今年3月、地元の反対を無視して伊藤祐一郎鹿児島県知事が建設を強行した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(薩摩川内市)をめぐり、事業主体である県の外郭団体「鹿児島県環境整備公社」が、地域支援金を餌に処分場の是非を争う裁判をつぶそうと画策していたことを報じた。
建設反対を唱える自治会の役員らに届けられたのは、自治会総会で訴訟取り下げを提案するための議事文書。被告である公社が、原告に圧力をかけるという暴挙だった。
確たる証拠を前に裏工作を認めたはずの公社だったが、念のため行った情報公開請求に対し、「文書不開示」を通知してきた。“組織ぐるみ”を否定したつもりのようだが……。
専務理事が裁判つぶし画策
裁判つぶしの先頭に立っていたのは、県職員で公社の専務理事(事務局長を兼任)を務めていた横山隆一氏。同氏は昨年12月、処分場建設に反対の立場から、公社を相手に「産業廃棄物処分場建設差止請求」など3件の訴訟を起こしている地元自治会関係者に、『議案の提案理由説明(案)』と『臨時総会 提案議題(案)』をFAX送信したり直接手渡しするなどし、原告から降りるように仕向けていた。下が、その文書である(クリックで拡大)。
議案は、現在進行している3件の訴訟を取り下げ、県及び公社側と「環境保全協定」を締結したうえで御用団体「エコパークかごしま連絡協議会」に参加することを呼びかける内容。訴えられた県側が、裁判終結のために裏工作を展開していた証拠だ。
裏工作の材料となったのは、処分場周辺の自治会に支給している3億円の「自治会活動等支援金」。県と公社は、処分場建設に賛成した自治会だけに支援金をばら撒いており、これをチラつかせて裁判つぶしを目論んだ形だ。支援金の前提となっているのが「環境保全協定」の締結と「エコパークかごしま連絡協議会」への参加。「支援金が欲しければ、現在進行している3件の訴訟を取り下げ、県の軍門に降れ」ということだ。
問題の文書を自治会側に届けたのが、横山専務理事だったことを示す証拠も残されている。下の2枚の付箋紙がそれ。自治会側に届けられた『議案の提案理由説明(案)』と『臨時総会 提案議題(案)』に、貼り付けられていたという。
メモの文面は、あて名が違うだけでまったく同じ。そこには、こう書かれている。
いつも御世話になっております。 12日(金)の臨時総会に向けて、5日(金)の役員会で協議していただくよう、別添の資料を3日(水)に会長、副会長にお渡ししました。 役員会で話題として説明がなかったとのことですので、誠にせん越ですが、お届けします。 御一読いただき、総会でしっかり議論されますようよろしくお願いします。横山
地元関係者の証言によれば、横山氏は臨時総会を前に自治会役員らと度々接触。処を受け取るためには訴訟(「産業廃棄物処分場建設差止請求」など3件)を取り下げ、県及び公社との間で「環境保全協定」を結んだうえで、御用団体である「エコパークかごしま連絡協議会」に参加する必要があると説き続けていたという。議事案まで作って裁判つぶしを狙ったものの、工作は失敗。地元民の怒りを買っただけで終わっていた。その過程で残されたのが、上掲の「横山メモ」だった。
公社側は当初、HUNTERの取材に対し、『議案の提案理由説明(案)』と『臨時総会 提案議題(案)』の存在を否定。一連の文書を「知らない」「見たことがない」ととぼけていたが、「横山メモ」のコピーを突き付けられ、「横山さんがひとりで頑張っているのは知っていた」「自治会側と、いいところまでいっていると思っていた」として、裏工作を事実上認めた形となっていた。HUNTERは、公社側の姿勢を確認するため、一連の文書及びFAXの送信記録を情報公開請求していた。それから1か月……。送られてきたのは、下の「文書不開示決定通知」だった。
“組織ぐるみ”の証明
不開示理由は『開示申出に係る文書は、保有していません』――たったこれだけの答えに、1か月もかけるというふざけた対応。しかも、必ず残るはずのFAXの送信記録までないという。不開示通知を受け取ってすぐ、公社の対応に抗議した。以下は、そのやり取りの概要である。
記者:専務理事が作成した文書は、公社のパソコンを使ったものとみられる。データも残っていないのか?
公社:そこに書かれている通りだ。
記者:FAXの送信記録がないとは思えない。公社の機材を確認しているが、送信記録は残るはず。なぜ隠すのか?
公社:確認したが、ないということだ。
記者:隠ぺいするということか?
公社:ないものはない。
取り付く島もない対応で、完全に開き直った格好。公社は、どうあっても“組織ぐるみ”を否定したいらしい。しかし、このFAX送信票は、明らかに鹿児島県環境整備公社が使用しているもの。横山氏は、公社のFAXを使って問題の議事案4枚を送信していたのである。左下は公社のFAXから議事案を送信した時の「FAX送信票」。右下はHUNTERの記者が先月、公社に情報公開請求のための用紙を送信してもらった際に添付されていた「FAX送信票」である。文書の傾き具合も、上部にある日時等の印字形式もまったく同じだ。
横山氏が議事案をFAX送信したのも、地元自治会の役員らに届けたのも平日午後の勤務時間内。つまり裁判つぶしは、公社の、「業務」として行われていたことになる。他の幹部も経緯を知っていたというのだから、組織ぐるみだったことも確かだ。横山氏本人か、先月取材に対応した公社の次長に確認するよう申し向けたが、返ってきたのは驚きの答えだった。
――聞こうにも、横山も前次長もおりませんから。。
鹿児島県は、現場組織のトップとナンバー2を、そろって異動させていたのである。臭いものには蓋――これが伊藤県政の実態だ。しかし、どれだけ隠ぺいを図っても“動かぬ証拠”を握りつぶすことはできない。