市内の小・中学校で、佐賀県武雄市が進めてきたタブレット型端末を使った授業。樋渡啓祐前市長の発案で実現した施策とされるが、実情を検証するための情報公開請求の段階で隠ぺいが相次ぎ、公費投入の妥当性が疑われる状況となった。
相次ぐ文書の隠ぺいが物語っているのは、後先を考えずに突っ走った「改革市政」の歪み。何度も市役所に足を運ぶなか、市民をないがしろにした樋渡前市政の実態が浮き彫りになりつつある。
(写真は武雄市役所)
隠される「不都合な真実」
HUNTERが提出した5件の情報公開請求に対し、当初武雄市側がその存在自体を否定したものが2件。『タブレット型端末導入までの過程がわかる文書』と『タブレット型端末のトラブル(故障・不具合)に関する文書』である(下参照)。
・タブレット型端末導入までの過程がわかる文書 ⇒ 存在を否定。後に開示
・機種選定の過程がわかる文書
・タブレット型端末の購入もしくはリース契約に関する文書
・タブレット型端末のトラブル(故障・不具合)に関する文書 ⇒ 存在を否定。後に開示
・タブレット型端末導入授業の評価に関する文書 ⇒ 評価・検証未実施
このうち、端末のトラブルを示す文書については、各小学校から提出された『タブレット端末不具合報告書』が残されていることを市教委が認め、渋々開示。その結果、購入された3,153台のタブレット端末のうち、287台に故障・不具合や不具合が発生していたことが判明している。タブレット端末授業が始まった昨年の4月9日だけで23台もの初期不良が報告され、その後も毎月数十台のペースで機材不良が発生。不良品率は、8%を超えていた可能性もある。市側が隠したかったのは、「不良品の山」と言っても過言ではない事業の実態だった。
一方、「タブレット型端末導入までの過程を示す文書」は、16日に実施された3度目の情報開示で全容がつかめたものの、いまだ不完全。20日になっても、新たな文書の存在が明らかになる始末だ。原因は、一部の文書を間引きして「これで全部」を繰り返す市側の姿勢。武雄市は、情報公開制度を恣意的に運用しており、開示決定期間を勝手に延長したり、都合の悪い文書を隠すことが常態化している。「不都合な真実」は組織ぐるみで隠ぺいする――これが「改革市政」の正体である。
抜き取られていた「18枚」
武雄市への情報公開請求を通じ、市内すべての小・中学校にタブレット型端末を導入するまで、4段階のステップを踏んできたことが分かった。年度ごとに整理すると、次の順番で事業を積み重ねている。
段階ごとの事業の内訳については次稿で詳述するが、こうして見ると、平成22年度まで「iPad」を使った実証研究を行いながら、25年度になって方針転換。それまでの成果を無駄にしかねない選択を行っていたことが分かる。同年度に購入したタブレット端末のOSは「ios」ではなく「Android(アンドロイド」。アップル社製の「iPad」から恵安株式会社(東京都)の「KEIAN M716S-PS」に替わっていた。何故か――?
ここで事業の検証に必要となるのが「機種選定の過程がわかる文書」。市が設置した機種選定委員会の議論の様子から入札までの過程が示されているはずだ。ところが、開示された関連文書を精査した取材班は、肝心な文書が欠けていることに気付いた。選定過程のうち、ある部分だけが抜き取られていたのである。この点について、3度目の開示で市側を厳しく追及。ようやく出てきたのが下の写真にある18枚の文書だった。
市側が最後まで隠そうとしていたのは、タブレット端末を購入するにあたって行われた機種選定の「評価採点表」。武雄市は、公費投入の妥当性を担保するため最も重要となる文書を隠ぺいしようとしたのである。不正が疑われてもおかしくはあるまい。
端末選定委員を黒塗り非開示
不正を疑わざるを得ない事実が、まだある。機種選定を巡っては、よりタチの悪い隠ぺいが見つかっているのだ。下は機種選定委員会の委員名簿(黒塗りは武雄市。画像のぼかしと赤い矢印はHUNTER編集部)だが、8名の選定委員のうち『ICTに関した有識者』2名の氏名と職業は黒塗り非開示。保護者代表の氏名を非開示にするのは理解できるが、公費を投じた事業に関わった人物の素性を隠すなど、他の自治体では考えられない。「ICTに関した有識者」を明らかにするよう求めたが、市側は頑として開示を拒否している。
タブレット端末を使った教育事業の背景に何があるのか――次稿では、さらに詳しい検証を試みる。