佐賀県武雄市が市内の小中学校で実施しているタブレット型端末を使った教育事業を巡り、機種選定での不正が疑われる事実が判明した。
不正が疑われる行為を行っていたのは同市の代田昭久教育監(武内小校長兼任)。機種選定委員を務めた代田氏は、プロポーザル審査前にタブレット端末の納入に関わった企業を訪問していた。
代田氏が接触した企業は、不良品の山を築いた恵安社製タブレット端末の販売窓口。端末選定が、官業による「出来レース」だったことは明らかで、「入札妨害」の疑いさえある。
(写真は武雄市役所)
「恵安社製タブレット端末」選定までの経緯
はじめに、武雄市におけるタブレット端末機種選定の動きを整理しておく。
樋渡啓祐前市長による「改革市政」の一環として、教育現場でiPadを使った実証研究を進めていた武雄市は、平成25年になって事業規模の拡大を決定。市内11の小学校と中学5校の全児童・生徒にタブレット端末を使わせる方針を打ち出し、機種選定を行う組織として大学教授らで構成される「武雄市ICT教育推進協議会」(座長:松原聡東洋大教授)を設置した。
検討が進むなか、事実上iPadが消え、恵安社製タブレット端末が急浮上したのが平成25年8月に東京で開かれた第2回協議会でのこと。『OSは、アンドロイド、ios、ウィンドウズ』という一次答申の内容に従って提示された該当機種について、業者を呼んでの聞き取りが行われたが、ここで「パナソニックソリューションテクノロジー」が恵安社製タブレット端末についてのデモを実施していた。
次いで第3回協議会。武雄会場で開催された会議に呼ばれたのは、なぜかパナソニックソリューションテクノロジーだけ。第2回~第3回協議会の時点で、端末を恵安社製とする流れが出来上がっていた。
結局、具体的な機種の選定を諮問されたはずの協議会は、結論を出さずに終了。25年12月、武雄市は「武雄市小中学校タブレット端末導入選定委員会」なる新組織を設置し、翌年1月にプロポーザル審査による業者選定を行っていた。
審査では、公募が一般的なプロポーザルには珍しく、あらかじめ3社を指名。指名されたのはiPadで実績のあったソフトバンクグループの「エデュアス」、同じくiPad教育事業で業務を受注していた「学映システム」、教育事業での実績に乏しかった「NTTデータカスタマーサービス」。学映システムが参加を辞退したため、エデュアスとNTTデータカスタマーサービスの一騎打ちとなったが、大差でエデュアス(端末は恵安社製)が選ばれている。
教育監がパナ社を訪問
以上の経過を見れば、恵安社製タブレット端末を売り込んだのは「パナソニックソリューションテクノロジー」。実機を直接販売したのはエデュアスだが、製造元である恵安との間にパナソニックソリューションテクノロジーが入っていた可能性が高い。エデュアスが武雄市側に提出したパンフレットからも、それは明らかだ(下参照)。
一連の動きが示しているのは、官業による「出来レース」。これを証明するかのような教委幹部の行動が明らかとなった。下は、恵安社製タブレット端末に決まるまでの過程をまとめたもの。機種が決まったは、平成26年1月21日となっている。
一方、下は武雄市教育監代田昭久氏の就任以来の出張日程を一覧表にしたもの。代田氏は、25年11月1日~10日にかけての出張中、8日にパナソニックソリューションテクノロジー(出張関連文書の記載は「パナソニックソリューション」)を訪ねていた。最終的に恵安製タブレットを選択した「武雄市小中学校タブレット端末導入選定委員会」の委員である代田教育監が、プロポーザル審査前に利害関係者であるパナソニックソリューションテクノロジーと接触していた事実を示すものだ。
武雄市ICT教育推進協議会が最終答申を行ったのが25年9月13日。市教委は、同月26日にプロポーザル審査を実施する武雄市小中学校タブレット端末導入選定委員会の設置要綱を定めて、委員の選任作業を進めていた。代田氏が教育監に就任したのは「10月1日」。同氏がパナソニックソリューションテクノロジーを訪問した11月8日には、教委幹部となった代田氏自身が選定委員になることを承知していたはず。不正が疑われるのは当然だろう。
出来レースの結果、子どもらにあてがわれた恵安製タブレット端末は不良品の山。パソコン使用が、授業の妨げになっていたことは報じてきた通りだ。改革派市長として樋渡氏が脚光を浴びる陰で、不正が行われていた疑いは濃厚。入札妨害の可能性さえある。
代田氏を巡っては、教育監就任以来30回を超える県外出張で企業訪問を繰り返し、神奈川県鎌倉市の居宅に帰って数日間を過ごすという形が常態化していることも明らかとなっている。