしたなか、安易に原発を動かすことは、殺人事件の裁判中に容疑者を釈放するのと同じ。看過できるはずがない。原発について説明する責任があるのは規制委であり、そのトップが質疑を打ち切るなど言語道断なのである。

 19日の時点で、鹿児島県や九州の人たちが最も知りたかったのは、桜島噴火の可能性と川内原発にもたらす影響の有無。そして、九電や規制委の監視体制についてではなかったのか。それを、ただ「影響ない」では、フクシマ以前の報道と何も変わらない。南日本や西日本の記事は、読者の期待に応えていないだけでなく、大手メディアが原子力ムラの広報に戻りつつある現状を如実に示したものと見ることも可能だ。

 一番情けないのは朝日新聞。会見で田中委員長に食い下がったのは朝日の記者だったが、20日以後の同紙の紙面にはこの件に関する報道は見あたらない。期待するだけ無駄ということか――。



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