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樋渡流教育改革 ― デジタル教科書推進団体の道具だった!
武雄市タブレット端末教育事業 疑惑の機種選定(3)

2015年5月21日 08:10

DiTT 佐賀県武雄市が、当初「不存在」としながらHUNTERの追及を受けて開示に至った「武雄市ICT教育推進協議会」の議事録から、市内の小中学校で実施しているタブレット端末を使った教育事業の実相が浮き彫りとなった。
 結論から述べれば、樋渡啓祐前市長が進めたこの事業は、デジタル教科書・教材の普及を目論む企業や学者らで構成された団体「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」の実績作り。子どもそっちのけで、自分たちの活動を拡大させるための道具にされていた。(右はDiTTホームページ画面の一部)

機種選定、仕切りは「デジタル教科書教材協議会」 
 「武雄市ICT教育推進協議会」の会議開催は計5回。それぞれの議事録作成状況は次の通りとなる。

武雄市ICT教育推進協議会2

 まず、「武雄市ICT教育推進協議会」(座長:松原聡東洋大教授)の構成メンバーについて確認しておきたい。下は、武雄市への情報公開請求で入手した委員名簿である。

武雄市 ICT教育推進協議会 委員名簿

 12名の委員のうち、5名は地元武雄市の小中学校の校長・教頭。残り7名の内訳は、大学教授2名・准教授1名(市政アドバイザー)、大学研究員、NPO法人理事長、会社代表(市政アドバイザー)、国立研究所の研究員となっている。

 注目すべきは、ピンク色で示した4名。座長である松原聡東洋大教授、中村伊知哉慶大教授、菊池尚人慶大准教授、石戸奈々子NPO法人CANVAS代表は、デジタル教科書・教材の普及を目指す企業や学者らで組織された「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」(会長:小宮山 宏 三菱総研理事長)の主要メンバー。中村氏は同会副会長、石戸氏は理事を務めており、あとの二人もDiTT発足時からの熱心な推進者だった。武雄市ICT教育推進協議会の議事録によれば、武雄市のタブレット端末教育事業の方向性は、この4人が中心になって定めたと言っても過言ではない。

 DiTTのホームページには、会員企業「幹事15社・一般72社(05月13日現在)」の社名が掲載されており、Apple Japan、ソフトバンク、ベネッセコーポレーション、凸版印刷、東京書籍、富士通、Z会などデジタル教科書・教材に関係する企業がズラリと並んでいる。

 問題は、DiTTの発起人だ。下は、現在の教育事業の前段階として、武雄市が行っていた「iPad」教育事業の中核業務である『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』の事業者公募で、受注したソフトバンクグループのエデュアス(旧・汐留管理)が提出した提案書。「実績」のページには、グル―プの総帥・孫正義氏が「デジタル教科書協議会」(教材の二文字が抜けているが・・・)の発起人となってデジタル教科書の普及等に努めていることを誇らしげに記していた(赤いアンダーラインはHUNTER編集部))。調べてみると、孫氏の他に中村慶大教授も発起人。樋渡前市政とソフトバンク、そしてDiTTは、一本のラインで結ばれていた。

エデュアス提案書2

「議事録」が暴く事業の実態
 新たに開示された議事録とこれまでに入手した議事録を通読したところ、機種選定に深刻な疑義が生じているほか、タブレット端末を使った教育事業の目的が、主役である子どもたちを踏み台にした、一部関係者の実験及び実績作りだったことが明らかになった。主要とみられる議事録の一部を抜粋しながら、検証を進めていく。

 核心部分が記録されていたのは、平成成25年4月15日に、東洋大学大手町サテライ!教室で開催された第1回会議の議事録だ。参加者は、前掲の委員名簿12名中9名。武雄市側の校長ら3名が欠席していた。

 武雄市教育長の挨拶、座長選任、事務方からの経過報告と続いて始まった議論の冒頭、座長に就任した松原東洋大教授が早くも本性を露わにしている。

 松原:今日実は、1時から3時までですか、あのぅ、DiTTというデジタル教科書教材協議会の研究会を、私と、中村伊知哉、菊池、石戸の4名を含めてやってまいりました。そこでも、あのぅ、いろいろ具体的な議論がされましたので、どうしましょう、石戸さんからちょっとそのあたりの議論を踏まえて、あの、ちょっとこのあたりの表を見ながら「これいらんよね」みたいな外すからはじめた方がいいかもしれません。お願いします。

 石戸:そうですねぇ、えっと、一つわからない点があって、・・・が、どのOSが適しているか、どのサイズが適しているか、ということに関して、…(不明)…業界内で議論があって、終わっているわけではないというのが、ま、正直な現状ですね。

(中略)

 DiTTの関係企業さんなんかからすると7インチを導入してしっかりやったところが前例がないので、7インチをやったらどうなのかと実証実験をかねてどっかでやってほしいよねという声は、実際のところありまして、まさに新しい事例を先駆的にどんどん発信する武雄が7インチを、入れてくれるとほんとにありがたいなというふうに思っていたりするところもございます。

 座長を含む4名の委員が、DiTTのメンバーであることを宣言。どのOSが適しているのかという問いに対しては、指名された委員が「業界内で議論がある」とした上で、「DiTTの関係企業さんなんかからすると」→「新しい事例を先駆的にどんどん発信する武雄が7インチを、入れてくれるとほんとにありがたい」――完全にDiTT会員企業代理人の弁である。

 その直後の議論では、無責任さをさらけ出す。例えば次のやり取り。

 松原:中村さん、議論の風をきるというかたちで中村さんから。

 中村:今の答えを踏まえてどうかといわれると、どれでもいいんだという。

 石戸:そういうことです。

 中村:ということだと思います。ですから、そこは、私は武雄のみなさんが、まあ、こういうことをやってみたいとか、実際お使いになって、現場の先生の方が、こういうのがいいんじゃないかとかいう声をベースに最終的には決められるのがいいかなと思います。あのう、「これはいいんじゃないか」「あれはよくないんじゃないか」といろいろあったんですけれども、今現状そうなっているからといって・・・今のところ私はiPadminiにはまってしまって、それはちょっとあんまり参考にしていただきたくないんだけど、いいです。

 石戸:私的にも7インチにはまっていて、やっぱり女性陣は、手に持てる、重さがちょうどいいというのは、すごくよくて、・・・・という観点で やっぱり10インチ重いなと。

 菊池:わたしは一番大きいのは予算制約だと思うんですね、予算の中で、実現可能な中でという、どうせ2年間くらいで、どうせというと怒られますね、2年くらいすると様相もかわってくるでしょうから、今現在、そうですね、やっぱり2年くらいなんでしょうね、2年か、今年度入れても3年くらいしたらお金かけて入れ直すくらいの気持ちでいいんじゃないかというのと、かたや、そうは言ってもあのう、山内東小学校ですとか、武内小でiPad導入されてそこでのノウハウはあると思うんで、いかに、その、えっと武雄市の中で見えない知見ですかね、ノウハウを生かせて、無理せずにいけるかということで私はあの、iPad、私も使ってまして、Androidも使って、非常に、Windowsはあんまり使ったことないか。えっと、若干ですね、くらいですけれども……

 DiTTの委員たちは、自分のタブレット端末の使い勝手について述べているだけ。武雄の子どもたちにとってどれが最適かという最も肝心な視点を欠いている。「どうせ2年くらいすると様相もかわってくる」→「3年くらいしたらお金かけて入れ直す」という発言に至っては、開いた口が塞がらない。税金を使う事業であることを、まったく自覚していない暴言であろう。

 この後、DiTT代理人たちのふざけたやり取りは、ますますエスカレート。ついには機種選定に携わる資格がないことを、委員自ら白状するくだりもある。

 松原:あのぅ、一般論で横並びと、石戸さん伊知哉さんはminiが気に入っているという声と、それで、あのぅ、もうニュース等ながれていますけど、東京の荒川ですね、あのぅ、全生徒に配ろうということになっていて。これについてまだ非公表の資料ですか。

 石戸:これからはDiTTというか、DiTTとその他の・・・・DiTTと会員の関係で、あまり○×みたいなのつけられないというので……

 DiTTの会員企業には様々な企業が入ってるが、入っていない企業もある。DiTTの理事である自分としては「○×が付けにくい」と言っているのである。公平公正さを欠く委員の人選が行われていた証左だ。

 評価項目にアクセシビリティを加えるかどうかの議論では、座長が自民党のものと思われる「非公開」の資料を示し、次のように語っている。

 松原:ここ大事な観点ですね。ちょっとここでですね、先ほど、ええDiTTのメンバーから出た、まあ2年くらいかなという話があります。本来は、すべての学年に準備、整備しておくということなんですが、これ、あのう話では聞いていたんですが、今日初めて、文章を見せて、これはまだ非公開だよね、非公開の文章ですので、・・・。えっと、自民党がだいだいこの方針でいくということを固めたようで、逆に、われわれもこれを死守しますので、たぶんこれで決まっていく可能性が高いんです。これをちょっと見ますと2010年代中ごろですね、なかばに一人1台のタブレットPC を整備する。中頃というのはもちろん幅がありますけれども、15年16年くらいかなとなってくると、武雄は例えば2018年までに、全部に順次配っていくといったら、もう国から配られるという時代が想定されるということです。だから、やっぱり、このことは、まだ不確定な話ですけど、ちょっと念頭に置いといたほうがいいんだろうなということで急きょ、あのお見せいたしました。

 それから、あと一つ、ここですね、ここが大事で、2015年を目標に、小、中、高、特別支援学校を通じて一人1台のタブレットPC 、電子黒版、無線LAN が整備された拠点地域を全都道府県に合計100程度、先行的な教育システムを11開発と。で、やはりこのあたりのところで、長く、iPad が出て即導入した武雄市あたりにわれわれはとってもらいたい。あのぅ、まああの・・・とるよう
動きたいなとみたいなですね、あのう、そういうことを含めてありますので、その意味では、この下のまるぽつ1番目の項目を念頭に。それからちょっと、僕らの中で動いている話ではあって、それであのぅ、とるのにつなげていってみたいなことが、この市長の答申をですね、いくらか・・・・というときに大きなポイントになるかなという気もするわけです。ただ、これはほんとにまだ不確定ですけどたぶん現政権の方向性からすると、これが実際決まっていく可能性が高いとわわれわれ自身も、あのぅ、わたしも、・・・入れたんですが、自民党・・・あのぅ、デジタル教科書は民主党はだいぶ言ってたんで、最初は自民党はちょっと引いてたんです。僕もずいぶん働きかけたんですけど、反応が悪かったんですが。政権とって民主党消えてなくなるという確信を持ったらしく、民主党の言ったこと・・・へというかんじなのかもしれませんが、これはだいぶ高い確率で、その意味であのぅ、武雄市さんの予算の問題ととこういうところもちょっと踏まえながら、機種選定について考えていかなきゃいけないと。

 要は、自民党が2010年代中ごろまでに、一人1台のタブレットPC を整備する方針を固めた。DiTTもこの方針を「死守」する。ついては、武雄市もそのあたりの事情を踏まえて機種選定を行うべきだ、と言っているのである。ここでも「子ども不在」。政権が打ち出してくる政策と、DiTTのことしか頭になかったのだろう。この後も、DiTTと自民党案を自賛し、己の願望を述べる愚行が続く。

 石戸:ほんとに、あのぅ、DiTT ができれば、けんかを売るようなかたちでも、できるだけ前倒し前倒しを言おうということで、ずっと働きかけてきたんですが、今回でてきたこのペーパーというのは、まあ想像を越えて早いペースですすめてくれるのかなという、まあ、ある意味で予想を裏切られるような結果だったので、DiTTとしてはこれに上手くのってこれをどんどんどんどんさらに前倒しできるようなことができればなぁというふうに思ってます

 中村:まあ、地方でほんとうにこういうことをやってくれるんだったら、やりますという手がどれだけうまくあがるかということで大きくがらっとかわってくれる気がします。このなかでいくと、大阪市2015年度ですね。それから荒川区が2015年中といってましたかな、にやりたいという一番早いといわれている自治体と言われてまして、それよりも早くやるという自治体がでてくるのかどうか、……つまりそこらへんを、あのその他の自治体で、地方自治体でそういうことやりましようという手があがったら、全国的に。そうなると言い訳がきかなくなってきて、結構な数の日本、動き出すだろうなと期待しています

 松原:今、中村伊知哉さんがおっしゃったことは大事で、やっぱり自治体間競争があるだろうし、逆に武雄あたりが、その、今大阪とか越えてですね、インパクトのある動きをしていただくと、こういうこと白体が進むし、逆にこのなかで……

 樋渡前市長とDiTT におもねったのか、学校関係者の意見も、じつに低レベルなものだった。

 徳永:僕は、あのう、中学校なんですけれども、中学校はまだ入っていないですが、先生たちの間では、もう入るものと。あのぅ、 まあたぶんapple だろうと。もっと言ったら、たぶんiPadmini だよねという話を、ええ、してるくらいに職員の中では、要望もあるし、期待もあるというところですね。で、使い方については、来たら考えようと。で、それよりもこどもたちに1台ずつ、まあ、少なくとも1台ずつ子どもに手渡すことで、子どもたちが開発してくれるだろうと、使い方をですね。あのぅ、まあ、小学生と違って中学生くらいになると、それぐらいのノウハウはできるし、子どもたち家でまぁパソコン使ったり、iPad使って。うちフェイスブックもやっているんですけど、フェイスブックの中でも、子どもたちも書き込みをしてくるんですね。それくらいのノウハウはあるし、たぶんやりたいというような気持ちもあるので、ものがあったら、四の五の言わずに、ものがあったら、何でもやるよという感覚を受けています。で、まあ市長さんが言うことだからたぶん入るだろうと、今年中か来年中かはわからないけれども、早いうちに入るよね、そのときにあわてないでいいように、来たらみんながんばろうねというふうな雰囲気はあるので、やりたいという意臓が高い今、やれればいいのかなと思います

 松原:ありがとうございます。

 石戸:こういうデータ発表してほしいですよね。

 松原:そうですね。

 石戸:ねえ、全部の学校が強く希望したんだというのを表に出すと、ほかにも波及すると思うんですよね。iPad 持ってる子どもって、今もう、まったくいなくはないじゃないですか。専用端末で持ってる子、初めて。iPadmini持っている子どもって日本中にあんまりいないはずなので、すごい先端をいってるかんじがしてこどもたち嬉しいんじゃないでしょうか。

 校長先生のご意見には呆れるばかりだが、最後の委員発言には憤りを覚える。「先端をいってるかんじがしてこどもたち嬉しいんじゃないでしょうか」――あまりに幼稚。この愚劣な感覚で億単位の税金を投入する事業の方向性を決めたのである。終始一貫「DiTT」。“成績向上のためには、どのような機種が望ましいか”という議論は一切なく、「一人1台」の端末支給だけが目的化していた。武雄の子どもたちは、孫正義氏らが提唱している教科書・教材デジタル化のための実験台。タブレット端末教育事業は、DiTTで飯を食う者たちの道具に過ぎなかったと言えよう。この後、何がなんでも「一人1台」が、タブレット端末の機種選定をますます歪める形となっていく。

つづく
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