佐賀県武雄市が行っている「教育改革」で主導的役割を果たしている代田昭久教育監(武内小校長兼任)が、企業訪問を主とした出張の度に神奈川県鎌倉市の居宅に帰り、数日間を過ごすという形が常態化していることが明らかとなった。
同市教育員会への情報公開請求で入手した関連文書を精査したところ、30回に上る県外出張の大半が土・日を挟んだもの。帰宅のために出張を設定したと言っても過言ではない状況だ。
一般の公務員には決して許されることのない出張日程であり、歪む同市の教育行政を象徴する事例と言えそうだ。
出張の大半は鎌倉がらみ
東京都杉並区立和田中学校で2代目となる民間出身校長を務めていた代田氏が、武雄市の教育監に就任したのは平成25年10月。以来、情報公開請求をかけた今年の5月までに計30回の県外出張を行っていた。出張先のほとんどは東京。30回のうち27回が東京で、大阪が2回、オランダ視察1回となっている。用務は「企業訪問」が主で、7割以上の出張が同市の教育事業に関係する企業やその関係先となっていた。
武雄市が実施している教育事業の原資は税金。余分な経費をかけないよう受注企業を武雄市に呼ぶのが普通だが、代田氏の教育監としての出張は、わざわざ発注者が受注企業に出向く格好となっている。
下は、代田氏の県外出張一覧。出張命令書に添付された旅費の根拠を示す文書(「理由書」)で出張日程を確認し、鎌倉の居宅に宿泊したケースを○印で示した。
一目瞭然。2回の大阪行きを除くすべての出張が、鎌倉泊まりを組み入れた形となっていた。そのほとんどが土・日や祝日を挟んだもの。意図的に週末を利用し、出張の組み立てを行っていたのは明らかだ。
不適切な出張日程
分かりやすいケースがある。下は、平成25年11月の同氏の動きを宿泊地で整理したもの。1日金曜日の朝に武雄を発った代田氏は、飛行機で東京へ。平日であるにもかかわらず公務はなく、そのまま神奈川県鎌倉市の居宅に向かっていた。この日から5日(火)まで鎌倉に滞在し、6日水曜にやっと公務。都内にあるグーグルを訪ねただけで、夜は鎌倉の居宅に戻っていた。7日はベネッセ、リクルート、ヤフーと回って鎌倉泊。8日金曜日は、パナソニックソリューションとの打ち合わせだけで仕事を終え、鎌倉に戻って、11日(日)まで居宅で過ごしていた。
1日~5日は明らかに公務とは関係のない余分な日程。8日のパナソニックソリューションとの打ち合わせは、週末を鎌倉で過ごすため、意図的に入れた可能性がある。この後、日曜の夜から14日木曜まで武雄にいた代田氏は、15日の金曜から再び東京出張。18日月曜に公務であるニュートンプレス社訪問を終え、武雄に帰っている。週末をプライベートにあてるため、わざわざ15日に上京した格好だ。
次は、平成25年12月末から26年1月中旬にかけての代田氏の動向。同氏の実父が亡くなったため、12月26日に武雄からまっすぐ長野県飯田市にある代田氏の「実家」へ。1月1日に鎌倉の居宅に向かい、5日まで滞在。6日(月)に都内のニュートンプレス、大阪のワオ・コーポレーションに出向き、大阪に1泊して翌7日に武雄市に戻るという形になっていた。8日、9日は武雄にいたものの、10日金曜にはまた東京出張。いつものように週末を鎌倉で過ごし、14日火曜日と15日水曜日にそれぞれ花まる学習会、ニュートンプレスに出向いただけで武雄に戻っていた。優雅な仕事ぶりである。
教育監は特別扱い
問題はまだある。12月26日に長野・松本空港に飛んだ代田氏の動きは「私事」。税金で賄うべき旅費ではない。しかし市教委は、もともと出張予定があったとして、武雄―東京(新宿)間の旅費を追給しているのだ。では、もともとあったという出張日程はどのようなものだったのか――。下が、その行程である。
12月28日は土曜日、しかも御用納め後である。ニュートンプレス社が業務を行っていたのかどうか分からないが、いかにも不自然な出張だ。土・日を挟んだ出張ばかりを創出している代田氏のこと。「帰省」のために無理やり作られた出張だった可能性は高い。果たして、税金支出に見合う出張と言えるのか――。おそらく、全国どこの自治体に聞いても「不適切」との答えが返ってくるだろう。
代田氏の出張は、教育監に就任した平成25年10月から今日まで、ずっとこの調子だ。26年4月に校長を兼任し始めてからも同じ。鎌倉の居宅に月1~2度、それも数日間を過ごすため、土・日を挟んだ日程を組み続けている。こうした人物が、武雄の子どもたちと真剣に向き合っているとは思えないが、樋渡啓祐前市長肝いりの人事。誰も代田氏の身勝手に逆らえない状況のようだ。
武雄市が市内の小・中学校で行っているのは「タブレット型端末を使った授業」、「反転学習」、「官民一体教育」。いずれも、樋渡前市長の発案で実施が決まったもので、同市独自の「教育改革」として注目を集めてきた。しかし、特定企業と結び付いた一連の事業が、本当に子どもたちの成績向上に結び付いているのか疑問だ。これまで報じてきた通り、「恵安社製タブレット端末」は不良品の山。授業崩壊を招きかねない状況にあったことが分かっている。機種選定過程も不明瞭。不適切な出張を続けている代田教育監は、この時の選定委員でもある。
官業癒着、税金を食い物にした公費出張……。武雄市の教育行政は、明らかに歪んでいる。