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小泉・安倍 旧福田派に共通する沖縄への冷淡さ

2015年5月 7日 09:20

小泉・安倍 三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘のいわゆる「三角大福中」以降、自民党に“わが世の春”をもたらした二人の宰相がいる。一人は小泉純一郎元首相、もうひとりが「自民一強」を現出せしめた安倍晋三現首相である。
 政治手法は対照的。小泉が「郵政民営化」「自民党をぶっ壊す」など、直接的な言葉で大衆に訴えることを得意としたのに対し、安倍は「美しい国」「戦後レジームからの脱却」といった聞こえの良いキャッチコピーで本音を隠すのが特徴だ。
 原発をめぐる意見の相違から距離を置くふたりだが、ともにタカ派で知られる「清和会」=旧福田派の出身。そして、他にも歪んだ共通点がある。(写真は官邸HPより)

アメリカべったり
 小泉・安倍に共通するのは、アメリカべったりの姿勢だ。小泉は2003年、国内の慎重論を抑えてアメリカのイラク戦争を支持。大量の米国債を購入する形で後方支援を行うなど、在任中を通じてアメリカの良きパートナーであり続けた。06年にはブッシュ大統領(当時)と故・エルビス・プレスリーの旧宅を訪れ、身振りと歌でプレスリーの真似。そのはしゃぎぶりが話題となった。

 一方安倍は、先月行われたオバマ大統領との会談後に、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設推進を改めて表明。米国議会での演説では、自国の国会を無視して、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障法制を夏までに成立させると宣言するなど徹底して米国にへつらっている。両政治家の度を越えた米国追随の先にあるのが、もうひとつの共通点――“沖縄に対する冷淡さ”である。

沖縄より「米国」
 2004年8月、宜野湾市の沖縄国際大学構内に、米軍普天間基地所属のヘリコプターが墜落するという事件が起きた。民間人に被害はなかったものの、広範囲にヘリコプターの部品が落下、沖縄県の怒りに火が付いた。この時、首相就任から3年目を迎えていた小泉は、稲嶺恵一沖縄県知事(当時)の面談要請を、“夏休み中”とのふざけた理由で拒否。沖縄県を足蹴にしている。06年に「V字形飛行場」を含む基地建設案を閣議決定し、米政府との合意を行ったのも小泉である。「沖縄より米国」――これが小泉の基本姿勢だった。

 安倍の沖縄無視の姿勢は、小泉以上だ。昨年1月、辺野古移設の是非が問われた名護市長選で、移設反対を訴えた現職が勝利。次いで7月の名護市議選(定数27)でも、移設反対派が14議席を獲得して過半数を維持する結果となった。注目された11月の沖縄県知事選挙では、移設反対の翁長雄志現知事が10万もの票差をつけて圧勝。続いて行われた暮れの総選挙においても、県内四つの小選挙区を押さえていた自民党の公認候補が、翁長陣営=「オール沖縄」の候補者に完敗している。沖縄の民意が「辺野古移設反対」であることは明らか。しかし、安倍政権は一連の選挙結果を黙殺し、「粛々」と移設に向けた準備作業を進めてきた。安倍の沖縄に対する冷淡さは、病的とさえ言える。

沖縄に寄り添った旧田中派の政治家たち
 沖縄に冷淡な小泉、安倍が、ともに旧福田派であることは前述した通り。福田赳夫といえば、田中角栄との間で「角福戦争」と呼ばれた熾烈な権力闘争を繰り広げた人物である。福田は官僚出身、田中は小学校卒の叩き上げ。対照的な二人が率いたそれぞれの派閥にも、両人の特徴が色濃く出ていた。官重視の福田派に対し、民重視の田中派。台湾寄りの福田派に対し、中国を重んじた田中派……。動きの違いも歴然だった。

 じつは、翁長知事をはじめ沖縄の関係者が評価する本土の政治家は、いずれも旧田中派出身の政治家たちだ。橋本龍太郎・小渕恵三の両元首相、野中広務・梶山静六の両元官房長官が代表格で、なかでも小渕は、2000年に開催された第26回主要国首脳会議(サミット)の会場を沖縄に決定。名護市の万国津梁館で、各国首脳との会議を実現したことが知られている(下の写真参照)。 

沖縄サミットの会場となった「万国津梁館」

 金権批判を受けながら「一致結束・箱弁当」で堅い団結を誇った田中派には、意外なことにハト派の政治家が多かった。田中の薫陶を受けた政治家たちが沖縄に寄り添う姿勢を見せたのは、ただ単に竹下登元首相に代表される「調整型」が揃っていただけではあるまい。視線が米国ではなく、日本の国民――とりわけ大戦末期に本土の「捨て石」となった沖縄に向けられていたのは確かで、これは田中の政治姿勢に影響を受けたと見るのが自然だ。福田と田中の人間性の違いが、現在の沖縄に対する対応の違いにつながっているとも言える。

 福田派の系譜をたどると、福田―安倍晋太郎―三塚博―森喜朗―町村信孝―細田博之。あくまでも個人的な感想だが、派閥の領袖を経ずに総理・総裁に登り詰めた小泉・安倍も含めて、旧福田派には人間的な温もりを感じさせる指導者がいない。小泉が良き自民党をぶっ壊し、安倍がその延長で平和国家をぶっ壊す。「心」のない政治を引き継いだ者たちに、これ以上国を任せるのは危険だと思うが……。



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