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改革市政と記者クラブ

2015年4月15日 09:35

記者室 佐賀県武雄市が実施している、小・中学校の児童、生徒を対象としたタブレット型端末利用を使った教育事業について、実態を明らかにする取材と報道を続けている。
 まだシリーズの入り口ではあるが、一連の報道に対する反響は記者が驚くほどの大きさ。ご意見メールが後を絶たない。ほとんどが「徹底的に調べろ」という励ましの内容なのだが、どう対応すべきか困るものもある。「樋渡氏が市長在任中に報道すべきだったのではないか」というご批判だ。
 “ごもっとも”と言いたいところだが、まず批判されるべきは、デタラメな市政を容認してきた武雄市議会と報道。とりわけ、責任が重いのは、武雄市役所の中に部屋を持つ「記者クラブ」ではないのだろうか。

「改革」が注目された武雄市だっが……
 武雄市が注目を集めてきたのは、同市が数々の先進的な取り組みを行ってきたからだ。公立病院の民営化、レンタル大手「TSUTAYA(ツタヤ)」と組んだ図書館再生、フェイスブックを活用した農産物の販売、学習塾「花まる学習会」(さいたま市)との提携など、樋渡啓祐前市長の行ってきた施策は確かに斬新。市内の全小・中学生に対するタブレット端末を使った授業も、その一つだった。

 一方、「改革派市長」として脚光を浴びる存在だった樋渡前市長の強引な政治手法に、厳しい批判が存在したのも事実だ。批判は主としてネット上で行われたもの。トップダウンで物事を進め、反対意見に耳を傾けようとしない樋渡氏に、反発が出るのはやむを得ないことではあった。

 問題は、批判に対する市長としての対応。樋渡氏は、意に沿わぬ相手に対してTwitterなどで『気色悪い』『ゴキブリ以下』とつぶやくなど徹底的に痛めつけたのである。幼稚としか言いようがないが、政治家がこうした態度に出る場合、裏に不都合な真実が隠されているケースが少なくない。

 ネット上の騒ぎはまさに“炎上”といった状態だったが、この間、樋渡市政の個々の施策を厳しく検証した報道にはお目にかかった記憶がない。少なくとも、大手メディアが、樋渡市政を糾弾したケースは皆無だったのではないだろうか。要は「不作為」。権力の監視を使命としているはずの報道機関が、「権力の犬」となっていた証しである。

 記者クラブの弊害については、これまで度々指摘し、批判を続けてきた。役所の広報と化した記者クラブが、国や地方の歪みを助長する役割を果たしているからだ。そして武雄でも、同じことが起こっていたのである。

眠る記者クラブ
記者室2 右は、武雄市役所の中にある「記者室」。入口に机の配置図が貼ってあったが、佐賀新聞社、読売新聞社、西日本新聞社、毎日新聞社、朝日新聞社、武雄テレビの6社に、席があてがわれている。

 NHKをはじめ他社の記者も市政記者会(記者クラブ)に所属しているはずだが、武雄市に拠点を置いて取材活動を続けているのがこの6社ということだ。地元のケーブルテレビ(武雄テレビ)は別として、新聞5社の記者たちは、不作為を続けてきたとしか思えない。武雄市へ情報公開請求を通じて確信したが、同市は報道機関の厳しい追及を受けたことがないはずだ。当然あるべき公文書を平気で「ない」と言えるのは、その裏返しなのである。

 武雄市の記者クラブが樋渡氏を追及しなかった理由は容易に想像がつく。同氏を「改革派」として持ち上げたのが、他ならぬ記者クラブだったからだ。その結果、力を持った樋渡氏を、厳しく追及することができなくなったというのが実情だろう。樋渡市政に“媚びた”ということだ。この点については、佐賀県教委が行っている県立高校のパソコン授業についても同じである。報道が委縮し、やるべきことを怠れば、そのツケを払うのは県民、市民。もちろん、皆が新聞の読者であることを忘れてはなるまい。



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