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武雄市iPad教育事業 受注企業は直前まで「債務保証」の会社
教育歪めた改革市政(下) ― 問われるソフトバンクの企業倫理

2015年5月13日 09:20

武雄市役所  武雄市の教育行政は、樋渡啓祐前市長とソフトバンクグループによって食い物にされたのではないか――そうした疑念を抱かせるような、交付金事業の実態が浮き彫りになった。
 同市が樋渡前市長時代に実施した「iPad」を使った教育事業の業者選定に不正の疑いが浮上している問題で、主要業務を受注した「汐留管理(現社名:エデュアス)」が、受注直前まで教育とは何の関係もない「債務の保証」を主業務とする会社だったことが分かった。
 交付金申請のために積算された事業費の参考見積りを行った「ドリームネット企画」は、“宝くじ販売”を目的とする会社。さらに、その積算用見積りを転用して約7,200万円の仕事を請けたとみられる汐留管理までが、教育とは縁遠い会社だったことになる。
 税金を利用したソフトバンクグループの事業拡大――改革市政の裏で、市民への背信行為が行われていたことは疑う余地がない。(写真は武雄市役所)

汐留管理―じつは「債務保証」の会社だった
 武雄市は平成22年11月、ICTを利活用して地域振興を図ることを目的に総務省が実施した「地域雇用創造ICT絆プロジェクト(教育情報化事業」)」に、iPadを使った『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』の交付金交付を申請。同年12月に満額(9,924万4,000円)交付の決定を受け、iPad196台を含む物品購入や、システム構築、副教材制作などの業務を発注した。

 同市発注業務の中核となったのが、「iPad及び電子黒板を利用した協働型ICT教育システム構築業務」。23年1月にプロポーザル方式で業者選定が行われ、ソフトバンクグループの「汐留管理(現社名:エデュアス)」が、契約金額7,173万1,800円で受注していた。iPadを使った事業の一連の動きを、時系列で整理したのが下の表である。(ピンク色で示したのは総務省の交付金をめぐる動き、ブルーはソフトバンク側の動き、その他が武雄市の動き)

takeo.png ソフトバンク側の動きに注視すると、ドリームネット企画の設立から汐留管理の役員交代と目的変更までの過程が、武雄市のiPad事業に呼応していたかのようだ。そこで、改めて登記簿に残された汐留管理の「目的欄」を確認し、変更順に並べてみた。

エデュアス1-1

矢印

エデュアス2-2

矢印

エデュアス3-3

 汐留管理の設立は平成18年。設立当初の社名は「汐留コンテンツ管理」で、20年11月に「汐留管理」となり、23年4月に現社名のエデュアスに変更されていた。

 事業目的を確認してみると、設立から平成20年7月まで「何でも屋」の状態。メディアを利用したコンテンツ配信から、インターネットを利用した商取引、広告代理業、経営コンサルタント、はては文化・スポーツの興行と幅広い活動を行う会社だった。大きく変わったのはここから。以後、事業目的は「債務の保証」のみになっていた。

 債務保証を主業務としていた汐留管理が「事業目的を変更し教育事業に特化」(同社HPより)したのが、平成22年12月13日。同社は、武雄市が総務省に交付金の交付申請を行い(11月4日)、グループ企業であるドリームネット企画が交付金事業の積算用見積りを作成している最中に、まったく違う会社に姿を変えていたのである。偶然にしては出来過ぎた話。武雄市の業務を受注するための動きだったと見るほうが自然だろう。

実態は「ソフトバンク」
 iPad教育事業の中核業務である『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』の事業者公募は23年1月4日スタート。汐留管理はその3日後には早くも手を挙げている。公募に応じたのは汐留管理を含む3社だったが、他の2社が意思表示をしたのは11日(1社はその後辞退)。20日ほど前まで債務保証を主業務としていた汐留管理が、他社をしのぐノウハウを持っていたとは思えない。しかし、プロ―ポーザル方式の業者選定で選ばれたのには同社。武雄市の職員のみで行われた選定では、公募に応じた他の1社に圧倒的な差をつけてiPad事業の主業務を受注していた。理由は簡単。事業者公募に応じたのは汐留管理だが、これは偽装。実質的には「ソフトバンクグループ」が行う仕事であることが、明確に謳われていた。

 当初、武雄市が情報開示を拒否した文書の中に、業者選定にあたって汐留管理が提出した「提案書」があった。HUNTERの抗議を受けて渋々開示された提案書は、汐留管理というよりは、「ソフトバンクの提案書」。同社は、ソフトバンクグループを代表する形で、公募に応じていたのである。下がその提案書の冒頭ページ。汐留管理ではなく、ソフトバンクグループの実績を基に、業務を行っていくことが明記されている(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

エデュアス提案書

 「実績」のページも同然。教育関連の業務経験がない汐留管理ではなく、ソフトバンクグループの実績がズラリ。最初に、業務実績とはいえない「デジタル教科書協議会」なるソフトバンクの御用団体を持ち出し、孫正義氏が発起人となってデジタル教科書の普及等に努めていることを誇らしげに記していた(下がその該当ページ。赤いアンダーラインはHUNTER編集部))。

エデュアス提案書2

食い物にされた武雄市の教育行政
 交付金事業の積算用見積りを行ったのは、ソフトバンクグループの宝くじ販売会社「ドリームネット企画」。その積算用見積りを転用して武雄市の業務を受注したのも同じくソフトバンクグループで、債務保証を主業務としていた「汐留管理」。教育とは無縁だった両社が、武雄市のiPad教育事業に関与、参入できたのは、武雄市側と意を通じていたからこそ。iPad教育事業を発案し、実現過程で指示を出していたのが樋渡前市長だったことを考え合わせると、樋渡前市政とソフトバンクの癒着構造が浮かび上がる。樋渡氏の政治姿勢と、ソフトバンクの企業倫理が問われる事態であることは言うまでもあるまい。

 ともに「改革者」として持ち上げられてきた樋渡氏と孫氏だが、本当のところはどうか――武雄市の実情を詳しく調べてみると、“教育を食い物にする権力者”の姿しか見えてこない。

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