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佐賀県教委・武雄市 タブレット端末教育事業の裏には……

2015年5月18日 08:50

佐賀県/武雄市 佐賀県教育委員会と同県武雄市が実施しているタブレット端末を使った2件の教育事業について、検証作業を続けてきた。
 県教委は県立高校の新入生すべてを、武雄市は市内の小・中学生を対象に、教育現場でのITC利活用を推進しようという試み。事業開始時には話題となったものの、議会や記者クラブの無関心のせいで、実情が報じられることはなかった。
 改めて調べてみると、いずれの事業も問題だらけ。機材の故障・不具合が相次いでいたほか、特定業者を利する形の業者選定が行われていたことも明らかとなった。
 背景にあるのは官・業癒着。子ども保護者を食い物にしていると言っても過言ではない同県の教育事情を解明するため、検証は次の段階に移る。まずはこれまでのまとめから。(写真は佐賀県庁と武雄市役所)

タブレット端末教育事業の惨状
 県教委が行っている「先進的ICT利活用教育推進事業」は、県立高校の新入生すべてにタブレット型パソコンを購入させ、授業に活かそうという試み。購入義務化への疑念を無視して平成26年度から実施された同事業は、開始早々に教材のインストールでつまずき、さらには月に数百件ペースで機材の故障・不具合に悩まされるという事態に陥っていた。ようやく1年が過ぎたところで、教科書など使用した教材の大半を「アンインストール」させるというオチまでついている。

 問題のパソコン購入費用は教材ソフト込みで約8万5,000円。5万円を保護者が負担し、残りを補助金で賄う仕組みだが、負担が難しい保護者は佐賀県が用意した『佐賀県学習者用パソコン購入費貸付金』か県の育英資金制度を利用せざるを得ない。平成26年度にパソコンを購入した新入学生徒は、6,579人(中途編入を含む)。このうち、5万円を借り入れた保護者の数は1,387人にのぼっていた。新入生家庭の2割以上に借金を負わせた形で、計画に無理があったと見るのが普通だろう。

 一方、武雄市の方は平成22年、教育委員会ではなく樋渡啓祐前市長の発案で「iPad」を使った2校の小学生向け授業を開始。実証研究を経て、26年度からは端末を替え市内すべての小学校に、27年度からは中学校まで事業を拡大している。

 ところが、「iPad」後に26年度から実施された別の端末を使った教育事業では、機材のトラブルが頻発。初期不良だけで全体の約6.5%にも上っていた。さらに、200台以上購入されたiPadは、「保管」(武雄市側の説明)という形で放置されていたことも判明しており、「やりっぱなし」(武雄市民からの批判)の状態。県教委の教育事業同様、武雄市のそれも、現場はまさに“惨状”と化していた。

官・業癒着
 初年度のつまずきは県教委も武雄市も同じ。しかし、どちらも実情を公表せぬまま、事業を継続している。愚行を続ける理由はただ一つ。役所と業者の間に、抜き差しならぬ関係が出来上がっているからだ。

 県教委が実施しているタブレット端末を使った教育事業をめぐっては、佐賀県内に本社を置くIT機器販売会社「学映システム」や通信教育大手の「ベネッセコーポレーション」が、武雄市ではソフトバンクグループが主要な業務を独占し、億単位の利益を上げている。業者選定の過程も不透明。事業予算を積算する段階から受注企業が決まっていたとしか思えぬケースばかりで、入札妨害、官製談合が疑われる事態となっている。

 HUNTERの検証は、業者選定の裏事情解明を含む次の段階へと進むが、武雄市への情報公開請求で入手した資料の中に、佐賀県のICT利活用事業を象徴する興味深い文書が見つかっている。当初、武雄市が情報開示を拒否した文書の中にあったもので、同市の教育事業を独占しているソフトバンクグループが提出したiPad教育事業における「提案書」だ。このなかに、同様事業の実績を綴ったページがあった。

提案書

 上に示した通り、実績報告の9ページ中5ページはソフトバンクグループではなく前出・「学映システム」の実績報告。ソフトバンクグループが業者選定でセールスポイントに挙げたのは、学映システムとの連携だったのである。

 県教委と武雄市が実施しているのは、タブレット端末を使ってはいるが、まったく別の教育事業。しかし、端末の販売やシステム構築などで登場する企業は、同じような顔ぶればかり。一部の業者が、教育を食い物にしている現状がある。シリーズの後半、まずは武雄市の業者選定過程を詳しく検証していく。


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