昨年11月の福岡市長選挙で、2期目の当選を果たした高島宗一郎市長(写真)の陣営に、複数の地場企業幹部や社員が「選対」の一員として組み込まれ、選挙戦の手伝いをしていたことが明らかとなった(20日既報)。
HUNTERが独自に入手した文書や取材によれば、そのうちの1社は「九電工」。九州電力グループに属する電気設備工事会社である。同社は、福岡市から何件もの工事を受注しており、選対メンバーに対する給与が会社から支払われていれば、公選法が禁止している寄附だった疑いが生じる。九電工と市長の関係について、改めて検証した。
出向なら「非公式」
取材の発端は、高島事務所関係者の内部告発。複数の企業関係者が、出向の形で市長の政治活動や選挙運動を支えていた――というものだった。出向が事実なら、企業側から市長への「寄附」があったことになる。市長陣営が福岡市選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書を確認したところ、収入は福岡県不動産政治連盟(30万円)、自由民主党本部(200万円)、市長の資金管理団体「アジアリーダー都市研究会」(500万円)、福岡商工連盟(20万円)、福岡県歯科医師連盟(30万円)からの5件、計780万円だけとなっていた。個別の企業からの寄附は1件もない。(下が報告書の該当ページ)
次に、確認したのは人件費支出。報告書の支出欄に記載されていたのは、「車上運動員」の8名のみ。事務員や労務者への支出はなかった。他に選挙運動や事務を行っていた者がいれば、それらはすべて「ボランティア」だったことになる。(下が報告書の該当ページ)
市長陣営の選挙運動費用収支報告書には、企業からの寄附も、企業関係者への人件費支出もない。これは、公式な形での企業出向が“なかった”ということを示している。寄附の記載漏れか、あるいは完全なボランティア。もう一つ考えられるのは、「裏の寄附」である。
流出した選対文書にあったのは……
HUNTERは、別ルートで高島陣営の内部文書を入手。内容を精査し、裏付け取材を進めた。
まず初めに注目したのは、選対の中で「企画」に入っていた人物。下は、HUNTERが入手した選対の出勤簿だが、高島市長の秘書である伊藤知晃氏の下に、告発者が明かした会社員の氏名が明記されていた(赤の書き込みはHUNTER編集部)。
出勤簿の左上には「10月15日~11月16日」とある。高島市長の事務所開きは10月7日。市長選は11月2日告示、16日投・開票の日程だった。つまり、この会社員は、選挙前の早い時期から選対のメンバーとして組み込まれていたことになる。会社員本人と高島選対との間に、約束がなければこうはならない。
この会社員が、選挙戦において実務を行っていた証拠もある。下は、高島市長の出陣式当日、それぞれの選対メンバーが何をやるか、分担を図で示した文書だ。『受付』の囲みの中に、会社員の氏名と携帯電話の番号が明記されていた。そこから下に『来賓・報道』、『一般』と囲みが延びており、会社員の氏名・携帯番号は『来賓・報道』にも記入されていた。会社員は、受付業務の全体を統括していた形となっている。
選対メンバーは「九電工」の現役課長
この会社員の所属企業について取材を進めるうち、九州電力グループの電気設備工事会社「九電工」に、同姓同名の社員がいることが判明。選対関係者からも、九電工の社員が選挙の手伝いに来ていたとの証言も取れた。HUNTERは確認のため、分担表にあった会社員のものと思われる携帯電話に連絡を入れた。以下は、その時のやり取りである。
―― ○○△△さんですか?
課長:はい。
―― 高島市長の選対におられましたよね?
課長:いいえ。いないですね。
―― ○○△△さんですよね。高島事務所におられた○○さんではありませんか?
課長:まぁ、事務所には行ってましたけどね。
―― ○○さんのお勤め先はどちらですか?
課長:会社ですか?言わなきゃいけないんですかね。
―― お話になれないということなら、結構ですが。わかっていますから。
課長:まぁ、そうですね。会社は九電工です。バスが来たんで、切らしてもらいますよ。
高島選対で「企画」担当の選対メンバーとなっていたのは、やはり九電工の社員だった。選対への参加を、当初は否定。次いで「まぁ、事務所には行ってました」という表現で、高島事務所への出入りがあったことを認めている。この後、何度も携帯を鳴らしてみたが、九電工の課長とは連絡が取れない状況となっている。
九電工本社に確認したところ、高島選対のメンバーになっていたのは九電工開発営業部の現役課長。歴とした幹部社員であることが明らかとなった。九電工は福岡市発注の工事を数多く受注してきた実績のある会社だ。出向が表沙汰になれば、公選法違反を疑われる事態になるのは必至。ましてや市長選。利害関係が濃すぎて、通常なら選挙の手伝いなど許されない。出向であろうと、個人的なボランティアであろうと、危ない橋は渡れないはずだ。
問題は、九電工課長の選挙参加に違法性があるか否か。カギになるのは福岡市と九電工の「利害関係」の有無である。まず、公選法に直結する「請負契約」について調べてみた。