わずか2年の実証研究を経て、平成26年度から、県内すべての県立高校新入生にパソコン購入を義務付けた佐賀県の「先進的ICT利活用教育推進事業」。新入生家庭の2割に5万円の「借金」を負わせながら、事業の実態は「はじめにパソコンありき」。教材インストールの不調や機材の故障といったトラブルが相次ぎ、授業の進行に支障をきたす状態となっていた。杜撰な計画の裏には、生徒より業者の利益を優先する歪んだ教育の姿がある。
昨年来、この事業についての検証を続けてきたが、「論より証拠」とはよく言ったもの。事業が開始された平成23年度からの調達状況を精査したところ、特定業者に利益が集中する不明朗な状況が浮き彫りとなった。
突出する「学映システム」の受注
この事業をめぐる最大の問題は、裏に県教委幹部と業者との癒着が横たわっていることだ。そのせいで、事業にかかる調達――すなわち業者選定が大きく歪められた可能性が高い。県教委への情報公開請求で入手した資料から、平成23年度から26年度までにどれだけの調達が行われたのかを確認。本事業に関する県内市町村への交付金も合わせ、年度ごとの一覧表にまとめた。下にその表を示す。なお、複数年契約は初年度分に全額を入れた。
契約等の数は256件。主として契約書ベースの数字だが、支出総額は50億円を超える。表を見れば一目瞭然。ピンク色で示したように、特定業者に契約が集中しているのが分かる。その業者とは佐賀市に本社を置く「学映システム」。これまで、この事業についての疑惑を報じるたびに登場してきた会社だ。県教委の事業だけでなく、同県武雄市で実施されている小中学校向けのタブレット端末を使った教育事業にも絡んでいたことが明らかになっている。
【学映システムの年度ごとの契約件数と契約金額】
平成23年度=23件約2億6,500万円
平成24年度=30件約2億2,000万円
平成25年度=19件約4億6,500万円
平成26年度=20件約2億6,400万円
「先進的ICT利活用教育推進事業」における同社の受注実績は、契約件数のおよそ4割、金額では支出全体の4分の1以上。主要な業務の大半を、同社が得ていた形だ。異常と言うしかないが、同社が本事業で得た利益はこれだけではない。複数の案件で、他社が受注した仕事の下請けに入っているのである。
検証の第2弾を始めるにあたって結論を述べておくが、佐賀県のタブレットPCを使った教育事業を食い物にしているのは、学映システムをはじめとする業者と県教委幹部。残された公文書や業界関係者の証言によって、入札妨害や官製談合といった犯罪行為を疑わざるを得ない状況となっている。詳細は、次週からの配信記事で明らかにしていく予定だ。
検証組織への懸念
ここで気になることがある。県教委は先月、タブレットPCを使った教育事業の総括を行うことを決め、検証組織を立ち上げることを公表した。報道発表の文言はこうだ。
≪平成23年度から全県規模で実施している「ICT利活用教育推進事業」について、これまでの取組を振り返るとともに、将来展望についての総合的な改善検討を行うことにより、佐賀県ならではの教育の特色を活かした、より効果的なICT利活用教育の実施につなげることを目的として「ICT利活用教育の推進に関する事業改善検討委員会(以下「改善検討委員会」という。)」を立ち上げ、事業推進に向けた協議や情報交換等を行っていきます。≫
「取組を振り返る」「総合的な改善検討」「事業推進に向けた協議や情報交換」――残念ながら、この姿勢では事業の実態をつまびらかにすることはできない。なぜ事業を始めるに至ったのかも含めて、調達状況や業務実施の詳しい内容を調べなければ実態解明は不可能。県教委の中に教育を歪めた主役の一人が残っていることを考えると、まともな議論ができるのか疑問だ。委員会が、隠ぺいのアリバイ作りに利用されないことを祈るばかりだが……。