タブレットPCを使った教育事業をめぐり、疑惑まみれとなった佐賀県武雄市(小松政市長)への情報公開請求から、同市が樋渡啓祐前市長時代から売り出しを図ってきた特産品の販売状況を示すデータを、一切保有していないことが分かった。
同市が特産品として売り出していたのはハーブの一種「レモングラス」と「いのしし肉」。一時は担当課まで設置する力の入れようだったが、販売実績を示すデータは残されておらず、“やりっぱなし”の状況。「改革市政」の実態が、パフォーマンスに明け暮れる張りぼて市政であったことを証明する事実と言えそうだ。(写真は武雄市役所)
レモングラス・いのしし肉 担当課まで設置したが……
武雄市は2007年、樋渡前市長の発案で「レモングラス」を市の特産品として育成する試みに着手。翌年には「レモングラス課」を新設し、商品開発や販路の拡大を展開するなど、市をあげて売り込みを図った。2010年、「販路についても確保できた」としてレモングラス課を廃止。以後、側面からの支援を続けてきたという。栽培から加工、販売といった実務は「農事組合法人 武雄そだちレモングラスハッピーファーマーズ」が行っている。
一方、イノシシによる農作物被害対策を目的として2009年に設置されたのが「いのしし課」。同課を中心に被害対策を推進すると同時に、廃棄されていたイノシシ肉の有効活用を図るため、株式会社「武雄地域鳥獣加工処理センター」を設立。獣肉の加工や販売にあたらせ、イノシシ肉の諸費拡大を図ってきた。同社には、国から1,000万円、市からは200万円の助成金が出ている。
「レモングラス」と「いのしし肉」の特産品化は、樋渡前市長が実績の一つとして自慢してきた事業。市政検証の一環として、どのような販売状況になっているのかを確認するため、4月に市への情報公開請求を行っていた。請求したのは、レモングラス及びいのしい肉の販売状況が分かる文書である。
これに対し武雄市は、『公文書の精査に時間を要する』として、開示決定期限を2週間延長。5月になってようやく関連文書の開示に応じていた。
販売データ ― 事実上の不存在
改革市政の象徴といえる「レモングラス」と「いのしし肉」。樋渡氏が力を入れた施策だっただけに、販売額の推移を示すデータくらいあって当然だ。しかし、所管の営業部商工流通課は、情報公開請求の直後から「どのような文書があるのか、探してみないと分からない」といった心もとない状況。この時点で、データはないものと予想していた。
開示された文書は27枚。いずれも事業報告書などのコピーで、販売状況を示すデータは皆無。かろうじて販売額が分かる部分といえば、下の2枚にある数字だけ。レモングラスについては年平均の額、いのしし肉についても概略しか記されていない。両特産品の販売状況を示すデータは、事実上の「不存在」というのが実情である。
所管課に確認したところ、事業のすべてを運営法人に任せており、市として販売実績を示すデータは作成していないと回答。二つの特産品の平成26年度の販売額も尋ねてみたが、「把握していない」としている。
市の特産品として売り出しながら、年ごとの詳しい販売額も確認していないという杜撰さ。樋渡改革市政をめぐっては、タブレット端末を使った教育事業で購入した200台以上の「iPad」が倉庫で埃をかぶる状態であることも分かっており、改革市政の実態が、やりっぱなしばかりの放漫経営だったことを改めて証明した形だ。