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消えた「iPad」 優先された業界団体の方針
武雄市タブレット端末教育事業 疑惑の機種選定(4)

2015年5月22日 08:30

武雄市役所 佐賀県武雄市が市内の全小中学校で実施しているタブレット型端末を使った教育事業は、デジタル教科書・教材の普及を目論む業界団体「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」(会長:小宮山 宏 三菱総研理事長)による実績作りの道具だった――。
 導入するタブレット型端末の機種選定役を担っていたはずの「武雄市ICT教育推進協議会」(座長:松原聡東洋大教授)の議事録から見えてきたのは、子どもを踏み台にした事業の実相。DiTT側の都合だけが優先されたlことによって、事業の成否を左右しかねない肝心の「機種」の選定過程が、大きく歪められていくことになる。(右は武雄市役所)

機種選定では「iPad」―答申では触れず
 平成25年4月、市内の全小中学校にタブレット型端末を整備することを決めた樋渡啓祐前市長は、「武雄市ICT教育推進協議会」(以下『協議会』)を設置し、次の3点について諮問を行った。

  • 武雄市立小中学校の児童生徒に整備するタブレットPCの機種
  • 整備する対象の学年
  • タブレットPCに整備するコンテンツ

 諮問を受けた協議会は同月15日、まず東京で1回目の会議を開いて協議。18日には武雄市役所で同じく1回目の地元協議会を行っていた。HUNTERの情報公開請求に対し、武雄市が存在を隠そうとしたのがこの2回の協議会の議事録である。このうち、東京開催分の協議会議事録には、種々議論を尽くしたあとの結論として、機種についてこう述べられている。

 松原:えっと、いろいろ協議してもらいましたけれども、OS に関してはiOS が、まぁ、武雄市の今までの実績含めていいと。それから大きさに関しては、与えられたものをこどもたちは使うということ含めて。まず値段、値段ですね。値段に関してiPadmini というか、7インチ台としたとして。そこでいま、菊池さんお話しあったように、同じサイズで.……ええ、暫定的ですけれども、今の段階では、その、ふさわしいものはiPadmini ではどうかと、今日の段階では、まあ大勢であると、というふうに。あの、あくまで今日の段階ですけれども。

 次いで武雄市で開かれた18日の会議。機種についての方向性は、より明確になっている。議事録によれば、出席者の大半がiPadを推し、あっさりと結論を出していた。

学校教育課主導主事:東京会場と同じように、iPad と言うことで報告をしたいと思います。

 東京側の会議の報告を受けて、武雄側も「iPad」。機種選定に関しては、この時点で結論が出ているのは確かだ。しかし、5月になって協議会座長の松原聡東洋大教授がまとめた答申には、機種をiPadにしたことなど一切出てこない。 答申の内容は、次のようなものだった。

1 タブレットPCの機種
 タブレットPCは、大きさでは7インチ、10インチ、OSでは、アンドロイド、ios、ウィンドウズに大別される。大きさについては、小学校低学年への配布、現行のタブレットPC、電子書籍デバイスの販売状況(人気)などを勘案して、7インチのサイズが望ましい。具体的な機種は、OS、価格などを勘案して、導入時までに決定すべきである。なお、障がいのある児童生徒に配慮し、操作しやすい10インチサイズのデバイスを一定数導入する必要がある。また、デジタル教科書デバイスの導入に際しては、デジタル教科書デバイスの配布を優先し、関連設備は順次、整備を行っていくことが考えられる。

2 整備する対象の学年
 小中学校全学年の全児童生徒(約4,000名)全員に配布することが望ましい。

3 タブレットPCに整備するコンテンツ
 デジタル教科書デバイスのコンテンツは、どのようなデジタル教科書デバイスを導入するかで決まる面もあるが、先にデジタル教科書デバイスを導入している一部校の経験、資産を生かす意味から、LMS、電子黒板とデジタル教科書デバイスとの連携システム、ドリルコンテンツが必要と考えられる。

 iPadという固有名詞が出てこないばかりか、OSについてはiPadの「ios」ではなく、「アンドロイド」が一番目に来ている。会議では全体の総意としてiPadを推しておきながら、白紙も同然の答申内容にしたのはなぜか――?謎を解くカギは、答申後の樋渡市長と協議会座長の記者会見にあった。記録に従い、会見冒頭の模様を再現するとこうなる。

 課長Y:皆さん、おはようございます。  会場より:おはようございます

 課長Y:それではただいまから、武雄市ICT 推進協議会答申及び記者会見を開催いたします。私は司会進行を務めます、武雄市つながる部フェイスブック・シティ課長のYと申します。どうぞよろしくお願いします。

 課長K:平成2 5 年4 月1 5 日に第1 回の武雄市ICT 教育推進協議会を開催し、次の三点について諮問いたしました。
一点目、武雄市立小中学校の児童生徒に整備するタブレットパソコンの機種について。二点目、整備する対象学年について。三点目、タブレットPC に整備するコンテンツについてです。4月18 日には地元協議会を開催したところです。本日、その諮問に対し答申を頂きます。以上で教育委員会説明を終わります。

 課長Y:はい、ありがとうございます。

(この後写真撮影)

 松原座長:一番あの重要な部分だけ読み上げさせて頂きます2番になります。整備する対象の学年について、協議会で慎重に検討した結果、このような結論に至りました。小中学校全学年の全児童生徒、約4 000 名全員に配布することが望ましい。こういう答申でありまして、ここが一番の湖心になりますので読み上げさせていただきました。以上です。

 樋渡市長:では、来年の4月以降、小中学校全学年の全児童生徒にタブレットPC を配布するという方向で取り組みたいと思っています。重ねてでありますけど、松原先生には本当に何度もね、まあ会議もそうですし、あの、それ以外にもいろんなアドバイスを頂いていることに関し、深く感謝を申し上げたいと思いますし、今後のその機種選定等についてもぜひ、松原先生をはじめとして協議会の皆様方のお力を借りていきたいと、このように思っています。私からは以上です。

 協議会がもっとも重要視したのは、「小中学校全学年の全児童生徒(約4,000名)全員に配布することが望ましい」という2番目の答申内容。これは、協議会の議論をリードした松原聡東洋大教授(座長)、中村伊知哉慶大教授、菊池尚人慶大准教授、石戸奈々子NPO法人CANVAS代表の4名の委員が所属する「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」が掲げる目標と合致している。昨日報じた通り、彼らの狙いは、全国で「一人1台」のタブレットPC 整備を実現するため、武雄市をその嚆矢にすることだった。東京における第一回協議会の席上、座長自身が次のように語っている。

 松原:ここ大事な観点ですね。ちょっとここでですね、先ほど、ええDiTTのメンバーから出た、まあ2年くらいかなという話があります。本来は、すべての学年に準備、整備しておくということなんですが、これ、あのう話では聞いていたんですが、今日初めて、文章を見せて、これはまだ非公開だよね、非公開の文章ですので、・・・。えっと、自民党がだいだいこの方針でいくということを固めたようで、逆に、われわれもこれを死守しますので、たぶんこれで決まっていく可能性が高いんです。これをちょっと見ますと2010年代中ごろですね、なかばに一人1台のタブレットPC を整備する。中頃というのはもちろん幅がありますけれども、15年16年くらいかなとなってくると、武雄は例えば2018年までに、全部に順次配っていくといったら、もう国から配られるという時代が想定されるということです。だから、やっぱり、このことは、まだ不確定な話ですけど、ちょっと念頭に置いといたほうがいいんだろうなということで急きょ、あのお見せいたしました。

 “自民党が2010年代中ごろまでに、一人1台のタブレットPC を整備する方針を固めた。DiTTもこの方針を「死守」する。だから武雄市で、一人1台を先行させるんだ”と言っているに等しい。肝心の機種については、あやふやな答申にとどめ、会見で「一人1台」に固執したのは、そのせいだったのである。協議会を主導した4人のDiTTメンバーにとって、タブレット端末の機種などどうでも良いこと。その証拠が、東京会議での次の委員発言。

 石戸:これからはDiTTというか、DiTTとその他の・・・・DiTTと会員の関係で、あまり○×みたいなのつけられないというので……

 DiTTの会員企業には様々な企業が入ってるが、入っていない企業もある。DiTTの理事である自分としては「○×が付けにくい」と言っているのである。これでは機種選定などできるはずがない。

 しかし、「一人1台」には「予算」という壁がある。値の張るiPadを捨てた理由はまさにそこにあった。この後、本来1回で終わるはずの「諮問―答申」が、なぜかもう一度行われることになる。

つづく


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