今月22日、首相官邸の屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった。機体に取りつけられていたプラスチック容器からは放射性セシウムが検出され、新聞・テレビの報道はドローン一色。警備のもろさを露呈した政府は、法規制の検討を迫られることになった。
報道から数日で犯人は自首。容疑者の行為は決して許されるものではないが、安倍政権が進める重要課題に冷や水を浴びせたのは事実のようだ。
(写真は首相官邸)
「戦争好き」の足もとは無防備
事実上の改憲まで行って、集団的自衛権の行使容認に踏み切った安倍首相。当初、海外邦人の保護を根拠として挙げていたが、安全保障法制をめぐる議論が進むにつれ、自衛権行使の範囲がとめどなく広がっているのが実情だ。
海外での武力行使に国民の負担が増えるのは必至。安倍が目論む法整備が実現すれば、自衛隊の戦力を充実させるため何十億、何百億単位の予算が必要となるからだ。
一方、問題の「ドローン」はといえば、1台1万円前後の値段で購入が可能。ネット上はもちろん、電気量販店でも入手することができる。右は容疑者のものと思われるブログに登場するドローン。まだ何台も保有していたことが分かる。
「国民の安全を守る」と息巻いてきた首相のいる官邸が、子どもでも手に入るドローンに警備の隙を突かれたというのだから、シャレにならない。「9.11」(アメリカ同時多発テロ)は航空機を使ったテロだったが、日本の最高司令官は学習することができなかったらしい。自分の頭の上のハエも追えないで、何が安全保障か……。
原発 ― 上空も海側もテロには無防備
官邸ドローンの容疑者は昨年、九州電力川内原子力発電所(薩摩川内市)の周辺でドローンを飛ばし、施設内を撮影していたという。ドローンを使った原発撮影は他にも例があり、上空がまったくの無防備であることをさらけ出した形だ。下はその川内原発を海側から見た写真。監視カメラはあるものの、侵入は容易だ。次の写真が九電の玄海原発(佐賀県玄海町)。こちらも、海や空からの侵入には無防備である。
今月14日、福井地裁は関電高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働差し止めの仮処分を決定。しかし、鹿児島地裁は22日、川内原発1、2号機の再稼働差し止めの仮処分請求を却下し、司法判断が割れる格好となった。鹿児島地裁の裁判官には“想像力”がなかったということだろう。原発に「絶対の安全」などないことは、原子力規制委員会が認めていること。しかも、安全基準の審査にはテロ対策は含まれていない。北朝鮮や過激派がドローンを使うか、あるい海側からテロを仕掛けたとすればどうなるか――現状を見れば子どもでも答えが分かる。
一体のドローンが突き付けた現実を、安倍首相はどう見ているのだろう……。