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急浮上した恵安製PC
武雄市タブレット端末教育事業 疑惑の機種選定(6)

2015年5月26日 08:55

武雄市役所 「何がなんでも一人1台」――樋渡啓祐前市長が推し進めた市内の全小中学校におけるタブレット型端末を使った教育事業は、機種選定役を担った同市の諮問機関「武雄市ICT教育推進協議会」(座長:松原聡東洋大教授)を牛耳った「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」(会長:小宮山 宏 三菱総研理事長)の委員たちによって、大きく歪められていた。
 武雄の教育界もこれに迎合。結局、「一人1台」のPC整備だけが目的化し、子どもの成績をどう上げるかといった議論はなおざりにしたまま、機種選定過程は異例の展開を見せることになる。(写真は武雄市役所)

不可解な再諮問―浮上した恵安製タブレット端末
 自治体の事業をめぐる「諮問―答申」は一度で終わるのが普通。しかし、「一人1台」に固執したことでiPadを選べなくなった樋渡市政とDiTT所属の委員たちは、信じられない形で方針転換を図る。一次答申を受け記者会見まで開いていた樋渡氏が、6月、協議会に対し次の3点を再諮問したのである。

  • 市内小中学校の児童生徒に整備するタブレットPCの具体的機種
  • タブレットPCに整備するコンテンツそれぞれが持ち合わせた方が望ましい機能
  • デジタル教科書デバイスの効果的な導入・運用に向けたハード面・ソフト面での望ましい環境

 一次諮問で「武雄市立小中学校の児童生徒に整備するタブレットPCの機種」としたところに『具体的』と入れて、あたかも必要な過程であるかのように見せかけているが、これはiPad以外のタブレット端末を誘導するための姑息な手法。2点目、3点目の諮問内容は、付け足しだった可能性さえある。ここで、もう一度機種選定の流れを確認しておく。

武雄市 ICT教育推進協議会

 二次諮問を受けての第2回協議会。座長の松原東洋大教授が参加した武雄市役所での会議だったが、なぜか正確な「議事録」は存在しておらず、会議の概要を記した書類が残るだけ。それによると、iPadという記述は一切なく、機種やコンテンツなどを選ぶ場合の留意点を確認しただけで終わっていた。

 第2回協議会の東京会議は、さらに不可解な動きを見せる。同会議の模様については、要点をまとめた文書だけが残されている。それによると『OSでは、アンドロイド、ios、ウィンドウズ』という一次答申の内容に従って、提示されたOSの該当機種について、業者を呼んでの聞き取りを実施していた。この場に呼ばれた企業とそれぞれの対応OSは次の通りだ。

  • Apple→ios(iPad)
  • amazon→アンドロイドを基本(Kindle)
  • パナソニックソリュージョンテクノロジー→アンドロイド(恵安製端末)
  • マイクロソフト→Windows(機種不明)

 Apple、amazonは、それぞれiPadとKindleという特定の機種を持つ。これに対し、マイクロソフトのWindowsに対応する機種は様々。同社が、協議会に特定機種を持ち込むのは難しかったはずだ。一方、アンドロイドを開発したのはGoogleのはずだが、協議会には呼ばれておらず、出てきたのはなぜかパナソニックソリュージョンテクノロジー。数ある機種の中から、同社が取り扱っていた恵安社製の端末を持ち込み、説明を行っていた。何故パナソニックだったのか、わけを知ろうにも議事録等の記録にはなにも記されていない。ちなみに、amazon以外のApple、マイクロソフトはDiTTの会員企業。パナソニック系列ではパナソニック システムネットワークスが会員になっている。

 メーカー側の説明後、それぞれの機種について評価を行い、「使いやすさではiPadmini、価格ではAndroid」(松原座長)という形で二つの機種に絞り込んでいた。このあたりから、アンドロイド=恵安製タブレットが優位に立っていく。理由が、これまで報じてきた「一人1台にPC整備」にあったことは言うまでもない。この時の会議におけるDiTTメンバーの発言は、そうした意味で非常に興味深い。説明を終えた業者を前に、DiTT副会長の中村伊知哉慶大教授と松原東洋大教授はこう言い放っていた。

中村:1人1台年間1万円(保守料全て込み)で導入できたら、他の自治体でも導入したいという話は聞いている。これができれば一気に拡がる

松原:今日はありがとうございました。

  • こちらもタイの端末を紹介し問題提起をさせてもらった。
  • 中村伊知哉さんからもあったように、保守料込で1人1万円という話も出始めている。
  • 自民党もデバイスを1人1万円でできないのなら海外発注を考えている

 ・・・中略・・・
 
  • 8月中旬に実際の機種を答申していく。現段階でまだ案は決まっていない。また、4,000台同じ機種にするのか、複数の機種にするのかも決まっていない。今回来てもらった業者から決めるということでもない。今後情報収集させてもらいなかがら作業を進めていく。

 武雄で「一人1台」が実現すれば、その動きが全国に広がる。そのためには価格の高い端末はいらない。1人1万円が無理なら、海外発注もある――教授二人の発言は、つまりそういうことだ。子どもの成績向上という教育的見地からの発言は皆無。業界団体の野望を、大学教授が代弁しているに過ぎない。この会議の最後、座長の松原教授は「デバイスの資料に恵安を加える」と明言していた。

 「8月中旬に実際の機種を答申していく」としていた松原座長だったが、作業が遅れたのか8月に出たのは「中間答申」。それまでの議論内容をまとめた程度のもので、お茶を濁していた。“時間稼ぎ”を行った、と見る方が自然だろう。

地元で否定された恵安製タブレット
 第3回協議会は、武雄会場での開催のみ。DiTT組の4人は参加しておらず、武雄市の教育関係者だけで協議していた。残された議事録はまたしても概要版。詳しい議論の中味は分からない。そして、この協議会において実機を使った説明を行っていたのは、第2回東京会議にも呼ばれていたパナソニックの担当者だった。「使いやすさではiPadmini、価格ではAndroid」として二つの機種に絞り込んでおきながら、iPadを扱うAppleの担当者は不在。パナソニックの担当者が持ち込んだ端末は、もちろん「恵安社製」だった。誰かが意図的に恵安製タブレットを売り込んだ――そう見られてもおかしくあるまい。

 ただし、この場にDiTTのメンバーがいなかったためか、武雄の教育関係者たちは、恵安製タブレットに厳しい評価を下していた。下は議事録の最後に記されたその記述(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

恵安製タブレットに厳しい評価

 要約すれば、“恵安製端末は安価だが、問題点が多々あり機種選定に係る優位性は認め難い。使うなら条件付き”――これが武雄市側の意見だったのである。事実上の恵安社製否定。樋渡氏やDiTT関係者の、あわてた顔が思い浮かぶ。

 結局、協議会が最終答申を出したのは9月中旬。OSについて「ios7以上」、「Android4,2以上」、「Windows8/RT」と定めただけで機種の絞り込みを避け、武雄市に下駄を預ける形で幕を閉じていた。「8月中旬に実際の機種を答申していく」としていた松原座長の方針はあえなく頓挫。それでも、事態はDiTT側の思惑通りに進んでいく。

つづく


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